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第66話 星を見る人

 最初の授業は滞りなく終わる。

 窓から差し込む午後の柔らかな日差しが、教室内に金色の帯を作り出していた。


 先生が杖と教科書を持って教室を後にすると、アイスの元にぞろぞろと生徒達が集まってきた。


「編入試験何点だったの!?」


「得意魔法は!? 好きな魔法の系統は何だ!?」


 クラスメイト達は矢継ぎ早に質問を投げかける。

 好奇心に満ちた瞳が、話題の編入生の周りを取り囲んでいた。


 アイスは困惑した表情を浮かべ、両手で皆を押し戻す。


「そんなにいっぺんに聞かれても答えられないよ。複数の声を聞き分けるような魔法なんて持っちゃいないんだから……」


 アイスが演じるおどおどした態度に、リルの顔はまた引き攣っていた。


 無理もないだろう。

 セラフィリアだってアイスの普段の顔を知っている分、今のアイスはなんだかいけないものを見ているような気がして、顔を背けたくなる。


 まあ、だが確かに————いつもの態度に比べれば、これくらい柔らかい方が人望を集めやすい。

 しかし、既に3位のサルヴァドールから反感を買っているように、アイスを受け入れられない者もまだまだいるだろう。


 それらを一体どうするつもりなのか————


「————ったく、付き合いきれねえな」


 痺れを切らしたのか、リルが顔を振りながら立ち上がった。

 椅子の軋む音が、一瞬、教室の喧騒を切り裂く。


「おぼっちゃま、モクをやりに行ってもよろしゅうございますか?」


「ああ、いってらっしゃい」


 後ろの席にいるアイスに許可をもらったリルは、足早に教室を後にした。

 生徒達は、「モクって何?」とお互いに顔を見合わせている。


 セラフィリアも、リルについていこうかと少し迷った所だったが、それよりも新たにアイスの元を訪れた女生徒に目を引かれた。


「こんにちは、えっと————アイスクラッド君?」


 明るめの茶髪を短くまとめている、至って普通の女生徒。

 少し緊張した様子でアイスに話しかけてくる。


「アイスでいいよ。何か用かい?」


「あなたと話してみたいって子がいて————ほら、挨拶しなよ……!」


 すると、後ろに隠れていた青髪の少女が前に引っ張り出される。

 耳を真っ赤にして、幼い子猫のようにもじもじしていた。


「あの……えっと……」


「ちょっと、なんで私以外の人と話す時は、そんなんになっちゃうのよ」


 青髪の少女は再び後ろに隠れようとするが、それを茶髪の友達に押し返される。

 その様子は、小さな劇のような微笑ましさがあるが、セラフィリアは警戒するのをやめない。


 覚悟を決めたのか、それともやけくそなのか、少女は勢いのまま名を名乗った。


「リンカ・カーベルです! よろしく! アイス!」


「ああ、君の事は知ってるよ。あの有名な占星術師家の人だろう?」


 アイスの反応にリンカはパアッと花を咲かせる。


 そう————彼女の事はセラフィリアも知っていた。

 事前にマークするべき人物だとアイスにも伝えてある。


 占星術とは、天体の位置・動きと人間の潜在意識や世界の(ことわり)を、魔法によって結びつけて、対象を分析する古代魔法である。

 力のある占星術者であれば、世界の運命すらも占うことができると言われている。


 この能力は、味方にすれば非常に有用だ。

 だが逆に、アイスの正体を見破られる可能性も秘めている。


 だからこそ、慎重に接しなければならない。


「それで、そっちの友達は?」


「ああ、私はマーガレットだよ。私のことは別に————」


 マーガレットは顔を背ける。

 アイスは彼女のことをじっくりと見つめた後、意味深に薄い笑みを浮かべた。


 後ろに座っていたセラフィリアは、それに気づかなかった。


「あ、そうだリンカ! 占いをやってあげなよ!」


「え?」


 リンカもアイスも、後ろにいたセラフィリアもきょとんとしていた。

 一瞬、間が開いた後、アイスが口を開いてリンカに質問する。


「いいのかい? カーベル家の秘術をこんなところで使っても」


「うん……大したものじゃないけど、お近づきの印に、どうかな……?」


 リンカもマーガレットの意図を読み取って、アイスに問いかける。

 周囲の生徒も「カーベル家の占いが見れるぞ!」「どうやって首席になったのか分かるんじゃないのか?」と期待の声が上がっていた。


 まずい。

 そう思ったセラフィリアは、アイスが何かを言い切る前に咄嗟に立ち上がっていた。


「ああ、よかったら————」


「ちょ、ちょっと待ったぁ!」


 セラフィリアはアイスとリンカの間に割って入った。

 ()2()()の突然の行動に、周囲が静まり返る。

 空気が凍りつき、静寂が教室を支配した。


 アイスが占われでもしてみろ。

 異世界の詐欺師であることがバレて、大事になってしまうに違いない。


 だが、上擦った声を出して、教室にいる全生徒の注目を浴びてしまったことに、徐々に恥ずかしくなってきた。

 顔面に血が昇り、熱くなってくるのを感じる。

 その赤面は、窓の外の夕焼けに勝るほど鮮やかだった。


「どうしたセリー。もしかして君も占ってほしいのか?」


 アイスは全く調子を変えずにセラフィリアに話しかける。

 その声には、どこか小馬鹿にするような響きが混ざっていて、余計に、恥ずかしさを増大させた。


 すると、リンカがセラフィリアの方に ずいっと歩み寄る。


「セラフィリアさん、()()()って呼ばれてるの!? かわいい! 私も呼んでいい!?」


「え? あ、ああ、いいぞ……」


「やったー!」


 リンカは突然テンションを上げて、跳ね回った。


 これだけ前のめりに言われると嫌とは言いづらい。

