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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第一巻
5/61

一章 メイザース学園生徒会(4)

 高等部第二校舎――一・二年教室棟。

 隣接する職員棟よりも大きく、一階分高いその屋上に神代紗耶はいた。彼女の長く艶やかな黒髪が、屋上風に弄ばれているように踊っている。

 彼女は落下防止用の柵に手をかけ、目下、この位置から丁度見える生徒会室の方を見下ろしていた。

 特に何かを考えているわけではない。ただ、学園の中枢の一つである生徒会室が上から見下せるということに、自分も所属しているだけあって少し複雑な気分だった。と――

「そんなところでそんな風にしていると、まるで飛び降り自殺前みたいだねえ」

 落ち着いた響きの軽口が、背後からかけられた。

 紗耶は特に慌てたりせず振り返り、少しだけ首を動かして声がした階段室の上を見上げる。そこに一人の男子生徒が悠然と腰かけていた。

「やあ」

 背が高く、着崩したブレザーを纏い、眉目秀麗という言葉を具現化したような顔に爽やかな笑みを浮かべる彼は、街中で友達に会った時みたいに気軽に手なんか振ってみせる。それだけだとただの好青年にしか見えないが、彼の頭髪はもれなく銀色に染まっていた。頭髪に関して特に指定のない学園だが、あんな髪の色をしているのは彼だけだろう。故に、紗耶は一瞬とかからず彼を認識した。

「何だ、あんたか」

 つまらなそうに呟いた紗耶に、よっ、と彼は勢いよく飛び降りて歩み寄る。そしてやれやれと肩を竦めながら、軽薄な口調で言ってくる。


挿絵(By みてみん)


「先輩に向かって『あんた』はないだろう。僕は一応二年生なんだから。そうだなぁ……『銀先輩』って呼んでくれると嬉しいな。――あー、いや待って、昔馴染みなんだから今まで通り『銀英』って呼び捨てにされるのもそれはそれで捨て難い……」

「何言ってんのよ、馬鹿? それより、生徒会副会長のあんたが何でこんなところで油売ってんのよ?」

 彼は御門銀英みかどぎんえい。紗耶と同じく、メイザース学園高等部生徒会に所属している『魔術師』である。だからあの銀髪には魔術的意味が――あるわけではない。自分の名前に『銀』があるからというしょうもない理由で染めているだけだ。仮にも生徒の見本たる生徒会なのに、それでいいのか疑問である。

 そんな彼は紗耶の問い詰めるような視線にも全く臆せず、からかうような口調で答える。

「いやぁ、こんな誰もいないところで油なんか売っても商売上がったりですよ」

「……、殴っていい?」

「ごめん、痛そうだからやめて」

 拳を握った紗耶に即行で謝る銀英。しかしその表情は何の危機感も抱いておらず、爽やかだがどこか軽薄な笑みを浮かべているままである。そんな彼に真っ白な視線を向けながら、紗耶はもう一度訊ねる。

「で、結局あんたは何してるわけ?」

「生徒会室でやってる会長たちの仕事を、ここで高みの見物しているのさ」

 今度は茶化したりはせず、銀英は泰然と答えた。

「仕事? ……ああ、あの血圧検査って偽った適性検査のこと。私はパスだったからどうやってるのか知らないけど」

「はは、そりゃまあ、神代家の宝刀・蒼炎龍牙を受け継ぎし姫様には必要ないことだからねえ。――あれはね、血圧計型の魔道具で魔力の素養を測ってるのさ。僕ら魔術師レベルの魔力を持ってる人間なら、一発でわかるんだ」

 ふぅーん、とだけ相槌を打って、紗耶はもう一度斜め下の生徒会室に目を向ける。何やらドタバタしているみたいだが、ここからでは具体的なことはわからない。

「ん?」同じように眺めた銀英は物珍しそうに細い目を見開き、「誰か適性者がいたみたいだね。今年は紗耶だけかと思ってたけど、こりゃ意外だ」

「どうせ素人でしょ。ていうか銀英、あんた月夜先輩たちを手伝わなくていいの?」

 腕を組んだ紗耶がジト目で問うと、銀英は頭を掻いて、気障っぽく笑った。

「だって面倒だし♪」

「このサボり魔!」

 全力で突っ込んだ紗耶だが、銀英は飄々とした態度を改めない。

「紗耶こそ、どうしてここに来たんだい? 一年は健康診断を行っているはずだけど?」

「もう全部終わったわよ。あたしは下見。今日の放課後、ここで戦るかもしれないんでしょ」

「いやぁ、仕事熱心だねえ。けっこうけっこう♪」

 飄々と言ってのけるサボリ魔。こいつは昔からこんな調子だ。

 これ以上付き合うのも面倒なので、紗耶は小さく溜息をついてから、帰る、と言って屋上を後にした。


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