第4話:新たなる仲間
サクラを仲間にした後、俺は奴隷市場の外れに来ていた。
「えっと、ここで何をなさるのですか・・・?」
サクラが俺に尋ねる。
どうでもいいが、こいつやけに喋り方が上品だな。
もしかして元貴族だったりするのか?まあ、記憶が無いのなら詮索の使用がないが。
「ああ。お前の首についているその首輪を外そうと思ってな」
俺はそう言ってサクラの首についている首輪を指さす。
その首輪は通称「奴隷の首輪」と呼ばれるマジックアイテムだ。マジックアイテムとは、その名の通り、魔力的性質を持つ道具の事だ。
そして、「奴隷の首輪」は奴隷に使用するマジックアイテム。
これを付けられた者は、3種類の呪いを負う事になる。
一つ目、他者に危害を加える事が出来ない。二つ目、首輪を付けた者の命令が無ければ行動を起こせない。三つ目、自殺出来ない。
「で、でも、どうやってこの首輪をお外しになるのですか?」
サクラの疑問も最もだ。
「奴隷の首輪」は普通の魔法では解除出来ない。解除するには、それ相応の魔導師を用意し、それ相応の時間を掛けなくてはならないのだ。
もちろんそんな事を出来るだけの金も権力も俺は持っていない。
しかし、俺にはこの世界で俺しか持っていない力がある。
―――そう、“特典”だ。
俺は腰から一本のナイフを取り出した。このナイフは、奴隷商館の中にいたクソ共を殺した時に奪ったものだ。
「サクラ、少しジッとしていろ」
俺の言葉に従順に頷くサクラ。
俺は、ナイフを首輪に近づけ、そして・・・首輪を切断した。
パキという音を立てて、サクラの首から外れた首輪はボトッと地面に落ちた。
それを見たサクラは驚愕に目を見開く。
「い、今のどうやったのでございますかっ!?」
「これは俺が持っている“剣帝”という能力を使ったんだ」
「・・・“剣帝”?」
「そうだ。“剣帝”の能力は刃の性質を持つものに“切断”の概念を付加する能力だ。これを使って俺はその首輪の呪いを切断した」
ここでは面倒なのでサクラに言わないがこの能力は“概念”を付加する為、この世界の理内のモノなら何でも切断できる。
つまり、魔法であろうと、呪いであろうとだ。
もう一つのギフトについては追々説明するとして、一応の目的を果たしたから、さっさと家に戻るか。
「サクラ。帰るぞ」
俺はそれだけ言って歩き出した。
「あ、お待ちになって下さい!」
歩き出した俺を、サクラは慌てながらついてくる。
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「ななな何やってるんですか坊ちゃまっ!?」
家・・・というか屋敷に帰り、ラスティに「奴隷を買ってきた」と言ったらメチャクチャ驚かれた。
まあ今日は朝に、「僕はきょう、ひとりであそぶね?」とカワイ子ぶって出かけてそのまま奴隷市場に来たからな。
“氣”を使って身体能力を強化したら楽勝で着いたし。ちなみに帰りはサクラを負ぶって同じように帰ってきた。
流石にそれだけの距離を“氣”を使って移動するとかなり疲れたが。まあ、これに関しては要修行だな。
「そんなにおこらないで・・・」
俺は涙目になってラスティに言う。
「はうっ!そ、そんな可愛らしい瞳で・・・。し、しかし今回は厳しく行かせて貰います!」
と、そういうラスティ。
っち、陥落出来なかったか。
ちなみに、後ろにいるサクラは俺の事を「誰?」っていう目で見つめているのが何となく分かる。
まああの時の俺と今の俺では性格が全然違うからな。
「じゃあラスティ、この子をすてるの・・・?」
厳しく行きますと言ったラスティに俺はしつこく泣き落としに入る。
「う、そ、それは・・・」
俺にそう言われて、言葉を詰まらせるラスティ。
普通に考えて俺と同い年の奴隷の少女を捨てるなんて言える筈がない。それにラスティは人一倍優しい性格だ。尚更だろう。
「し、仕方ないですね。でも旦那様には内緒ですよ」
最終的に折れたラスティは、サクラをメイド見習いとして雇う事に賛成してくれた。
正直に言えば、ラスティをメイド見習いとして雇うか否かは俺の一存で決められる。屋敷内で疎まれている俺でも、それくらいは出来る。
正確には“まだ”出来るだが。
では何故ラスティに確認したのか。それはまあ・・・何となくだ。
一応理由としては、どうやら俺はラスティの事を家族と認識しているようだ。だからだろう。
だって何かを決める時、家族に相談するのは当たり前だろ?少なくとも一人の命を預かる事に関しては。
ちなみにラスティ以外は全て物だと思ってる。いずれサクラも家族だと思える日が来るのだとは思うが。・・・俺の性格上。
とりあえず俺はサクラの前に立つ。
「サクラ。今日からお前は俺の専属メイド見習いだ。俺の為に全てを捧げろ。いいな?」
ラスティに聞こえないように、俺はそう言った。
「はいっ!分かりました!」
元気よくそう返事するサクラ。
ちなみに、全てと言ったが、性的な事は含まれていない。今の所は。
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その日の夜、ベットの中でスヤスヤと眠っていると、誰かが入ってくる気配がした。
俺は意識を一瞬で覚醒させる。
誰だ?ラスティは睡眠中には来ない筈だが。残るは暗殺者か?
