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第6話:改造



 屋敷に帰ってきた俺は、拉致ってきた三十人の男達を、こっそりと“改造”の能力で作った地下室にブチ込んだ。


 現在の時刻は既に夜。


 明日から本格的にあの男共を使う事を考え、今は新しく仲間にした二人の事を優先する。


「まずお前らの名前を聞きたい」


 自室に二人を案内し、俺はそう尋ねと、金髪の方の女は悲しげに視線を下に落とした。


 ・・・まさか、お前もなのか?


「私達には名前がないのよ」


 少女の話しを聞くと、こいつらは産まれたと同時に捨てられ、奴隷として育てられたらしい。


 その割には育てた奴らを嫌悪していたり、ある程度普通の価値観は持っているみたいだな。


 その事を尋ねると、


「それはね、私達は産まれながらに奴隷として育てられたけど、中には途中から奴隷になった人もいたのよ。そんな人たちを見てたら流石に自分達の境遇がおかしいとは思うわ」


「そうか」


 ・・・普通はそんな事を考える事はまず出来ない。なぜなら教育を受けていない。教育を受けていなければ、人は物事に対しての論理的思考が行えない。


 しかし、この少女はそれが出来ている。


 恐らく、奴隷に落とされた者達の態度や言葉遣い、そしてたまに会話などをして、自身の境遇が、自身を育てている奴らが嫌悪の対象でしかない事を学んだのだろう。


 わずか十歳たらずで。


 間違いない。


 この少女は天才だ。この年で、しかも生まれてから一度もまともな生活をしていないのにこの思考能力は素晴らし過ぎる。


 どうやら俺は最高の奴を手に入れたようだな。


「そうか。まあここにいれば最低限度、人並みな生活は送れる」


「そう。それを聞いて安心した―――」


「ただし」


 俺は、安堵の言葉を漏らそうとした少女の言葉を遮った。


「なにかしら?」


「俺はお前らにこれからヒドイ事をするかもしれない」


「ヒドイ事?暴力でも振るうのかしら?それとも性的な行為?それ位なら別に構わないわよ?」


「いや。そういう事じゃない。俺はお前らに人を大量に殺させるかもしれないって事だ。・・・いや、間違いなく殺させるだろうな。それも時には残酷な方法で。現に明日は、捕まえてきた男共で人体実験を行うつもりだ。それにはお前らも助手として参加してもらう」


