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勝ち気令嬢、年下の第二王子を育て上げます  作者: 松原水仙


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40/41

40.進展

ディナーの時も、観劇の時も、目が合いそうになると逸らしてしまった。


帰宅後、自室に戻るなり、オーウェンに後ろから抱きしめられる。


「ベアトリス。俺、何かした?それとも…やっぱり朝のキスが嫌だった?」

「そうではないわ!」


 勢いで振り返ると、抱きしめた手から逃げたと思ったのか、オーウェンが正面を向いたベアトリスの両腕を掴んだ。射るように見られ、動けなくなる。


「じゃあ何?」

「そ、れは…」 


 自然と目が下に落ちていく。腕を掴む力が増して、沈黙が重くなった。視線が彷徨い、なかなか言葉が出てこない。

 しかしオーウェンが聞く体制に入っている以上、こちらから切り出すしかない。


「…イザベラが妊娠したでしょう。ちょっと、ほんのちょっとだけオーウェンを意識しちゃっただけよ!」


 やけくそのように叫ぶベアトリスの顔が赤い。誤魔化すように明後日の方向に視線を送っている。


「え」


 予想外だったのだろう。オーウェンは一瞬言葉に詰まり、すぐに赤面した。


「もういいでしょ!」


 腕の力が緩んだのをいいことに歩を進めてソファに座ろうとする彼女の腕を、再び後ろから掴む。


「それって、その、ベアトリスも俺を好きでいてくれているって思っていいの?」


 何も言わないベアトリスの耳だけが真っ赤で、愛おしさが増した。


「っ」


 オーウェンがベアトリスを振り向かせて、正面から抱きしめる。ベアトリスも抵抗しなかった。そろっと手をオーウェンの背中に回す。


「……嬉しすぎて死にそう」

「何よ、それ」


 フッと可笑しくなり、口元に手を当てた。

 オーウェンは熱くなった頬を隠すように右手で顔を覆う。しばらくそのままの状態で幸せを噛み締めた。

 数秒見つめ合ったのちに、ベアトリスが瞳を閉じた。

 その唇にそっとキスを落とす。

 触れるだけのキスを三度繰り返し、首元に回した手をグッと引き寄せたのを合図に、深いキスへと変わっていった。角度を変える度に息を切らせたベアトリスの吐息が漏れる。


「オーウェ…」


 味わうように続けていると、ベアトリスが膝から崩れ落ちかける。


「っと」


 慌てて腕を回し支えた。力の抜けた彼女を支えてソファに寝かせる。


「大丈夫?」


 肩で息をするベアトリスの目がトロンと潤っていて、ごくりと喉が鳴った。


 駄目だ、これ以上は…。


「お、俺、お茶でも貰ってくるよ」

「いらない」


 ドアへ向かおうとするオーウェンの服の裾を、ベアトリスが摘んだ。


「で、でも」


 こちらを見ないオーウェンに後ろから抱きつく。ジャケットの隙間に手を入れシャツの上から胸に手を当てると、ドクンと大きな振動が伝わってきた。


「ベ、アトリス。これ以上は俺、さすがに抑えきれなくなるから」

「別にいいわ」

「…え」


 言葉の意味を探るように首だけ後ろに向けると、ベアトリスの熱のこもった瞳とぶつかった。


「いいって…。え」

「だから、しましょうって言っているの」

「するって…」


 オーウェンは思考が追い付かず、焦って聞き返すことしかできない。見かねたベアトリスが立ち上がって、その顔を両手で挟み近づける。そのまま深いキスをした。オーウェンの顔が瞬く間にカッと血色を帯びる。


 されるがままになっていたが、熱に促され徐々にベアトリスを求め始める。何度かキスを重ね、ベアトリスを抱き上げてベッドに寝かせた。その上に跨る。


「ベアトリス。本当にいいの?俺、今、余裕がなさ過ぎて優しくできないかも」

「待てば余裕を持てる日がくるの?」

「うっ」

「私が誘ったんだから、いいに決まっているじゃない」

「うん。この日の為に何冊も本を読んで勉強してきたんだ」

「…そんな報告いらないわ」

「痛かったら殴ってもいいから」



 キスをしながらジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩める。

 フウッと蝋燭の火を消した。

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