第3話:奴隷市場
八歳になった俺は今、初めて奴隷市場という所に来ていた。しかも一人でだ。流石にラスティーを連れてくる訳にはいかない。
そして、何故俺が奴隷市場に来ているかというと、別に厭らしい意味目的ではない。
単純に信頼出来る仲間が欲しかったのだ。
俺に対する迫害は、今も続いている。というか段々酷くなっていっている。最近では古株の使用人にですらバカにされる始末だ。
ということは、俺は弱いままなのか?という事になるが、そういうわけじゃない。
俺はこの三年の訓練で、かなりのレベルにまで行った筈だ。
ギフトと無属性魔法。
この両方を上手く訓練出来たと思う。
勿論まだまだ発展途上だが。
まあ、今はそんな事はどうでもいい。
今日は奴隷を買いに来たのだ。
「さて、良い奴隷はいないかなー」
そう呟きながら俺は歩く。
個人的には美少女がいいな。別に厭らしい意味とかはなく。単に俺のメイドさんになって欲しいだけだ。
・・・言っておくがいやらしい意味では断じてないぞ。
「おいお坊ちゃま!ここはお前みたいなクソガキが来る所じゃねえぞ?」
俺が歩いていると、ガラの悪そうなデカい男が俺にちょっかいを出してきた。
男はかなりデカくて、子供俺の五倍はある程の巨体だ。
だが、ただデカいだけの男に俺がビビるわけないだろうが。
「うるさいなクソゴリラ。俺に構わずさっさと消えろ」
俺はそう吐き捨てる。
当然ながら、ゴリラは俺に対して激昂する。
「なんだとてめえ!!ガキだからって調子に乗ってんじゃねえぞ!?ぶち殺されてぇのか!?」
おおコワっ・・・(笑)
「黙れ。吠えるだけしか能のないウンコクズ」
自重を知らない俺の暴言に、男の限界がとうとう振り切れる。
というか限界くるの早すぎだろ。もう少し我慢強くならないとお前一生、やられキャラのクソモブだぞ。
そんな事を思っていたら、男に腕を思いっきり掴まれた。
流石に子供の腕なので、男の力でミシミシと骨が軋む。
クソが。痛いじゃねえか。
俺は咄嗟に“氣”を腕に集中させて、骨の強度を強化する。その途端、軋みを上げていた骨が軋みを上げなくなり、更に痛みも感じなくなった。
「な、なに・・・?」
俺が顔色一つ変えないのを見た男が、戸惑いの声を上げる。
それを見た俺は、嘲るように笑いながら、言葉を紡ぐ。
「おいクソゴリラ。さっさとその薄汚い手を離せ」
「・・・上等だクソガキ。俺が目にモノ見せてやるよ・・・!!」
男はそう呟いた後、俺の首根っこを持って、移動し始めた。
移動した場所は、とある奴隷商店だった。奴隷の姿は見えないが、店員と思しき男達が俺を睨む。
やはり。
俺の予想通り、この男は奴隷商人関連の人間だったか。
男はその建物に入ると、俺を放り投げる。
俺は空中で体勢を整え、床に音を立てずに着地する。
「危ねえなクソゴリラ。死ねよ」
「クソガキ。お前はここで奴隷にする」
人差し指を突出し、男はそう宣言する。
その時、周りで見ているだけだった男達もワラワラと集まってきた。
「おいおいなんだよそのガキ」
「新しい奴隷か?その割には小奇麗だな。きゃはは!」
「ママのおっぱいが恋しいでちゅかー?ぎゃはははは!」
男達が一斉に笑う。
「おいおいどうしたクソガキ?今更ビビっちまったのか?」
俺を連れてきた男の一人がそう言ってくる。
・・・まあ、ここまで集まれば十分か。
俺がここに来た理由は二つ。
俺の無属性魔法がどこまで通用するのかと、無料で奴隷を一人手に入れる為だ。
だから、ここまで実験台になる奴らが集まれば十分だな。
「おいガキ!なんか言―――」
瞬間、男の頭が粉々に吹き飛んだ。
「・・・え?」
残った男の一人が状況を飲み込めていないのか、そう呟いた。
だが、俺はそんな隙を逃しはしない。
俺は咄嗟に周りにいた男達の足を粉々に吹き飛ばす。
支えを失った男達が自由落下し、俺の目線の高さになったのを確認したと同時に、今度は男共の頭を粉々に吹き飛ばした。
ここまで行うのにかかった時間は僅か二秒。
