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第68話 劣等生達の企み

 アイス達が校舎裏で悪い笑みを浮かべていた同時刻。

 Cクラスでは、『ロード・オブ・ウィザード』を志す少年————フェンとその学友が、夕暮れ時の教室で魔法の課題に頭を悩ませていた。


『アース・ランプ』


 フェンが魔法陣の描かれた羊皮紙に杖を向け、呪文を唱える。

 魔法陣はフェンの魔力に呼応し、眩く光り始めた。


 すると、土の塊が魔法陣の上空に出現した。


「————ハァ……ハァ……」


 生み出された土の塊は、幼児が作った継ぎ接ぎの泥団子のような様子で、とてもじゃないが攻撃に使える代物ではなかった。

 フェンは呼吸を整えようと息を吐き、杖を下ろすと、土塊は地面に落ちてボロボロに砕けちる。

 それと同時に魔法陣の光が収まり、羊皮紙の端に文字が浮かび上がった。


 魔法によって生成されたそれには、『魔力C+、魔法精度C-、行使速度C-』と書かれていた。


「クソ……」


 フェンは羊皮紙が導き出した自身の実力に苛立ちを覚える。

 陽光が教室の窓から斜めに差し込み、土が砕けたことによって埃っぽくなった空気が金色に輝いていた。


 土属性魔法、『アース・ランプ』

 魔法の属性の中でも、土属性は基礎中の基礎だ。

 あらゆる生物や植物が土から生まれるように、空気中のマナのほとんどが土から生まれる。

 だからこそ魔法で最も扱いやすく、マナによって生み出しやすいのが、土という物質である。


 ————とは、授業で口酸っぱく教えられたが、実際には上手くいかないものだ。


「————ああ、クソだりい……こんな魔法が何になるってんだよ」


 ショーイが気怠そうに机に突っ伏す。


 魔法学校の課題は、古代からの呪文の解読から現代魔法理論まで、専門的な知識を細部にわたって問われることもあれば、このように基礎魔法を地道にやらされることだってあったりする。

 机の上には、様々な基礎魔法陣が描かれた羊皮紙が広げられ、その周りには授業で使用する魔導書が積み上げられていた。


 Cクラスとはいえ、簡単に片付けられるような内容ではない。


「Cクラスでもこれってんだから、もっと上のクラスはどんだけだよ……」


 クラスの階級はA、B、C、Dクラスと分かれており、上位クラスになればなるほど、授業の難易度は飛躍的に上昇する。

 フェン達にとっては、まだ想像すら及ばないほどの世界だ。

 教室の窓から見える上級クラスの塔は、まるで別世界の建物のように威圧的に(そび)え立っている。


「そういえば、今年の『ロード・オブ・ウィザード』、案外イケメンだったね」


「おいおい、あんな奴が好みなのかよ」


「あんなどこから見ても優等生って奴と、私が合うわけないでしょ? 顔だけはいいなって思っただけよ」


 ショーイとエリナの他愛もない会話が、夕暮れの教室に響く。

 確かに去年の『ロード・オブ・ウィザード』は、自分の家柄をひけらかして自身の力を誇示するようなイケすかない奴だった。

 それに比べれば、今年の首席は大人しそうでいくらかマシかもしれない。


「しかも、次席があの()()()()()らしいじゃない。それよりも強いって、どんだけなのよって感じじゃない?」


「らしいな。俺達が今頭を悩ませている課題なんか、一瞬で終わらせちまうんだろうな」


 そこまで言って二人は顔を見合わせると、また大きくため息を吐き、机に突っ伏す。


 この魔法学校の試験では、いかなる不正も許されない。

 すなわち、あの好青年の首席様は、伝説の魔女すらも凌駕するほどの実力者というわけだ。


 だが、どんな奴であろうと関係ない。

 何かをしなきゃいけないのだ。

 こんなところで、課題に頭を悩ませていたところで、なんにもならない。


 自分が『ロード・オブ・ウィザード』になるために、手段を選んでいる場合ではない。

 やれることはなんでもやる————その決意が、フェンの瞳に危険な光を宿らせた。


 そのためにまず————



「首席だろうが、優等生だろうが、編入生は編入生————」



 ふと、フェンが呟いた。

 エリナとショーイは、フェンのいつもと違う低い声に、思わず注目する。


 なにかよからぬことを考えているのを察したのか、二人とも眉を(ひそ)めた。

 夕陽に照らされた教室に、不穏な空気が漂い始める。


「フェン、お前何考えてんだ?」


「どんだけ優秀だろうが、まだこの学校に慣れてない田舎者であることには変わりないだろ? ってことは、()()()()()()()()をやるターゲットになるんじゃないか?」


 フェンの言う新学期恒例のあれとは————通称、『編入者狩り』だ。


 編入者は新たな学校生活にまだ慣れていない。

 しかも、途中から編入してくるような者は決まって都会の暮らし方を知らない————家の鍵すら持って歩かないような田舎者だ。


 そのような危機管理能力の低い者を騙し、金品を奪い取る。

 それが『編入者狩り』の常套手段であり、フェン達はその常習犯だった。


 だが、流石にショーイが苦言を呈する。


「お前本気かよ。相手は『ロード・オブ・ウィザード』だぜ? この学校で最強の魔法使いなんだぜ?」


「何? ビビってんのかよ」


「び、びびってねえし……」


 ショーイはこんな風に煽ってやると、割と簡単に乗ってくる傾向がある。


 フェンはずっと考えていたのだ。

 魔法の知識も技術も足りてない自分が、どのようにして『ロード・オブ・ウィザード』になるか。


 真っ向勝負で勝てないなら、絡め手を使うしかない。

 卑怯な手を使ってでも、僕より上の順位の奴を貶めて這い上がる。

 極端な話、フェンより序列が上の生徒が全員退学になれば、フェンが首席だ。


 カナを救うためなら、なんでもやると心に決めていた。

 たとえ、どんなに汚い手だろうと————


「確かに人畜無害そうだったからね……金もめっちゃ持ってそうだし————ありかも」


 エリナは意外にも乗り気な様子を見せる。

 こいつはリスクリターンの勘定が得意だ。

 金銭に対して多少盲目的なところがあるが、今朝の『ロード・オブ・ウィザード』の様子を見て、()()()と判断したのだろう。


 そして、二人の視線はショーイに集まる。

 夕陽に照らされた教室で、三人の影が長く伸びている。


 すると、ショーイは観念したかのように溜め息をついた。


「わーったよ……やるよ」


「決まりだな。明日の午前中、一等寮に集合だぜ」


「お前イカれてるよ。絶対早死にするからな」


 ショーイは捨て台詞のようにそれだけ言い残し、「便所!」と言って教室から出て行った。



 僕が早死にしたって構わないさ。

 その分————カナが生きてくれれば、問題ない。



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