 俺は一気にそう言った。


 二人・・・というか少女の方は、悩んだように押し黙った。


 正直に言えば迷っているのだろう。


 彼女は十歳にしては成熟し過ぎている。その思考はすでに普通の大人とほぼ同じだ。故にまともな倫理観というものを持っているのだろう。


 サクラや俺の様に、先天的に人殺しに対する忌避感が無い奴ならともかく、この少女にはキツイかもしれないな。


 もしダメならそういった事から外す事も出来る。


 これほどの才能だ。他にいくらでも使い道はある。


 すると、少年の方が一歩前に進み出た。


「僕はやる」


 短くそれだけ言った少年。


「いいのか?」


 俺も短く尋ねる。


「構わない。僕には力がいる。誰にも負けない力が」


 そう言いながら俺を見つめるその瞳には、どんよりとした、泥のような闇が広がっている。


 その瞳を見た瞬間、俺は確信した。いや、最初にその瞳を見た瞬間から予感はしていた。だが、今それは完全な確信に変わった。


 こいつは異常者だ、と。


 恐らく俺と同質の。


「そうか。で、お前はどうする?」


 少女は、しばらく悩んだあと、しっかりとした瞳で俺を見据えた。


「やるわ」


「・・・そうか。じゃあまずはお前たちに名前を与えなくちゃな」


「名前?くれるの?」


 少女がポカンとした顔で言ってきた。


「当たり前だろうが。これからお前らは俺の仲間になるんだぞ?名前は必須だ」


 俺は名前を考え始める。


 少女は何故か嬉しそうにしているが、今はどうでもいい。


 しばらくして、名前が思いついた。


「女、お前の名前はカエデ。男のほうはクリュエルだ」


 この命名もぶっちゃけ適当だ。


 少女の方は、最初に名前を付けた奴を「サクラ」っつう花の名前にしたから、それと関連付けて、女の名前に仕える花の名前にしただけ。


 少年の方は咄嗟に思いついたのがコレだっただけ。


 感動もクソもないな。


 まあ名前なんて個体を識別するだけの記号だしな。と、よく中二病をこじらせた奴が言っているからそういう言い訳をしておこう。


「カエデ・・・」


 少女・・・カエデは、自分の名前を少しだけ嬉しそうに繰り返し呟く。


 喜んでもらえてのなら、俺も何だかんだで嬉しいものだな。


 クリュエルの方は無表情だが。


「カエデ、お前は俺の専属メイド見習いとして、サクラと同室で生活してもらう。クリュエルは俺の専属執事見習いとして、俺と同室で生活しろ」


 俺の言葉に、二人は頷くが、近くにいたサクラが戸惑いの声を上げた。


「マスター!?その少年と同室で生活するんですか!?危険です!別々の部屋にした方が・・・!」


「いや、その必要はない。それに、他のクソ共と一緒にしたら面倒な事になるからな。メイドの方は俺が圧力を掛ければどうにでもなるが」


 実際、ラスティーは、俺がこの屋敷で疎まれているせいで、色々虐められていた。それを俺がメイド一人一人丁寧にごうも・・・もといお話しをして、ラスティーに近づくなという命令を出した。


 その為か、現在では、ラスティーや、新しく入ったサクラにちょっかいを出すメイドはいない。


 本当は俺が実力を示せばいいのだが、俺の魔法は特殊なので、ある程度盤石とした権力を手に入れるまでは無闇に自分のチカラを誇示出来ないのだ。


 下手に実力を示せば、待っているのは戦争の道具として使われるだけだからな。


 そんな家畜のような人生は真っ平御免だ。


 俺の説明を聞いて、一応の納得を見せたサクラは、渋々といった感じだが、引き下がった。


 しかし、その時に、クリュエルに向かって、


「もしマスターに何かしたら四肢を切断し、更に去勢して、その穴に超高温に熱した鉄の棒を突っ込んで、グリグリしてさしあげます」


 と、笑顔で言ったときは、カエデ共々ドン引きした。


 そして、案の定と言うべきか、二人を俺の専属にしたいとラスティーに言ったら、滅茶苦茶怒られたのは言うまでもない。


 何故なら、俺の立場は現在かなり微妙なのだ。


 ただでさえ「無能」のレッテルを張られているのに、好き勝手やている為、最近ではバカにされる事を超え、誰にも話しかけられないようになってしまった。


 そんな俺を必死で庇い続けているのがラスティーなのだ。


 そんなラスティーにとってみれば、俺の行動はマジで心配の種なのだろう。


 ほんと、ラスティーには感謝してもし足りないくらいだな。



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



 次の日。


 俺は、サクラ、カエデ、クリュエルを連れて、こっそりと作った地下に来ていた。地下は、地上から百メートルも下に作ったので、俺たち以外の人間にバレる心配はない。


 そして、地下に行くと、そこには拉致られた男達が、口々に喚いていた。


 いきなり拉致られたのだから当然だといえるだろう。


 そして、男達は、俺達を見ると、「ぶっ殺す」だの、「ここから出せ」だの、そんな事ばかり叫ぶ。


 全く、もう少しボキャブラリーを増やせないのか?


