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第10話:誕生パーティー

後半かなりぶっ飛んだ話しになってます。




 城の中に入った俺達は、馬車を隅っこの方へ停める。隅っこに停めるというのが、今の俺の地位の現状を物語っている。


 俺はラスティーとサクラを後ろに連れて、城内に向かう。


 途中何人もの兵士とすれ違い、中には俺に挨拶をしてくれる騎士もいたが、ほとんどの奴らは、俺がアヴニール家の次男だと分かると、露骨にバカにしたような態度をとった。


 どんなに才能の無い奴でも、魔法は努力さえすればある程度のレベルにまでは行ける。なのに無属性魔法を少ししか使えないなんて才能の有る無しのレベルではない。


 そんな奴が、地位だけは自分達より上なのだ。


 当然ながら良い感情を持たれる筈が無い。


「坊ちゃま、あまり気にしないで下さいね?」


 騎士達の余りの態度にラスティーが俺にそう言うが、元々俺は全く気にしていない。


「大丈夫だよラスティー。それに僕が無属性魔法しか使えない無能だというのは事実だしね」


 まあ、それでもこの国の一等騎士よりかは強いけどな。


 その後、微妙な沈黙を保ちながら、俺はパーティー会場へと続く扉の前に立った。


 騎士の一人が、俺の身分を確認する。


 そして、毎度の事だが、俺が「カイス=アヴニール」だと告げると、こいつもバカにしたような、軽薄な笑みを浮かべた。


 ―――そろそろ我慢の限界なんだが。


 しかしここで暴れる訳にもいかないので、何とか耐える。


「ではどうぞお入り下さい」


 ニヤニヤしながら、その騎士は扉を開けた。


 俺はイライラを押さえながら、会場へと足を踏み入れた。



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



 パーティーは最悪だ。


 あの後会場に入った瞬間、既に来ていた貴族共から、「遅れて来るとは良いご身分ですね」と陰口を叩かれまくった。


 そして、今、俺は複数の貴族と雑談をしている。


「カイス殿、兄上のような立派な魔法をここで少し披露しては下さらんか?」


 太った気色の悪い貴族が俺にそう言う。


「おお!それは良いですな!」


「さぞ素晴らしい魔法を見せてくれるのでしょう!」


 と、その周りにいた貴族共が同調するように口々にはやし立てる。


「すいません。私の魔法は兄上に比べたら未熟でございます。皆様に見せられる代物ではございません」


 ああくそ、面倒くさい。


 俺をバカにするくらいならてめえらのアホな息子の縁談でも考えてろ。


 内心で毒を吐くが、所詮は心の中。何の意味も成さない。


「おやおや、モルガン公爵のお願いを無視すると言うのですかな?」


 一人の貴族が俺にそう言ってきた。


 モルガン公爵・・・このクソデブがあの悪い意味で有名な男か。確かこいつの親は非常に優秀な宰相で、その子供であるモルガンもまわりからかなり期待されていたと聞いた事がある。


 しかしモルガン自身は得に目立った才のない凡庸な男だった。


 そして自分の息子もまた特筆すべき才のない男。


 その事に強いコンプレックスを持っているモルガンは、優秀な子息をもつ他の貴族が嫌いで、更に優秀ではない貴族の子供をこう言ったパーティーでバカにする事が多々あるらしい。


「・・・わかりました」


 例えどんなにムカつく奴でも、殺したい奴でも、こいつは公爵だ。


 下手に反感を買えば、迷惑がかかるのは、俺の専属メイドであるラスティーだ。流石のおれでもそれだけは避けたい。


 俺は了解の意の言葉を述べると、手に魔力を集める。


 ―――ポン。


 手のひらに拳大の魔力の弾を出す。


 無属性魔法の中で、最もポピュラーな攻撃魔法である、〈マジックボール〉だ。


「すいません。これが今の私の限界です」


 精一杯やりましたよという空気を醸し出しながら、俺はそう告げる。


 すると案の定あちこちから、クスクスとバカにするような笑い声が聞こえる。


「おやおや、これはこれは美しいマジックボールではありませんか。どれどれ・・・」


 至って普通(・・・・・)のマジックボールをそう褒めたモルガンは、小馬鹿にしたように俺のマジックボールに触れる。


 その瞬間、マジックボールが音もなく霧散した。


 それにワザとらしく驚くモルガン。


「おおっ!これはこれは何とも珍しいものを見せて頂いた!こんなにすぐ消えるマジックボールは見た事が無い!」


「あははは!本当ですなモルガン公爵!」


 そして、パーティーに来ていた大多数の貴族が大きな声を上げて笑う。中には、俺のような子供を見せしめにして何が楽しいのか、という顔をしている貴族もいるが、誰も公爵に逆らいたくないので、皆黙っている。


