第33話 集合
緑色の羽毛のような光が宙を舞う。
空中をしばらく漂った後、体に優しく着地した。
精霊の加護の光。
治癒魔法特有のもので、癒しの光は精霊が持つ翼から抜け落ちた羽根を模しているのだという。
「はあ……はあ……はあ……!」
「ありがとうシーナ————大丈夫か?」
シーナの治癒魔法によって、ラガスは身動きが取れるくらいには回復した。
しかし、シーナは逆に息切れをして苦しそうにしている。
彼女は低級の魔法しか使えないと言っていたので、ラガスの深い傷を治すのは負担が大きかったのかもしれない。
魔法使いのことはよく知らないが、ずっと魔法を使っていれば疲れるのだろう。
「だ、大丈夫です……次はリル様ですね」
シーナは息を整えて立ち上がる。
リルの元に行き、再び治癒魔法を発動した。
ひとまず、怪我人はシーナに任せておけば大丈夫であろう。
アイスは二人をシーナに任せ、洞窟の奥の空間に足を運んだ。
そこには、天井から縄で吊るされた魔女の姿。
現実の歴史にもある魔女狩りを思わせるような光景がそこにはあった。
「……そんなにジロジロ見てないで、早く降ろせ」
囚われた魔女————セラフィリアは気まずそうにアイスをじとっとした目で見つめる。
アイスはセラフィリアの拘束を解き、解放した。
そして、シーナ、リル、ラガスの元に戻る。
数時間ぶりにアイス達賢者一行が集まったのだった。
「まさか、セリーが捉えられるとはな」
「どうせ油断でもしたんじゃねえか?」
「……むう」
セラフィリアは口をとんがらせている。
あれだけ啖呵を切って出ていった手前、居心地が悪いのだろう。
「待て、今回に関しては我が悪い」
ちくちくとチンピラ二人が言葉攻めしていたところを、ラガスが止めた。
身につけている鎧はボロボロで、シーナの魔法に加えて包帯などを使って応急処置をしたため、痛々しい見た目になっている。
「我が迂闊にもパーティを離れたのが悪いのだ。あれこそがクレイグの狙いだったというのに」
クレイグの部下にまんまと騙されてしまったことに、責任を感じているようだった。
ラガスは座った状態で深く頭を下げる。
「完全にクレイグの掌の上で踊らされてしまった。すまなかった」
「————私も」
すると、セラフィリアも口を開いた。
彼女の様子はいつもよりも小さく見える。
いつもの強気な魔女としての態度ではなく、ただの少女のようなちんまりした印象を受けた。
「魔法の対策をしている人間がいないと決めつけていたのが、そもそものミスだった————いや、そもそも一人で行動したのも……その……」
セラフィリアは顔を背けてもじもじとしている。
言葉もどんどん尻すぼみになっていった。
「だから……私も、考えが甘かったところはあった…………ごめん」
隙間風でも通ったかのような小さい声で、ぼそっと謝罪が聞こえた。
全員呆気に取られ、数秒の間、しんと静まり返った。
そして————リルの口角がかつてないほどに上に上がった。
「お、今なんて言った?」
「うるさいリル! 貴様には言ってない!」
セラフィリアが顔を真っ赤にして、リルの肩をポコポコ叩く。
アイス達の空気が、いつものように和んだ。
実力主義で自身の力に強いプライドを持つセラフィリア。
何よりも冒険者の矜持を大事にするラガス。
お互いの考え方がこれで変わったりはしないだろうが、二人の謝罪によって一旦パーティの亀裂を直すことができたのだろう。
シーナからの依頼もこれで完遂である。
しかし、まだ腑に落ちていない点も存在した。
「これは攻めているわけではないが、セリー殿はどうして捕まってしまったのだ? あの男は確かに強いが、お主を凌ぐ力があるとは思えない」
ラガスの疑問は、他のメンバーも思っていたところだ。
相手がいくらプラチナ級の冒険者であっても、魔女を捕まえるということを容易く行えるとは思えない。
セラフィリアの実力を間近で見たことがあるアイス達は、尚のこと不可解であった。
「奴の持っていた妙な魔石のせいだ……そのせいで魔力を封じられた。今も魔法を使うことができない」
「魔法を封じる……」
シーナが深刻な顔をして反芻する。
魔法を封じられること。
魔女にとってそれは自分の唯一の武器を取り上げられることに等しかった。
そんなものが今までも出回っていたのなら、セラフィリアが警戒しないはずがない。
すなわち、セラフィリアにとっても予想外のことだったのだろう。
どうして、クレイグがそんなものを持っていたのか————
「とにかく、そこの伸びてる奴に聞いてみるしかねえな」
アイスは気絶しているクレイグを指差す。
これ以上暴れられでもすると面倒なので、セラフィリアを拘束していた縄でクレイグの体をしっかりと縛る。
シーナに頼んで、クレイグを会話ができるくらいまで回復させた。
そして、クレイグの顔に水をかけて起こす。
「ぷはあ! はあ……」
「起きたかよ。早速だがいくつか聞きたいことがある」
リルが高圧的にクレイグに話しかける。
目を覚ましたクレイグは、辺りを見渡して状況を確認した。
自分の部下で意識があるものは他に誰もいない。
孤立無縁となったクレイグだったが、大人しく指示に従うような男ではなかった。
「けっ……てめえらと話すことなんざねえよ」
「はいはい————そういうのめんどくせえからいいよ」
そう言うと、アイスはクレイグに人差し指を突き立てた。
みょんみょんみょん————————
「————さて、いくつか質問に答えてもらおう」
アイスが再度話しかけると、クレイグは素直に頷いた。
問題なくアイスのヒプノシスにかかったみたいだった。
アイスに代わり、セラフィリアが質問する。
「魔石は誰が用意したんだ?」
「ああ? そんなの依頼主だよ」
そんなことは言われなくても想像がつく。
あえて言葉を濁して一回で核心に迫らないのは、クレイグの元々の本性だろう。
セラフィリアは殴りかかりそうになるのを一旦堪え、根気強く質問を続けた。
「……じゃあ、依頼主は誰なんだ?」
「素性は知らねえ。だが、俺達に対してとんでもない額を提示してきたのさ。だから俺達は多少無理をしてそれに乗ったんだ」
アベントの冒険者達を誘導して、ラガスに罠を貼った。
これだけでもかなり大掛かりな仕掛けである。
この男の目線で考えると、こんなことをしなくても安定した収入が得られ、贅沢な暮らしができるはずなので、あえて行動を起こす必要はないはずだった。
それほどまでに高額な依頼だったということなのか。
「依頼内容は赤髪の魔法使いを捉えること。この魔石はその時に役立つって言って、そいつから貰ったのさ」
狙いは最初からセラフィリアだったのか。
しかし、そんなことがあるだろうか。
魔法士の人身売買が金になるとは言っていたが、冒険者としては無名のセラフィリアを標的にする理由がない。
しかも、セラフィリアが魔法を使うことを知っていて、クレイグに魔法を封じる魔石を渡している。
もはや、セラフィリアが魔女であることを知っているとしか————
「じゃあ、その依頼主の姿形は!?」
「ああ? なんつうかなぁ、あれは————」
セラフィリアの問いの言葉に熱が入る。
その熱量に困惑しながらも、催眠術にかかっているクレイグは、従順にセラフィリアの答えに返答しようとしていた。
数秒ほど考えた後、クレイグは依頼をしてきた人物の格好を口にする。
「メイドみてえな姿だったよ」
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