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第27話 食い違い

 ああ、またこの夢だ。

 遠くで誰かが叫んでいる。


 暗い場所で、視界の端に揉み合う人影が見える。

 誰かが何かを殴る音、床を爪で引っ掻く音。

 耳を塞ぎたくなるような非常に不快な音が、頭に響く。


 曖昧な視界の中で、シーナを糾弾する声が聞こえてきた。


 あなたの母親になった覚えはない

 あなたなんか、生まれてこなければよかったのに


 再び暴行される音が響く。

 肉を叩き、骨が軋む。

 そして時折聞こえる怒りの混じった叫び声。


 怖くて悲しい音が頭から離れない。

 ざわついた感情を抑えることができず、涙がとめどなく溢れる。


 しかし、その声から逃げることは許されていない。

 シーナは影でうずくまることしかできなかった。

 助けを求める声すらも出せずに、息を潜めることしか、できなかった。



 その時、一筋の光が差し込む。

 その光の方から、綺麗で優しい手がシーナにさしのべられた。


 誰だろうか。

 だが、シーナはその手をよく知っているような気がした。


 シーナは差し伸べられた手を取り、立ち上がる。

 そして、とても暖かい手でシーナの頭を撫でる

 透き通った声でシーナに話しかけるのだ。


『————それを殺してはいけない』


 まるでその手から直接、声が頭に響くようだ。

 迷いのない声音でシーナを行くべき道を示しているみたいだった。


 頭から温もりが離れていき、顔を上げた先に眩い光が見える。

 光に導かれるように、シーナは駆け出した。


 不快な殴打の音も、シーナを糾弾する声ももう聞こえない。

 暗い現実から逃げるように、シーナは足を動かす。


 やがて辿り着いたのは、大きな扉であった。

 神々しい石造り扉が淡い光を放っている。


 それは間違いなく、賢者の扉だった。


『————扉を開けろ』


 その声に従い、シーナはその扉に手をかけ、思いっきり押した。

 暗い世界が光に包まれていく————



「シーナ————シーナ!」



 その時、シーナは覚醒した。

 目の前にはセラフィリアの顔が見える。


 どうやらアイスのテントで眠ってしまったらしい。

 テントの外はもう明るくなっており、朝の鳥の鳴き声が聞こえてくる。


 テントの中に、アイスの姿は見当たらなかった。


「……おはようございます。セラフィリア様」


「うなされていたぞ、大丈夫か?」


「大丈夫です。お気になさらないでください」


 さっと気を取り直して、失礼のないように姿勢を正す。


 夢を見たせいかどっと疲れたような気がした。

 寝汗で下着が張り付いて気持ち悪い。


 だが、いつも見る夢とは少し違っていた。

 暗くて怖い、そして誰かに責められるあの夢は幼い頃からよく見ていたものだ。


 いつもは嫌な気分になって終わるのが、どこか清々しい。

 何かは覚えていないけれど、私にとってとても大切なことを教えてくれた気がした。


「転移でアベントに戻るぞ。キャンプを片付けて準備するんだ」


 いつもの黒いローブを見に纏ったセラフィリアが立ち上がり、テントの入り口を開けると、眩しい朝日が中に入り込んだ。

 シーナも立ち上がり、その光の先に進んでいった。



 *



 セラフィリアの転移魔法でアイス達はアベントに帰還したが、街の様子がいつもと少し違っていた。

 もうすぐ昼時だというのに、やたらと人が少ない。

 冒険者の街であるにも関わらず、道行く冒険者が少なく、そのせいで店も閑散としている。


「妙な雰囲気だな……」


 ラガスが怪訝な表情を浮かべている。

 彼の本拠地なので、街の異変に一番気づきやすいのだろう。

 少し思うところがあるものの、クエストの報告に行くために、一行はギルドに立ち寄ることにする。


 ギルドの木扉を開けた瞬間、中にいた男達に詰め寄られた。


「どこ行ってたんだ!?」


 ギルド内の冒険者達が血相を変えて、ラガスの元に走る。


 緊迫している理由に心当たりのないラガス達は顔を見合わせる。

 ラガスは困惑しながら、ポーチに入れていたクエストの紙を見せつける。


「このクエストを受注して、たった今こなしてきたところだ」