「すいません。私はこれで失礼します」


 俺は適当にそう言って、その場から立ち去った。


 その時後ろから、


「カイス殿!また今の様な不思議な魔法を見せて下され!あっははははは!」


 俺は、不快なモルガンの言葉を背に、パーティー会場を後にした。



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



「があーー!!ふざけんじゃねえあのクソデブがあ!!」


 会場から出た俺は、城の裏側にある人気のない所で、ストレス発散(・・・・・・)をしていた。


「マスター、それならここにいる奴ら皆殺しにしますか?」


 俺に付いてきたサクラがそんな事を言いだす。


「いや、それは無理だ。今の俺達じゃ、聖騎士連中には勝てない」


「そうなんですか?」


「ああ」


 聖騎士。


 それは王を直属に護衛する騎士達の総称。人数はトータルで十二人おり、完全実力主義を貫いている。


 騎士の階級は、聖騎士→守護騎士→上級騎士→下級騎士→一等騎士→二等騎士→三等騎士→従騎士→騎士見習い→雑用となっている。


 守護騎士以上は実力がなければなれない。上級騎士までは、戦場での功績によって決まるので、基本誰にでもなれるチャンスはある。


 しかしそれ以上は違う。


 リアルト王国は、兵の数こそ少ないものの、その質は中央大陸一と呼ばれる程だ。


 そんな奴らを相手に、今の俺の実力じゃ返り討ちにあうだけだ。


「だからマスターはそいつで我慢してるんですか?」


 俺の言葉に、サクラはそう漏らす。



 俺は、目の前に四肢を失い、虚ろな目で大量の血を辺りに撒き散らせている男に目をやった。



「そうだな。にしても“超振動”のチカラは偉大だな。腕や足が一瞬で無くなるんだからな。くくく」


「あははは!確かにアレは見ていて楽しいですねマスター!私も好きです!」


 頭の可笑しい会話だとは思うが、まあ何だかんだで良いストレス発散になったので、良しとしよう。


「さて、そろそろ戻るか」


 俺そう呟いた後、“超振動”で死にかけのこの男を完全に消し去る。血の跡しらも残らずキチンと掃除した俺は、スッキリした気分で会場に戻ろうとした。


 その時、上から誰かの気配がした。


 俺が上を向くと、そこには一人の女の子が城壁から垂れ下がっているツタを使って降りてこようとする姿だった。


「あの子は何をしているのでしょうか?マスター?」


 サクラが可愛らしく尋ねる。


「知らん。どうせオツムの弱いバカだろ」


 俺はそう言って、その場から立ち去ろうとした。普通に考えアレはこの国の姫だろう。ああいう箱入りは無駄に「外の世界が見たい!」とかアホな事を考え行動にでるからな。


 アレもその一種だろう。


 と、思った瞬間、少女がツタから手を離してしまい、そのまま落下しやがった。


「きゃあああああああああああ!」


 という悲鳴を上げながら落下する少女は見ながら、俺は一言、


「サクラ」


 そう言う。


 サクラは、右手を前にかざす。すると、右手の甲に魔導刻印が浮かび上がる。そしてそれと同時に、サクラの落下速度が急激に弱まり、ゆっくりと地面に降りて行く。


「きゃあああ・・・あ、アレ?ど、どうして・・・?」


 何が起こったのか分からない少女は、オロオロしながら辺りを見渡す。


 少女が地面に降り立ったのを確認すると、俺は少女に近づいた。その際にサクラに目配せする。


 その合図を受けたサクラは、その場から一瞬で消える。


 サクラ達はなるべく他の奴らには見せたくない。あいつらは俺の切り札にも等しい存在だからな。


「おい」


 俺が近づき声を掛けると、その少女はビクゥッ!と身体を硬直させた。


 それを気にせず、俺は更に話しかける。


「何してんだこんな所で。それにお前この国の姫のキアラ=テル=リアルトだろ?」


 そう言うと、少女・・・キアラは、目に涙を一杯溜めて、俺に謝ってきた。


「ごめんなさい!私どうしてもここから抜け出したくて!それで!その・・・うぅ・・・」


 今にも泣きそうな彼女を見ても、一切の同情の心が湧いてこない。


 こういう頭の悪そうな女は基本嫌いなのだ。


「あーあー、ウザいから泣くな。ぶっ殺すぞ」


「ふえっ!?こ、殺すの!?」


 俺の言葉に、その表情に絶望を張り付ける姫さん。


「だあー!嘘に決まってんだろ!平民の間で流行ってんだよ。少しでもムカつく事があったらぶっ殺すって言うのがな」


 勿論嘘だが。


 そんな物騒なモノが流行っていたら世も末だ。


「そ、そうなんだ・・・。やっぱり外の世界って面白いんだね」


 ほえー。といった感じでしみじみという姫様。


 やっぱり世界中の姫様と同じ様に、こいつも退屈から抜け出したいとかそういうのか?


