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第9話:馬車の中で

今回は話しがほとんど進みません。



 九歳になった。


 別に九歳になったからといって何かが変わったわけじゃない。


 強いて言うなら屋敷での俺への扱いと、俺や、サクラ達の戦闘力くらいだろうか。


 屋敷での俺への扱いは既にヒドイというレベルを超えている。この屋敷で俺の言う事を聞く使用人は、ラスティーやサクラ達しかいない。


 他の使用人は、前までは俺をガン無視だったが、最近では嫌がらせとかをしてくるようになった。


 俺の部屋が汚されていたり、俺のメシに、腐った野菜などを使ったりなど、かなり悪質だ。


 まあ別に俺は気にしていない。


 ラスティーが、その度に悲痛な顔して片づけなどをしてくれるのが心苦しいが、未だ俺は目立つわけにはいかない。


 俺には権力がない。


 貴族が、それ相応の権力を保有していないというのはかなりマズイ。本来子供の貴族は、親の権力を使うのだが、俺は親に嫌われているので、その権力を使える筈もない。


 ならば必然的に武力で、一から権力を手に入れるしかないわけだ。


 その為には、この時期に目立つのは良くない。


 最低でも、この王国で俺に比肩する者がいなく成程までに、力をつける必要がある。


「だからこんな所に来ている暇ないんだけどな・・・」


 俺は馬車に揺られながら、そう小さく呟いた。


「え?何か言いましたか坊ちゃま?」


「ううん。なんでもないよラスティー。・・・それよりも、そろそろ坊ちゃまは止めてって言ってるじゃん」


 一緒に乗っているラスティーに、そう不満気に言う俺。


 勿論子供っぽさを出す為の演技だ。ぶっちゃけ呼び方なんてどうでもいい。所詮は個体を識別する記号でしかない。


 なんらな番号で呼称してもいいくらいだと俺は思っている。


 それくらい俺の名前に対する意識は低い。


「ふふ、坊ちゃまは私の中では坊ちゃまですから」


 そう言いながら、優しげに微笑むラスティー。


「ちぇっ・・・」


 俺は、不満気に口を尖らせる。


 それを見て、ラスティーは楽しそうに微笑む。そしてそれに釣られたように、俺も笑う演技をする。


 十四歳になったラスティーは、その美しさに益々磨きがかかった。・・・と、カエデが言っていた。


 ぶっちゃけそこら辺に興味はない。


 俺にとってラスティーは、家族みたいなものだ。


 姉や母親の美しさに磨きがかかったな。なんて思う奴はマザコンかシスコンしかいないだろう。そして俺はそのどちらでもない。もちろんラスティーは美人だと思うが、ただそれだけだ。


 恋愛感情などは抱かない。家族だからな。


「マスター!今日はなんで王都に行くんですか!?」


 馬車の中でこれまで黙っていたサクラが元気よくそう言った。


「ん?ああ、今日は姫様の誕生日なんだよ」


 俺は、それくらい事前に調べられるだろお前、と思ったが、ここで舌打ちの一つでもしようものならラスティーにどんな目で見られるか分からないので、俺は優しく言葉を紡ぐ。


「姫様ですか?」


「ああ。当然なんだけど、毎年開かれていてね。それに今回僕もお呼ばれしたって事。今までは行く機会が無かったからね。光栄なことさ」


 本音を行けばマジで行きたくねえ。


 なんで俺が脳内メルヘンスイーツ(笑)なお姫様のクソ下らないウンコみたいな誕生パーティーに行かなくちゃならんのだ。


 全然光栄なことじゃない。


 むしろ最低な気分だ。


 それになんで今までお呼ばれしなかったのに今年に限って呼ばれるんだ。・・・まあ、理由は分かる。


 ゴミ親父に対する嫌がらせだ。


 俺のウンコ兄貴はぶっちゃけマジモンの天才だったらしく、既に火属性ではかなりのレベルに到達しており、今では三等騎士となり、近々二等騎士も間近だと言われている。


 渾名も、「神童」から、「未来の騎士王」と呼ばれ、そのウザさに拍車をかけている。


 そして何より気に食わないのが、ラスティーを毎晩毎晩部屋に誘っている事だ。どうやらあのクズラスティーに気があるらしく、ラスティーをモノにしようとしている。


 まだラスティーは拒否っているが、いずれ無理矢理という事もあるかもしれないので、夜には常にカエデをお手伝いという名目で護衛に付かせている。


 クズの実力ではカエデに勝つことはまず不可能なので、一応安心だ。


 まあいずれ然るべき制裁を下すが。


 とまあ、そんな才能溢れる息子を持つ親父に嫉妬する貴族も少なくはない。それに俺の家は成り上がりと揶揄される戦時の功績で爵位を手に入れた貴族だ。その傾向はより顕著である。


