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勝ち気令嬢、年下の第二王子を育て上げます  作者: 松原水仙


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6.婚約披露パーティー



 王城でベアトリスとオーウェンの婚約披露パーティーが開かれ、着飾った貴族たちでごった返している。これでもかと招待状を送ったので、レオとカミラの婚約披露パーティーよりも多い、約八百人の貴族たちが集った。


「私たちの方が人数が多いわ!」

「後出しで勝っても嬉しくない」

「馬鹿ね!こういうのって案外大事なのよ。甘ちゃんね」

「はあ?年下扱いすんな!」

「年下でしょ!」


 オーウェンは十四になり成人年齢に達した。とはいえ、見た目も中身も相変わらずだ。

 並ぶとヒールなしでもベアトリスの方が背が高い。ヒールは低めの三センチにした。


 婚約発表なので、カジュアルな立食パーティーにした。陛下の挨拶の後に二人が登場すると、割れんばかりの拍手が起こる。

 オーウェンは会場を一通り見回し、一人一人と顔を合わすように話し始めた。


「皆様、私たちの為にお集まりいただき、ありがとうございます。こんなに多くの方々にお祝いいただけて私たちは幸せです」


 可愛らしいオーウェンの挨拶にほっこりと場が温まる。


「なんて可愛いの。まだ十四歳ですって」

「ベアトリス様は十七歳よね?恋人というより姉のようね」


 クスクスという笑い声が、ぐさりとオーウェンの胸に刺さる。


 悪かったな、子どもで!


 ベアトリスは、まだあどけないオーウェンをちらりと目に入れる。


 まあ、どう見ても弟よね。


「胸を張りなさい。堂々としていれば気にならなくなるものよ」

「…分かっている」


 壇上での挨拶を済ませ、参加者たちに加わるとすぐに取り囲まれ、短いやりとりを交わしていく。その群れが突然左右に開き、レオとカミラが現れた。


「この度はご婚約おめでとう!実に喜ばしい」

「本当!とてもお似合いのお二人だわ!」


 姉弟のようなベアトリスたちを見比べ、カミラが笑う。


「あら、どうもありがとう。婚約発表に、まさか八百人も集まってくださると思わなくて、とても感激していたの!」


 わざとらしく人数を強調したベアトリスとカミラの間で見えない火花が散った。


「オーウェン、こういう場は初めてだろう?何かあればいつでも頼るといい。お前は可愛い私の弟なのだから」

「ありがとうございます、兄上。そのつもりです」


 一番の笑顔を見せたオーウェンに、安堵する。


 良かった。レオの前でも冷静ね。


「ベアトリス嬢。オーウェンはまだ十四歳です。至らぬ点もあるでしょうから、兄だと思っていつでも私を頼ってください」

「まあ、なんて有難いお言葉でしょう!でもご安心ください、王太子殿下。オーウェン殿下は私が選んだ伴侶です。きっと誰よりも素晴らしい夫になりますわ。私、人を見る目には自信がありますの。オーウェン殿下以上の方なんて、この世にいません!」


 ピクリとレオの頬が動くのを見逃さなかった。


「…それは、それは。弟をそこまで思ってくださり、兄として嬉しい限りです。お引き留めしてすみませんでしたね。楽しい夜を」


 スッと人混みに紛れていった。


 やっぱりね、とベアトリスは上がりそうになった口元を扇子で隠す。


 コンプレックスを持っているのは、レオの方。驚いたでしょうね、自分より七歳も下の弟があんなに優秀なんですもの。焦って恐怖したから潰そうとしたのよね?分かるわ、その気持ち。


 あっという間に終了の挨拶となり、オーウェンが皆の前に立った。


「えー、皆様。本日はこんなに楽しい時間を皆様と過ごせて、幸せを噛み締めています。ありがとうございました。実は私事なのですが、外国へ留学することが決まりました。他国にて学び、視野を広げ、色んな意味で大きくなって帰ってまいります」


 背のことだ、と笑いがおきる。が、笑っていない者がいた。レオとベアトリスである。


 …………聞いてないんだけど?



「ちょっと、どういうつもりよ?何を勝手に皆の前で発表しているの?」


 控室に戻った途端、オーウェンに詰め寄る。


「いつも驚かされる側だから、やり返したんだよ」

「何よ、それ?」

「気づいたんだ。自分の世界の狭さに。もっと多角的に物事を見たいし、人脈も広げたい。その為には、留学が一番手っ取り早い。だから」


 オーウェンはベアトリスの両手を握る。


「だから、それまで待っていて欲しい」


 下を向いたオーウェンがどんな顔をしているのか、声の真剣さで想像できた。


「いつ帰って来るか分からない人のことなんて、待っていられないわ。言ったでしょ?私、待つのは嫌いなの」

「…………」

「だけど、他の人と結婚はしないであげる。もう皆に発表しちゃったしね。まあ年上で地位があってお金持ちで顔が良くて強い人が現れたら分からないけど」

「…嫌だ」

「なら早く帰ってきなさいよね」


 ぐしゃぐしゃと右手でオーウェンの頭を撫でた。


「ガキ扱いすんな!」

「ちょうどいい位置にあるんだから仕方ないでしょ。まあ、あなたが自分で決めた事なら反対はしないわ。ちょっと私が行き遅れるだけ。気にしないで」


 目が笑っていない。この国では女性は二十歳までに結婚をという空気がある。


「帰ってきたらすぐに結婚しよう」

「ええ、そうね。指輪はルビーがいいわ。宝石の女王だもの。とびきり大きくて私に相応しいやつを用意して。ドレスや他の事は全部私の理想で手配しておくわ。いい?バックレたりしたら、王家に三倍の請求してやるからね?」

「ははっ。大丈夫。絶対帰って来るよ。約束する」



 こうしてベアトリスは十四歳のオーウェンと正式に婚約を結んだ。



 その二日後、燃えた倉庫から一人の遺体が見つかった。幸いというべきか雨により自然鎮火され身元の特定ができた。トロイであった。


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