仮にそうだとしたら随分と調子に乗った暗殺者だな。俺を殺せる気でいるとは。
気配が十分に近づいたと同時に、俺は毛布を蹴り飛ばし、入ってきた者に被せる。そして、その者の背後に回り込み、床に押さえつける。
「ふえぐふぅ!」
マヌケな声を出す暗殺者。
・・・いや、この声は暗殺者ではない。これはサクラの声だ。
俺は毛布を取り、目を回しているサクラを見た。
「何してんだお前?」
「あう・・・、そ、それは・・・そのですね・・・」
モジモジと頬を赤らめるサクラ。
一瞬俺の夜の相手か?とも思ったが、八歳のサクラにその思考はある筈がないし、仮にあったとしてもこんな夜中に来るのはありえない。
なら何か他の要因だと考えるのが妥当だろう。
「もしかしてトイレか?」
とりあえず思いついた事をそのままに口にだす。
「・・・・・・・・・・・・・」
どうやら図星だったらしい。
恐らくトイレに行きたくなったが場所が分からず、仕方なく俺の所に来たという所だろう。
行動自体は意味不明だが、八歳児で記憶喪失だと考えれば仕方ない・・・のか?
「はあ。じゃあトイレに行くぞ」
「す、すいません・・・」
顔を真っ赤にしてしょんぼりとついてくるサクラは可愛らしく、少し萌えた。
トイレまで案内させると、出口でサクラが終わるまで待つ。
「ちゃんと拭いて、手を洗ってこいよー」
ちなみにサクラを連れてきたのはアヴニール家の人間専用のトイレだ。サクラが使っているのがバレたら確実に殺されるのだが、まあその時は俺がそいつらを殺す。
「あ、はい。わかりました」
そう一生懸命声を張り上げて返事をするサクラをカワイイと思った。
暫くして、サクラが出てきた。
「あ、あの・・・。すいませんでした・・・」
顔を真っ赤にさせて出てきたサクラに俺は微笑みながら頭を撫でた。
「気にするな。お前は俺の大切な仲間なんだからな」
「マ、マスター」
サクラは幸せそうな顔でそう言った。
というか俺に対する呼び方「マスター」かよ。まあ、俺は「マスター」の方が好きだから問題はない。普通に「ご主人様」も好きだが。
トイレが終わったサクラを、俺は部屋(メイド専用で、五人で一部屋)に送り届けると、部屋に戻り、睡眠の続きをした。
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「おお、元気にしておるか」
「・・・・・・・・・・・・・マジか」
眠ったと思ったら、何故か真っ白な空間にいた。
ここは俺が転生する時にいた空間に酷似している。そして目の前にはあのクソ幼女が。
「なんのようだ?人の睡眠を邪魔するな」
俺が少し不機嫌そうな顔で言うと、幼女は気にせず笑う。
「ふはは!気にするでない。それに今からする話しはお主の益になる話しじゃからな」
「俺の・・・?」
「そうじゃ。今からお主にもう一つチカラを与えようと思っての」
随分とご都合主義だな。
まあ、ギフトが貰えるというのならありがたく貰っておこう。
「で、そのもう一つのチカラというのは?」
「うむ。“改造”という名のチカラじゃ。能力は文字通り、あらゆるものを改造するのじゃ」
「成る程な。了解した。ありがたく使わせて貰おう」
「うむ。でわな」
そう幼女が言うと、俺の意識は暗転した。