 気になった俺は尋ねる事にした。


「お前なんで城から抜け出そうとしたんだ?やっぱあれか?退屈な毎日に嫌気が指したとかそんなのか?」


 そう言うと、姫さんは、目を大きく見開いた。


 どっからどうみても「私驚いてますよー」といった表情だ。


「凄い!何で分かったの!?君もしかして魔法使い?」


 魔法使いとは、戦闘しか出来ない魔導師を皮肉った言葉として戦場で流行した。誰かを殺すのではなく、不思議な力で誰かを楽しませる者。そういう意味合いで。


 最近では、見た事もない不思議な力を使う者を魔法使いと呼ぶのが一般的だ。


「俺は魔法使いじゃない。魔導師ではあるけどな」


「そ、そうなんだ。私も魔導師なんだけど、魔法はあまり上手くないの・・・」


 まあ王族に必要なのは魔法の才能ではなく、政治の才能だからな。


「なにしょぼくれてんだ。無能と言われてる俺に比べたら遥かにマシだと思うがな」


 姫さんは俺のその言葉に驚く。


「え!?じゃああなたがカイス=アヴニールなの?」


「ああ。俺が有名な“無能”のカイスだ」


 将来的には“異常者”のカイスとかになりそうな気もするがな。


 まあ、どっちにしろ嬉しい二つ名ではないな。


「ねえ・・・」


 姫さんが、少し俯き気味に俺に話しかけた。少し悲しげな表情だが。


「あ?なんだ?」


「“無能”って言われて・・・悲しくないの?つらくないの?」


 ・・・・ふむ。


 何故そんな事を聞いてきたのかは分からない。ま、こいつにも色々と思う所があるんだろうし、子供心に、そう思うのはむしろ普通と言える。


 俺はそれにどう答えようか迷う。


 一言「全然」と答えるのは簡単だし、そうするのが一番この姫様と別れるのに都合が良い。


 これ以上一緒にいて、何かしらの面倒な事が起きたら厄介だし、またバカにされればストレス発散の道具を調達しなければならない。


 だから言えば良かった。


 ―――全然気にしていない。


 と。


 しかし、それを言うのが一瞬だけ躊躇われた。目の前にいる少女の真っ直ぐな瞳に押されたのかもしれない。


「そんな事より面白い話しをしてやるよ」


 だから俺はどうでもいい話しをしていた。


 姫さんの方も、「なんで答えないの?」という顔をしていたが、元々我が強い訳でもないのだろう、そのまま黙って俺の話しに耳を傾けた。


 俺は、お約束のように、自分の過去をぼかして言う―――なんてベタな事をするつもりはない。


 幸い、前世の記憶がある俺は、地球で知っている話しを姫さんに聞かせた。


 有名所である「ロミオとジュリエット」や「源氏物語」などを、こいつでも分かるように噛み砕いて。


 俺の語りが面白かったかは分からないが、瞳をキラキラさせている所を見ると、どうやら喜んで貰えたようだ。


「凄い凄い!こんな面白いお話し聞いたことないよ!」


 どうやら大満足だったらしく、最初のオドオドした感じとは打って変わってのはしゃぎようだ。


 つか、そろそろ戻らなくては。


 これ以上は流石にマズイ。


「悪い姫様。俺はそろそろ戻る」


 そう言うと、姫さんは、あからさまに不機嫌そうな顔をした。


 どうやらこいつ、内弁慶らしいな。ある程度親しい奴には我儘を言えるけど、初対面にはオドオドする。


 どこの三姉妹の長女だ。


「えー、もう少しだけいいでしょ?ね?ね?」


 くそ、なんだかしらんが無性に殴りたい気分だ。


「ダメだ。俺は“無能”、お前は一国の“姫”。別に一生遊ばないって言ってるわけじゃない。ただ今日はここまでって言ってるんだ」


「うぅぅぅ~~~」


 可愛らしく呻くが、だからと言って罪悪感は一ミリも湧かない。


 俺の言っている事は正論だし、間違っているのはこいつだからな。


「分かったら部屋に戻れ、そこまでなら送ってやるから」