 クエストの紙をその場にいる全員に見せると、どよめきが起こる。


『モノセロ迷宮』のミノタウロスと『ルキフグス沼地』のバエル・エンファの討伐。

 その二つのクエストは、ゴールドランクの中でも最難関であり、非常に危険なものだ。

 本来なら、冒険者パーティが合同で20人規模のチームを組んで、やっと討伐できるような難易度である。


 それをたったの5人でクリアしてきたのだ。


「すげえ……さすがラガスだ……!」


 冒険者達が口々に感嘆の声をあげる。

 ラガスは有力な冒険者パーティの元メンバーらしく、このクエストをこなせるだけの実力があると認められているのだろう。


 すると、一番前のゴールドの冒険者がさらに詰め寄った。


「その腕を見込んで頼みがあるんだ! 実は、クレイグのやつが、下級冒険者を集めて高難度クエストに行くらしい……かなりの死人が出るぞ!」


「な、なんだって!?」


 ラガスの表情が険しいものに変貌する。

 クレイグ一派は『モノセロ迷宮』の時も、冒険者を囮にするような残虐な奴らだった。


 今回はその時の比ではなく、より多くの命を犠牲にするに違いない。



「分かった、すぐ————」


「放っておけ」



 今すぐにでもクレイグ一派の元に向かおうとしていたラガスを止めたのは、セラフィリアだった。

 ラガスは信じられないといった表情で、セラフィリアの方に振り返った。


「……なぜだ?」


「私達には関係のない話だからだ。そんなこともわからないのか?」


 前日————『モノセロ迷宮』のあの一件から、不穏な空気が漂っていた二人。

 あの時も、冒険者を殺すか殺さないかで意見が割れていた。


「今から嵌められようとしているのは、我と同じ冒険者としての矜持を持った者達なのだ! それを放っておくのは我の正義に反する……!」


「それがどうでもいいと言っている。そんな弱い奴らを相手にしているだけ無駄だ」


 セラフィリアは冷ややかな目をして腕を組み、自分の意見を変えるつもりはないようだった。

 それに対して、ラガスはその目に怒りが宿っていき、ずかずかとセラフィリアに踏み寄っていく。


「弱いことは悪いことではないはずだ……たとえ、ブロンズやシルバーの冒険者であっても、良いように上級冒険者の食い物にされていいはずがない……!」


「いいや、その冒険者達が弱いのが悪い。弱いからその隙につけ込まれ、騙される」


 弱いから、強い意志を持っていないから騙される。

 本当に冒険者の矜持とやらを持っているのであれば、クレイグ達の言いなりにはならず、自分の実力でなんとかしようとするはずだ。

 それがなく、楽に金を稼ごうとした結果、更なる不利益を被ることになる。


 詐欺師とはこのように、相手に選択肢を与え、罠に嵌めることを生業とする————


「そこにわざわざ足を踏み入れることは、自分から奴らの罠にかかりに行くようなものだ————人間風情が私に口答えをするな」


 セラフィリアは強い口調で主張を突き通す。

 決して的外れなことを言っているわけではない。

 アイスとリルも、セラフィリアの意見に概ね同意しているようだ。


 だが、冒険者の気持ちが分かるラガスにとって、セラフィリアの考え方は看過できないものだった。


「たとえ————そうだとしても、我は未来あるあの冒険者達を救わねばならんのだ……!」


 ラガスは言葉を振り絞ると、セラフィリア、アイス、リルの顔を順に見る。

 そして、目を閉じ、身を翻した。


「……我はこれから別行動を取らせてもらう」


「勝手にしろ」


 ラガスはそのままギルドを出て行ってしまった。

 初めてアイス達の言うことに従わなかった。

 その様子に疑問を抱き、シーナはアイスに質問する。


「……ヒプノシスの効果が切れてしまったのでしょうか?」


「いや、そんなんじゃねえ」


 アイスは首を振ってそれを否定した。

 ラガスが言う事を聞かなかった理由、それは明白だ。

 アイスがラガスの兄弟ということ以上に、彼にとって大事なことがあったというだけ。



「俺のヒプノシスはそいつの見え方や感じ方を変えるだけだ————結局、人間の根本の部分は誰も変えられないのさ」


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