一切の絶叫をさせることなく殺す事が出来た。
ここで俺が使った魔法は、俺のオリジナルだ。
俺は魔法の訓練を行う時に、考えた。どうやったら無属性魔法を最強に出来るのかと。幸い地球人だった俺は、知っているアニメや漫画やゲームの知識を動員した。
その結果導き出したのが、“超振動”だ。
“超振動”させる事によって、物体の原子の繋がりを破壊する事が出来る。
しかもコレの凄い所は、魔法にも使用可能だという事だ。
訓練の時に気付いたんだが、魔法を発動するのに必要なのは魔力。そして魔力を構成しているのが、極小の魔力の粒だった。分かり難いがそういう事なのだ。
だから俺はこの魔力の粒・・・魔素・・・を超振動させる術を思いついた。
結局なにが言いたいのかというと、この超振動は、敵の魔法の結合すら強制的に破壊する。つまり、俺のこの魔法は、あらゆる魔法に対して上位に属するという事だ。
ちなみに、ただ結合を破壊するだけではジミなので、結合を破壊したと同時に吹き飛ばす魔法も同時に使用している。
これでいくらかは派手に見える。
―――我ながら自分の才能には惚れ惚れする。
無残な死体の中心で薄気味悪く笑っていると、店の中にある扉の一つが開いた。そしてそこから一人の女の子が出てきた。
歳は俺とほぼ同じだろう。ピンク色の髪をショートにした可愛らしい女の子だ。
「あ、あの・・・」
女の子は、俺の姿を確認すると、おずおずと声を掛けてきた。
こいつ。この死体を見ても動じないのか?
「なんだ?」
「え、えと・・・。こ、これはあなた様がおやりになったんですか?」
目に涙を溜めて聞いてくる様は、保護欲を刺激する。
「ああ。俺がやった。俺の為に死んで貰った」
それを聞いた女の子は無言だ。
「どうした?俺が怖いのか?まあ確かにこんな気色の悪い死体を見せられたら誰だって怖いわな」
「あ、あの・・・!」
と、女の子は俺を決意に満ちた目で見つめてくる。
なんだ?
フラグは一切建ててないんだが。
「私をお買いになっては下さいませんか・・・っ!?」
いきなり何を言いだすんだこの少女。
「おいおい。正気か?俺は人をこんな残虐なやり方で殺す奴だぞ?」
「でも、それは必要だと思われたからやったんですよね?」
「必要っていうか・・・。まあ結局の所、国が黙認しているとはいえ奴隷を売っているクズ共だ。なんの役にも立たないのなら結局有効活用するのが一番だと思っただけだ」
自分も結局奴隷を買おうとしていたクセに良くこんな言葉が吐けるものだと、俺は自己嫌悪しながら、そう言った。
「そ、それは確かに有効活用ですね・・・っ」
「ふふふ、そうだろ―――え?」
「え?」
女の子は俺の疑問の表情に可愛らしく首を傾げる。はあ、和むわー。
じゃなくて!
なんで今の俺の答えに納得できるんだよ。普通なら唾棄すべき思想だろうが。
もしかしてこの少女、頭がおかしいのか?俺と同じで。
だが・・・そこが良い!
「いいだろう小娘よ。貴様を買ってやろう。名はなんと言う?」
些か大仰に言うと、女の子はピシッと背筋を伸ばした。それがまた愛らしい。しかし、直ぐに女の子はしょんぼりとした顔をする。
「す、すいません・・・。私・・・名前ないんです。・・・というか記憶がないんです・・・っ」
・・・ふむ。
成程、それはあれだな。中々面倒な設定だな。
だがしかし、俺がここで名前をプレゼントすれば、この少女の乙女回路がギュンギュン回り、俺への好感度もギュインギュインアップするに違いない。
ということで、俺はこの女の子への名前を考える。
まあ、髪がピンクだから「サクラ」でいいだろ。
「心配するな。俺がお前に“サクラ”という名前を与えてやる。そしてそれが俺とお前の契約の証だ」
と、適当に言うと、女の子改めサクラは目に涙を一杯溜めて、俺に抱き着いてきた。
ふはは!計画通り!
こうして、俺はサクラという仲間を手に入れたのであった。
ちなみにこの日、奴隷商会が一つ潰れたという話しが、僅かに奴隷市場を賑わせた。