 ただ城壁を登るだけだからな。


 “氣”を使えば二秒と掛からない。


「じゃあ私の事はキアラって呼んで」


 どうやら拗ねたらしく、駄々っ子を思わせるような瞳で、そう俺に言ってくる。


「断る」


「な、なんで!?」


 まさか断られるとは思ってなかったのだろう。信じられないといった表情で俺に詰め寄る。


「一国の姫を呼び捨てに出来るか。俺はアホなハーレム主人公と違って面倒事は避けたいんだよ。少なくともこの時期はな」


 美少女からお願いされたからと言って、姫を呼び捨てになど出来るか。


 俺には主人公補正なんて便利なもんはないんだよ。


「それに俺は“無能”だ。そんな俺がおま―――」


「君は“無能”じゃないよ」


 俺の言葉を遮り、言い聞かせるように俺に言う姫。


「君は無能じゃないよ。だってあんな楽しいお話しを知ってるんだから」


 誇らしげにそう言う彼女を見て、俺は一瞬だけポカンとなった。


 それは初めてだった。


 前世でも、この世界でも、自分の事を誇らしげに褒めてくれる人に出会えたのは、初めてだったのだ。


 その事が柄にもなく恥ずかしくなった俺は、無理矢理姫様を抱いて、城壁を駆け上がった。


 二秒程で登り終え、バルコニーに姫さんを下ろした俺はすぐさま後ろを向いた。


 そのまま行こうとしたが、俺はふと質問に答えなかったままだという事を思い出した。


「さっきの質問の答え・・・」


「うん」


「答えは全然気にしてない。確かにバカにされれば多少はムカつくが、ウジウジ引き摺る程のことじゃないからな。所詮は金や地位に固執するつまらん奴らだ」


 後半は少しカッコつけたが、大方俺は本音を語った。


 褒めてもらえた事が俺が思っている以上に嬉しかったのかしれないなと、頭の片隅でそう思いながら、俺は少女の言葉をまった。


「じゃあ・・・この国を変えようよ」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・・・。


 ・・・・・・・・。


 ・・・なんだと?


 俺は思わず振り向いた。


 それは完全に予想外の言葉。


 こんな、たかが九歳になったばかりの少女が口にする言葉ではない。


「それは・・・どういう意味だ?」


 俺が尋ねると、姫さんは、きょとんとした顔で、こう告げた。


「だってこの国の貴族は腐ってるから。そんな腐った貴族がいたら、この国も腐っちゃうよね。だから私思うんだ。ゴミはお掃除しなくちゃ」


 一瞬理解が出来なかった。


 無邪気な、さっきまでと変わらぬ表情で俺に言い放ったこの少女の言葉の内容は、端的に言えば“革命”だ。


 まだ子供だからボンヤリとしか考えていないことは読み取れたが、それでもおかしい。九歳の少女の思考ではない。


「お前、本当にキアラ=テル=リアルトか?もしかして二重人格とかでは?」


 思わずそう言ってしまったが、俺は答えが分かっていた。


 ―――この少女も異常者なのだ。


 俺とはまた違うが、この少女もまた異常という欠点を抱いて生まれてきてしまった。恐らくずっと見てきたのだろう。


 この国の貴族の腐った所を。


 一国の姫だ。そういうのを目にする機会は多いだろう。


 まあ、それを見て、聞いて、最終的に貴族を掃除するという考えに至ったのは、最早ぶっ飛んでるとしか言いようがないがな。


 だが・・・悪くない。


 クソみたいな所に来たと鬱になっていたが、最後にこんなサプライズが待っているとはな。


「おもしれえよ。キアラ(・・・)、やってやろうじゃねえか」


「うん!頑張ろうね、カイス」


 ここに、二人の小さき異常な革命者が誕生した。


衝動的に書いてしまいました。


ご感想お待ちしております。

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