 そんな事を考えながら、俺は男共の前に立つ。


 勿論男共は個別の牢屋に入れられている為、俺に襲い掛かる事は出来ない。


「やあ、蛆虫共。気分はどうだい?」


 俺は、大仰な演技をしながらそう語りかける。


「ふざけんじゃねえ!」「ここから出せ!」「ぶっ殺すぞ!?」


 と、男共はまだそんな事を言っている。


「駄目ですよ。そんな事を言っては。お前らはここから出る事など出来ない。そもそも最初からお前らを解放する気なら拉致ってなんかいないしな。いい加減頭を働かせろ。お前らは――――」


 ここで俺は一拍置いて、そして言った。


「――――ここで死ぬ」


 その言葉で、一瞬シーンとなったが、次の瞬間、男共は再び口々に喚き始めた。叫んでいることは先程と同じ。


 まあ、せいぜい叶わぬ夢を見ながら囀るといい。


 お前らは今から俺の実験動物と化すんだからな。


「サクラ」


 俺が一言そう言うと、サクラは「はい!」と元気よく返事を、適当な牢屋の前に立つと、その牢屋の鍵を開けた。


 当然ながら、中にいた男が必死の形相で、走り出てくるが、サクラはその男の腹に、闇魔法・・・重力を纏わせ、殴りつける。


 吹き飛び、口から嘔吐する男を無邪気な笑みを浮かべながら見下ろしたサクラは、一度男の頭をこれまた重力を纏わせ踏みつける。


 完全に気絶した男の髪を掴みながら、サクラは「んしょんしょ」と可愛らしい声を上げながら引き摺ってくる。


 その異様なギャップが、再びこの地下を沈黙が染め上げる。


「ご苦労だったなサクラ。それにしても随分と魔法の腕を上げたな」


「はい!頑張りましたマスター!」


「そうか。じゃあそのクソを実験室に運んでくれ」


「分かりました!」


 そう言って、サクラはまた「んしょんしょ」と言いながら男を引き摺って行く。


 何故魔法で浮かせないのか?という疑問は浮かび上がるが、サクラはどこかアホな所があるから深くは言うまい。


 さて・・・。


「カエデ、クリュエル。来い」


 俺は二人を連れて実験室にいく。


 そこには、先程の男が両手両足を縛られた状態で、しかも全裸で横たわっていた。これが美人な女だと興奮の一つでもするのかもしれないが、全裸の、しかもキモいオッサンだと死ぬほど気持ち悪い。


 というか、後ろでカエデが吐いている。


 気持ちは分からなくもないが、掃除が面倒だから止めてくれないか。それに今からもっとグロイ事をするんだが。


 俺は男の前に立つと、“改造”のギフトを発動させる。


 このギフトを発動すると、俺の視界に入るモノ全てがデータ情報として視認できるようになる。俺はそれを弄くりまわして“改造”を行う。


 要は、プログラムを書き換えるたり修正したりする作業に近いかもしれない。


 俺はまず、男の身体の作りを適当に弄る。


 その時、男は一瞬で目覚め、そして、ありえない程の絶叫を迸らせる。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!」


 どうやら身体を弄られるのは想像を絶する痛みを伴うらしいな。


 くく、まずは発見その一だな。


 もちろん、俺はキモい男の絶叫を聞いても“改造”の手は止めない。それに、こいつ一人壊しても、また別の実験体を使えば良いだけの話しだ。


 ふむ。


 身体の構造を作り変えるというのは中々に面白いな。よし、こいつはとりあえず、一年前にボコボコにしたオークと同じ肉体構造に改造しよう。


 あの時はこのギフトが無くて適当に解剖して遊んでいたが、その時の知識で何とかなるだろ。


 そうして、俺は適当にこの実験体・・・一号と呼ぼう・・・を弄くりまわした。


 結果、一号は普通に死んだが、分かった事もあるので、俺としては満足のいく結果になったと思う。


 ちなみにカエデには余りにも刺激が強過ぎたのか、そこら辺で気絶していた。


 クリュエルは普通にしていた・・・というか、どことなく嬉しそうな風に見えたのは俺の気のせいだろうか?


 まあいい。


 こうして、俺は次々と男共を改造していった。


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