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勝ち気令嬢、年下の第二王子を育て上げます  作者: 松原水仙


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32/41

32.犯人

「マット副団長。勝手にスノー領に戻っていいんですか?」


 騎士だとバレないよう頭からマントを被り、部下と二人でオーウェンの城から抜け出した。


マクレル公爵領(王家の領土)に何かあっても知ったことじゃない。それに情報部隊の俺たちだけで領地を守れるなんて誰も思っていないさ」


 不安そうな部下を気にも留めず、淡々と馬を走らせる。

 オーウェンとの結婚が白紙になれば他人の領地に戻るのだから守る意味もない。

 シャーロットの兄と父は他の部下に見張らせているが、もはや情報源としての価値もないだろう。二人は自殺に使った毒物について全く知らないと供述した。


「オーウェンが飲ませたんじゃないのか?」と叫んでいたな。実際、俺もオーウェンを疑う気持ちがないわけではない。症状から見るに、シャーロットが飲んだ毒はオーウェンの兄レオが飲んだ毒と同じ可能性が高い。

 オーウェンには両者を殺す動機がある。

 しかし、メイドの叫び声を聞いてシャーロットの遺体を発見した時、あいつは本気で驚いていた。死ぬなんて想像もしていなかったという顔だ。


 仮にも情報部隊に籍を置く身として、マットは嘘を見抜く目には自信があった。


 シャーロットの死にオーウェンは関係ないだろう。

 それよりも。


 屋敷に近づくにつれ、何やら様子がおかしいことに気づく。来る途中、スノー騎士団の服を着た人間を複数、遠目に確認した。市場の人出もいつもより少ない。何より街を覆うこのピりついた空気感。


「急ぐぞ」



 ☆



 ステンが外の警備に行き、室内はオーウェン、ジャック、イザベラ、アイリス、そしてウノの五人だけになった。重苦しい空気が部屋を覆い、誰も話さない。

 カーテンから覗く光が一筋、オーウェンの顔に降り注ぎ、眩しさに横を向く。同時に、ジャックの姿が目に入った。

 娘が攫われたというのにジャックは動じていないように見える。


 俺がベアトリスを追うのを止めた理由は何だ?攻め込んでくるとしたら、一番怪しいのはラースとロジャーのどちらかだ。でもそれにジャックが気づかないはずがない。

 あの二人ではない…?


 ジャックは足を組んで、両目を閉じている。外の気配は朝からずっと変わらない。騎士の足音と防具や武器の金属音が時折聞こえてくるが攻めてくる様子はない。


 薬から辿ってみるか。

 眠り薬、惚れ薬、毒薬。同時期にこんなに多種の薬が俺たちの周囲に出回るのは偶然ではない。同じ人間が裏にいるはずだ。


 惚れ薬に関しては調査を勧めれば何か分かるかもしれないが、現段階では無理だ。範囲が広すぎる。

 では毒薬は?死んだのはレオとシャーロットの二名。すでに王位継承権を剥奪され、塔で生涯を閉じることが決まったレオをわざわざ殺した理由は何だ?リスクの方が大きいではないか。


 考えられるのは王家に恨みをもつ人物か、もしくはレオに近い人物による口封じ。


 シャーロットが毒薬を持っていたのは、犯人から俺を殺す為の薬を渡されていたからか?それを自殺に使った?


 シャーロットの遺体の横にあった赤い小瓶を思い浮かべる。蓋を開けて嗅いでみたが、顔を(しか)める程、苦みの強い薬草のような香りがした。


 香り…?


 そういえばあの時、香りにつられた蝶が毒薬の瓶に舞い降りてきた。

 あれが薬の成分に惹かれて寄ってきたのだとしたら、毒が手袋に付いた俺と、瓶を持っていたマットはともかく、ウノに寄っていったのはなぜだ?


 ドクン、と胸が音を立てた。


『そんなもん飲んでよくこんな顔できるね』

あのウノの台詞、てっきり毒薬から苦しさをイメージしたのだと思っていたが、もし香りであったなら?あの強烈な香りを知っていて、そこから苦みを想像した可能性も否定できない。


それにウノならば俺の監視も可能で、いつでもシャーロットに毒を渡せた。


 確認するように顔を上げると、気配を消して部屋の隅にいるウノと目が合った。ミルクティー色の髪を一つ結びにし、腕を組んでいる。


 彼は「バレたか」と言わんばかりの顔で口元を引き上げた。オーウェンが動くより先に、イザベラの喉元にナイフを当てる。


「動くな」


 剣を構えたオーウェンを制止し、イザベラを立ち上がらせ、入り口のドアへと後ろ向きで近づいて行く。アイリスが短い悲鳴をあげ、ジャックも立ち上がり目を見開いた。


「イザベラ様を傷つけたくなければ、剣を置け」


 オーウェンが剣をそっと床に置き、ウノの表情を伺う。彼は投げやりにも、達成感溢れるようにも見えた。

 ウノが赤い小瓶をオーウェンの前に投げた。絨毯の上のそれはコロコロと何度か転がり、オーウェンの足元で止まる。


「飲め」

「シャーロットが飲んだ毒か」

「そうだ。苦しまずに死ねる」


 口元を押さえてよろけるアイリスを、ジャックが支える。今まで背にしていた窓の光がジャックの目を刺し、眩しさに目を細めた。


「それはどうも。でも最後に聞かせてくれよ。こんなことをした理由は何だ?」

「理由」

「俺には知る権利がある」

「ハッ。権利ね。まあいいだろう」


 ウノはゆっくりと目を閉じ、回想した。

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