 なのでそこで俺が呼ばれたわけだ。


 「無能」と呼ばれる俺を呼び、貶し、馬鹿にして、同時に親父もバカにしようという考えだろう。


 本当・・・胸糞の悪い話しだ。


「お姫様って美人なんですか!?」


 サクラの言葉で現実に戻された俺は、平静を装い、その質問に答える。


「ゴメン。僕もまだお顔を見た事がないんだ。でも、兄様がキレイだったって言ってたから美人なんじゃないかな?」


 出来れば豚みたいな顔なら爆笑出来てストレス発散になるのだが。


「はい。姫様はとっても可愛らしい方です。将来は凄い美人になるのは確定でしょうね。そのあまりの可愛さに“花姫”と呼ばれているくらいですからね」


 ラスティーがそう言う。


 ・・・花姫ねえ。


 なんでこの世界の奴らはそんなに二つ名をつけたがるのか。仕様なのか?


「あ、それと、今回は歴代最強と謳われる“騎士王”エクエス様もいらっしゃいますよ」


 少しだけ嬉しそうに言うラスティー。ファンか?


 そこら辺はどうでもいいが、歴代最強の“騎士王”というのは気になる。


 “騎士王”とは、毎年年末に行われる〈騎士闘技大会〉というセンスもクソもない名前の大会で優勝したら、国王から授けられる称号だ。


 参加資格は三等騎士以上なら誰でも参加できる。そして、“騎士王”になれば、国王に好きな願いを一つだけお願い出来る。


 もちろん、限度はあるが、姫様と結婚したいレベルのお願いでも、本人が同意すれば可能なので、ぶっちゃけよっぽどな事じゃない限りどんな願いでも可能である。


 事実、それで姫を嫁に貰った者や、公爵の地位を貰った者もいる。


 身分の低い騎士が成り上がるには最高の舞台、それが〈騎士闘技大会〉なのである。


 話が逸れたが、“騎士王”エクエスは、現在二十五歳。十八歳の時に“騎士王”となってから今まで一度も“騎士王”の称号を他者に奪われた事が無い。


 つまりエクエスは現在大会七連覇中なのだ。


 今年も八連覇の期待がかかっている。


 外見もイケメンで、女性人気ももちろん高い。


 いわゆる完璧超人という奴である。


「エクエス様は僕も興味あるかな。やっぱり男として憧れちゃうよね」


 俺が猫かぶりながらそう呟く。


「やっぱり坊ちゃまもエクエス様のファンなんですね!?私も実はファンなんですよ!今度一緒に大会見に行きませんか!?もちろん留守番している子達も連れて!」


 テンション高く、興奮したように捲し立てるラスティーに、俺はドン引きしながら、


「う、うん。そうだね」


 と呟くのだった。



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



 数時間程馬車に揺られ、ようやく王都に着いた。


 正直言えば、俺は王都に来るのは初めてだ。


 だからと言って、別に観光するわけではない。というかそんな時間はない。馬車の中から、王都の街並みを眺める。


「ふへー。ここが王都ですか。賑やかですねー」


 サクラがアホな声を上げながら、感嘆している。


「ふふ、サクラは王都に来るのは初めてですか?」


 そんなサクラを見て、ラスティーは微笑みながら尋ねた。


「はい!初めてです!ラスティーさんは来たことがるんですか?」


「ええ。私は実は王都の出身なんです。実家の家計が苦しくなって、それで出稼ぎに」


 大変なんだな。


 つか俺の専属メイドしていてまともな給金貰ってんのか?


「でもでも、マスターの専属メイドをしていて、満足なお給金って頂いているんですか?」


 ・・・こいつ。


「ええ。大丈夫ですよ。何とかやっていけてます」


 そう言ってラスティーは頬笑んだ。


 それが嘘だという事は俺とサクラは分かっていた。


 俺もバカじゃない。ラスティーの給料がどれくらいかちゃんと把握している。もちろん、ラスティーの家の家計を支えられるだけの額は貰っていない。


 その事は心苦しくはあるが、今はどうにも出来ない。最低でも一年ほど待たなければ。


「あ、マスター!お城の門が見えてきましたよ!」


 サクラの言葉で、俺はお城の門を見る。


 門は、ファンタジーの世界などでよくある感じの門で、普通にデカい。


 俺達が乗った馬車は、門の近くで止まる。そして、門番が近づき、御者に話しかける。御者が二言三言告げると、門番がどき、再び馬車が動き出した。


 その時、門番がバカにしたようにヘラヘラしているのを見えた。


 どうやら俺は、俺が思っている以上にバカにされているらしい。


 ・・・マジでウザい。


 何がウザいって俺と同い年の奴らが一番ウザい。


 ガキだからストレートに俺をバカにしてくるのは目に見えている。子供だから回りの大人も強く注意はしないだろう。


 まあいい。


 我慢の限界を超えたら、こっそりと一人二人はボコボコにしてやる。


 そう思いながら、俺を乗せた馬車は城内に入っていく。


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