第18話 等級詐欺
「おい気に入らねえぞ。そもそもなんで金で冒険者の格ってのが決まるんだ? 普通はなんかこう……腕っぷしの強さみてえなもんで決まるんじゃねえのか」
リルはふんふんと怒りをあらわにし、灰色の服の懐に手を入れる。
受付からどかされ、アイス達はギルドの隅の円卓へと避難していた。
行列に並んで、再び受付に行くのはあまりに時間の無駄であろう。
怒るリルに対して、思ったよりもアイスは冷静だった。
「金でてめえの格が決まるってのは俺らの世界でも同じだろ。金があるってのは力があるってことさ」
冒険者として、金を持っているということはそれだけ冒険を重ねてきたという証である。
ブロンズ、シルバーとクエストをこなし、装備や生活費に資金を割かれながらも、高みを目指して貯金し続けてようやくゴールドの称号を獲得できる。
それは冒険者としての信頼にも繋がるものだ。
「だが、それではただ金を持っている者が、実力の伴っていない上級冒険者になってしまうのではないか? 金が実力の証明とはならんだろう」
セラフィリアが反論する。
例えば貴族や豪商、賭けでたまたま大金を儲けたギャンブラーなど、努力せずとも財力がある場合はいくらでも考えられる。
そんな者が冒険者になってしまったら、それは信頼のおける冒険者とは言えないのではないだろうか。
「そんな物好きがいるのかは知らねえが、これだけの金を積んでわざわざ冒険者になるっていうことは、それだけの準備ができてるっていうことだ。金があればなんでも買えるんだぜ魔法使い」
武器も資材も何もかも。
軍隊までも大金を積めば、購入することができる。
冒険者として運用できる資金を持っているということは、それだけで力があることの証明になるのだ。
「にいちゃんの言った通りだ。冒険者の世界も所詮、金が全て。夢も希望もなかなか見つからないもんだよ」
若者は冒険というものにきらきらしたものを期待してこの『アベント』にやってくる。
しかし、実際は信頼を金でやり取りする職業であり、冒険者には現実的な結果と利益のみが求められる。
冒険者稼業というのは、夢と希望を代償に生計を立てる、現実的な職業であった。
「やはり、ブロンズの冒険者からクエストをこなしていくしかないのでしょうか?」
「……それでは時間がかかるからのう。ブロンズからシルバー、ゴールドとランクを上げていくには、相当のクエストをこなして金を稼がねばならん」
ブロンズから冒険者をはじめた場合、ゴールドに至るまで平均3〜5年かかるらしい。
上級と言われるだけあって、ゴールドの冒険者は甘くない。
「それに……あの、クレイグのやつもいる」
ラガスは低い声で、先ほどすれ違った冒険者の名前を出す。
その名前を聞いて、周りの冒険者の空気がピリついたものになったのを感じた。
なぜここでその男の名前が出てくるのか。
「さっきの奴か? あいつがどうしたってんだ?」
「あの男は————クエストを独占しとるんだ」
ラガスはそう告げるが、四人はまだピンときていない。
彼はこのアベントの冒険者を取り巻く、大きな歪みについて説明しはじめた。
「クエストの報酬はピンキリなんだが……あの男は徒党を組んで、ブロンズからゴールドまでの報酬の多いクエストを片っ端から取っちまうんだ。そのせいで我のような普通の冒険者は、報酬の低いクエストしか取ることができず、金を稼げない」
クレイグ一派は上級冒険者以上の実力も財力も持っているにも関わらず、あえてゴールド以上に昇格せずにいる。
そんな冒険者達を掻き集めて、クエストボード前に張り付き、上等なクエストを独占する。
所謂、等級詐欺と言われる行為であった。
あの大橋の見張りをするというクエストをラガスが受けていたのもそれが原因のようだった。
ラガスはゴールドの冒険者のため、本当はもっと上等なクエストを受注できるはずである。
それが、クレイグのクエスト独占により、ブロンズ級のクエストしかまともに受注できなくなってしまっている。
道ですれ違った冒険者達の顔が暗かったのも、まともなクエストが受けられず、冒険者として十分な金額を稼ぐことができずに、路頭に迷っている下級冒険者達だったということである。
「そ、そんなのずるいじゃないですか!?」
「あやつはそういう男なんじゃ。金のためなら同僚すらも騙す————まさに詐欺師だ」
金と自分のことしか頭にない、冒険者の風上にもおけないやつだ。
ラガスの強く握られた拳からは、怒りが滲み出ていた。
リルはしばらく懐をガサゴソとしていたが、ようやく白い箱を取り出して振る。
その箱から何も出てこないことを確認し、チッと大きな舌打ちをしていた。
「おいアイス! てめえのヒプノシスでどうにかなんねえのか!? とりあえずあたしらを舐め腐ったあのアマを黙らせろ!」
リルが不機嫌のまま受付嬢の方を指差し、アイスに訴える。
アイス達にとっては、ゴールドの冒険者になれさえすればいい。
そのためにまずは、受付嬢をうんと言わせるのが最も手っ取り早かった。
しかし、アイスは首を振った。
「なんでもかんでも使えばいいってもんじゃねえのさ。ありゃタイミングが一番大事だ————いずれにせよ、金ってのはどこかで必要になってくる」
一文なしじゃどうにも回らねえ。どこの世界でも一緒さ。
リルは顔を顰めたままだった。
「けっ! 何にもうまくいかねえじゃねえかよ、おもしろくねえ!」
白い箱をその辺りに投げ捨て、懐から代わりに何かを取り出し、それを口の中に放り込んだ。
シーナがリルの一連の動作がふと気になったようで、リルの元に駆け寄る。
「リル様、何を食べたのですか?」
「これか? ヤニが切れちまったから紛らわしてんだよ」
リルの手には小さな缶が握られていて、そこには『マスカットドロップ』と書かれていた。
ヤニという単語の意味が分からず、疑問符を宙に浮かべるシーナ。
それを見ていたアイスが————ふと、立ち上がった。
そして、リルの缶を取り上げる。
「おい————何すんだアイス」
リルの非難の声を無視し、アイスはその缶を持って、再び椅子に座る。
しばらく考えた後、アイスはリルの腰についているポーションの瓶を指差した。
「————ラガス、このポーションってやつはいくらするもんだ?」
「ハイポーションか? 確かに50、いや人によっては100万くらい出す者もいるが、それでは四人分の登録料を稼ぐことはできぬぞ?」
ラガスの返答を聞き、アイスは俯き加減でまた考え出す。
様子が変わったアイスのことが気になり、シーナが駆け寄ろうとしたその時————
「……オーケー、一個博打を思いついた」
アイスが顔を上げた。
その言葉に、皆が注目した。
唇をわずかに上げ、ほんのりと優雅な笑みを浮かべる。
ラガスに催眠術をかけた時と同じ、何か悪巧みを思いついた表情をしていた。
「さすがアイス! やれんのか!?」
「何か柵があるのか!? またお前の術か? それともリルの技か?」
「そんなもん使わなくても、人から金を騙し取ることはできるんだぜ?」
アイスは再び立ち上がり、手を大きく広げる。
セラフィリアの目に映ったアイスの様子は、賢者のような威厳を感じられると同時に、悪魔の誘いのようにも見えた。
「さあ————マジックショーの始まりだ、お客さんはこの街の詐欺師の皆さんとしよう」
一体、奴は何をするつもりなのだろうか。
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