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勝ち気令嬢、年下の第二王子を育て上げます  作者: 松原水仙


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39/41

39.妊娠

 四家の領土を統一し、オーウェンがルビア国全土を統べる王太子として扱われるようになったと同時に王城へと移り住んだ。


 背丈ほどある出窓から、たっぷりと陽光が射しこんでいる。鳥の鳴き声が聞こえ、青葉が揺れた。

 今日からここで新しい生活が始まる。


 真っ白い壁紙に、金色のシャンデリアがぶら下がっている夫婦の部屋は、解放感で満たされ清々しい。ゆったりとした二人掛けのソファで仕事前の一時をともに過ごしている。


「ベアトリス。一緒に来てくれてありがとう」

「何言っているの。当たり前でしょ」


 ベアトリスが怪訝そうに眉根を寄せて、隣に座るオーウェンの顔をじっと見る。


 そう言い切ってくれるのが嬉しい。ベアトリスのことだからスノー家に残ると言われるのかと思っていた。


 オーウェンは少し体を強張らせ、膝の上に置いた両手にギュッと力を入れた。その拳に視線を送りながら意を決して言う。


「ベアトリス。これから大事な会議があるんだ。だから、その」

「何よ、緊張しているの?大丈夫よ、オーウェンなら」

「その…、キスしてもいいかな?」


 眉をハの字にしながら、ベアトリスの顔を伺う。

 予想もしていなかった言葉にベアトリスは目をパチパチさせた。

 シャーロットの件があって以降、仲は元に戻ったがキスはしていなかった。


「やっぱり、俺とそういうことするのは嫌かな」


 視線を外して背中を丸めるオーウェンの声は消え入りそうだ。

 ベアトリスは呆れたようにオーウェンに体を近づけ、首に腕を回す。


「馬鹿ね。もう気にしてないわ」


 ベアトリスのヘーゼルの瞳に見上げられ、心臓が大きく動く。オーウェンは両手でベアトリスの背を支え、瞳を閉じた彼女にそっと触れるだけのキスをした。





「お姉様。そろそろ休憩にしましょう」


 イザベラはベアトリスの仕事を手伝っている。てきぱきと優先順位に応じて書類を分けてくれるので非常に助かる。ステンは王立騎士団に入りオーウェン付きの騎士になった。


 真っ白な大理石の丸テーブルの上に、湯気の立った紅茶が置かれた。中庭に面した窓ではオリーブの木が揺れている。


「ありがとう。イザベラの淹れるお茶は美味しいわ」

「ミルクを入れれば何でも美味しいと言うじゃない」

「そんなことないわよ。それより、あなたは飲まないの?」

「私、お姉様に言わなければいけないことがあるの」


 改まったイザベラに、つられてベアトリスも身を正しカップを置いた。


「私ね、妊娠したみたいなの」

「ええっ!」


 それ以上、言葉が出なくなった。イザベラは姉の反応を楽しむような顔をしている。


「……え、おめでとう。えっ。早すぎない?」

「ええ。お父様に了承を得たその日にステンに迫ったから」

「えっ」

「私から迫らないとステンは十年経っても手を出してくれないもの」


 ベアトリスは口をあんぐりさせて正面に座るイザベラをただ見つめる。子どもだったのに、いつの間にか大人びていた。


「…えーっと。でも、式が終わってからでも良かったんじゃない?」

「ステンもそう言って拒んできたけど、貴族と結婚する訳じゃないのに、そんなこと考える必要がある?私はずっとステンに触れたかったし、ステンに触れて欲しかった。だから女として見てくれているなら抱いてって脅したの」

「脅した…」

「そうよ。もう十年も片思いしていたのに、これ以上待つなんて無理だもの。あーだこーだうるさいから最終的に押し倒してやったのよ。夢みたいな時間だったわ」


 うっとりと、夢見る乙女のような顔をする。


「…あなたって情熱的なタイプだったのね」

「まあね。ところでお姉様はどうなの?」

「どうって?」

「オーウェンとそういうことをしているのかってことよ」

「はあっ?」


 真っ赤になったベアトリスの反応に、イザベラが呆れ果てる。


「まだなのね」


 ベアトリスは頭が破裂しそうになった。今朝だってやっとキスをしたばかりなのに。


「お姉様。いい加減にしないとオーウェンが可哀そうよ」

「え、可哀そう?」

「そうよ。きっととても我慢しているわ。お姉様は年上なのだからリードしてあげないと」

「リード…」


 部屋をノックする音が響き、ドックンと心臓が跳ねた。驚いてドアに目をやる。


「どうぞ」


 イザベラが代わりに答え、オーウェンとステンが顔を覗かせた。窓際に座る姉妹の元へと歩を進め、オーウェンがベアトリスの隣の椅子に座り、ステンはその後ろに立つ。

 なぜだかオーウェンの顔を真っすぐに見ることができない。


「何の話をしていたの?」

「ちょうどいいわ」


 イザベラが立ちあがり、ステンの右腕を掴む。

 二十センチ以上の身長差に加え、ガタイの良いステンのおかげでベアトリスからはイザベラが殆ど見えなくなってしまった。

 ステンは戸惑うようにイザベラを見下ろす。


「イザベラ様?」

「様付けしないでって言っているでしょう?」

「つい癖で」

「ステン。私ね、子どもができたの」


「えっ」と声を上げたのはステンだけではなかった。オーウェンも驚いて二人を見比べている。


「え、本当に?」

「ええ。本当よ。あなたの子がお腹にいるの」


 まだ見た目では分からないが、イザベラがお腹を触って見せた。

 ステンは話を飲み込んだ後、イザベラを優しく抱きしめた。手が震えている。

 抱き合って何かを話している二人に、ベアトリスも涙が出そうになる。


 良かったわね、イザベラ!


 ふと、オーウェンと目が合って、ブンッと大きく首を横に向けた。オーウェンが不思議そうにベアトリスを伺う。


「どうしたの?」

「な、何でもないわ。感動して泣きそうなだけ」

「そうだね。良かったね」


 フッとオーウェンが微笑み、心臓が爆音を立てる。



 どうしよう!イザベラが変なことを言うから、オーウェンの顔をまともに見られないじゃない!



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