 さっきまであんなにオドオドしていたというのに、つかみどころのない奴だ。


 すると、マーガレットがふと思いついたのか、アイスに質問する。


「そういえば、アイスも()()()()()だよね? 2人はどういう関係なの?」


「親戚なんだ。セリーの事は、僕が生まれた頃から知ってるよ————まさか、セリーに試験で勝てるとは思ってなかったけどね」


 腹の立つ言い方だ。

 セラフィリアはアイスを睨みつけようとしたが、マーガレットとも目が合いそうでやめた。


「セリーも占ってあげるよ! 座って!」


「お、おい……」


 リンカは高いテンションのまま、困惑したセラフィリアを座らせる。

 そして、リンカはパチっと指を鳴らした。


 火花が散るような音が鮮やかな響き渡ると、煙と共にセラフィリアの前に綺麗な水晶玉が現れる。

 透き通った水晶の中には、まるで夜の星々が閉じ込められているような、無数の光が映っていた。


 リンカは腕まくりをすると、それに両手を(かざ)す。

 その仕草には、古の魔道士から伝わる占星術師の威厳が宿っていた。


『星々の輝きよ、銀河の渦よ、迷える子羊を導きたまえ————アストロ・スターレイル』


 すると水晶玉が眩く光り始める。

 宵闇に浮かぶオーロラのような神秘的で美しい光。


 高位魔法『アストロ・スターレイル』

 星の動きから、対象者が持っているイメージ、思念、魔法の属性や、ついている守護霊の存在などを引き出すことができる精神系の魔法。


 セラフィリアでも使えなくはない魔法だ。

 だが、魔法適性によって、その情報の確度が違う。

 望遠鏡の性能差のように、見える星の数が変わってくる。


「————うん、セリーはやっぱりすごいね。真っ赤な星(ベテルギウス)、途轍もなく強い火属性。心の内に炎の悪魔を飼っていて、体の奥底をずっと焼き続ける。満足も優越感もすぐに燃え尽きちゃうから、常に強い力を求めてる————そんなイメージ」


「つまり……努力家ってこと? さすがこの学校の次席」


 マーガレットが感嘆の声を上げる。


 リンカのイメージはかなり抽象的だが、分からなくもない。

 水晶玉の中で揺らめく光は、まるでセラフィリアの内なる炎を明確に映し出している。

 常に力を求めてるというところは、自分でも自覚している所だ。


「————お? よく見てみると炎の悪魔に最近変化が起こっているみたい。火加減を操って様々な料理を生み出そうとしてる。悪魔が進化しようとしてるいい傾向だね」


「……!」


 驚いた。

 そんなに詳細な心の機微まで見透かすのか。

 それがいいイメージなのか悪いイメージなのかもお見通しのようだ。


 そこまで見えるようだったら、なおさらアイスが占われるのはまずいのではないか……?

 セラフィリアの危機感を他所に、リンカはアイスに声をかける。


「次はアイスだよ。ここに座って」


「あ、待ってくれ。アイスは————」


 セラフィリアはリンカを止めようとしたが、それはアイスの手によって制止させられる。

 アイスの顔にはいつもの()()()()()()()()が垣間見えていた。

 表情の裏に、何か計算されたものが潜んでいる。


「セリーばかりずるいじゃないか。僕も占いを体験してみたい」


 何か考えがあるようだった。

 まだ不安の残るセラフィリアだったが、言われた通りに席を譲る。


 リンカは再び水晶玉に手を翳した。


 夜明け前の空のような青髪が不自然に揺らめく。

 まるで星座の巫女のような神々しさが感じられた。


『星々の輝きよ、銀河の渦よ、迷える子羊を導きたまえ————アストロ・スターレイル』


 水晶玉がぼうっと光り出す。

 他の生徒も皆、今年の首席の占い結果に注目していた。

 教室は期待と緊張に満ちた静寂に包まれる。


 もしかしてヒプノシスを使うつもりか?

 だが、多くの視線がある状態ではヒプノシスは使えないと言っていた。

 いや————それとも特別な条件下なら、それも可能なのか。


 一抹の不安を抱えながらセラフィリアが見守る中————やがて、水晶玉の光も収まり、リンカが目を開ける。


「————これは……」


 困惑と驚きが混ざり合った表情で、リンカが何かを言い出そうとした。

 しかし、次の瞬間————


『キーンコーンカーンコーン————』


 教室にチャイムの音が響く。

 魔法の呪文が解けるかのような鮮やかその音は、授業の始まりを告げる予鈴だった。


「次は移動教室だったね。リンカ、マーガレット。占いの続きはまた今度聞かせてくれ」


「ちょ、ちょっとアイス!」


 アイスはそう言いながら立ち上がり、教室から出て行った。

 セラフィリアも、占い結果に後ろ髪を引かれる思いだが、アイスの後に続く。


「行っちゃった……」


 マーガレットはアイスの後ろ姿を目で追う。

 それと同時に、周りを囲んでいた生徒達も次の授業の準備のため、解散した。

 教室内は日常の空気を取り戻していく。


 マーガレットは、なんだか微妙な表情を浮かべているリンカに尋ねた。


「どんな占い結果だったの?」


「うーん……本人より先に伝えたくないってのもあるんだけど、それ以上によく分からなかったんだよねぇ」


「そうだったんだ。珍しいこともあるんだね」


 リンカははてなマークを宙に浮かび上がらせている。

 二人とも同じく移動教室のため、次の授業の準備をする。


 そんな中で、リンカはボソッと呟いた。



「薄暗い廃墟で黒服の男と少年が向かい合ってて何かを話してた……『家族が————』とかなんとか言ってたような……星も見えなかったし————こんな曖昧なイメージは初めてだよ」


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