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勝ち気令嬢、年下の第二王子を育て上げます  作者: 松原水仙


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17/41

17.馬上槍試合、~準決勝

 翌日も朝から試合が着々と進んでいく。昨日より大勢の観客が押し寄せ、ぎゅうぎゅうと押し合いながら柵越しに応援の声が飛んだ。


「第三試合、第一騎士団団長ステン 対 ユーゴ」


 黒地に金糸模様の織布を黒馬に被せ、黒い鎧をまとったステンと、全てをオレンジで揃えたユーゴが距離を取って対峙する。緊迫感からか応援の声が次第に小さくなっていった。

 ベアトリスとイザベラも両手を組んで祈る。


 ユーゴはワクワクする気持ちを抑えながら、愛馬を軽く二回叩いた。

「よろしくな」

 伝わったのか、馬は頭を縦に二回揺らす。


「一回戦はじめっ!」


 審判の掛け声とともに、両者、槍を手に馬を走らせた。


 さて、どこを狙おうか、とユーゴが舌なめずりしたその時。

 体感三秒もなかった。


 黒い大きな何かがすでに自分のすぐ左側にいて、ブンッと風を大きく切りながら槍が頭に向かって大きく振られるのがスローモーションで見えた。


 これに当たったら危ない!


 本能でそう悟った。


 槍を避けようと大きく体をのけぞらせ、攻撃を諦めて態勢を整えようとする。が、突如カクンと体が後ろに揺れ、しまった!と思った時には既に遅かった。

 鈍い痛みが全身を走り、気づけば地面の上をごろごろと転がっていた。

 ユーゴの起き上がろうとする力に、馬がよろけたのだ。 


 ステンの乗る馬が蹄で地面をけるタッタラ、タッタラという音が遠ざかっていく。砂埃が右目に入り、涙が出た。立ち上がることも忘れ、先程の衝撃を振り返る。


 おいおい、嘘だろ?訓練された軍馬だぞ?


 勿論、通常であればユーゴがどれだけ体制を崩しても馬はよろけたりしない。

 それがこんなに簡単にふらついたのは、ステンが振った槍の風圧と、彼の纏う威圧感のせいに他ならなかった。


「大丈夫か?」


 審判が近寄り、ユーゴの無事を確認する。


「大丈夫です」


 手を上げて報せ、自力で起き上がった。


「良かった。すぐに医務室に」


 従者に連れられるユーゴを確認しながら、旗持ちが黒色の旗を大きく揚げた。


「第一騎士団団長ステン対ユーゴの試合は、落馬によりユーゴの失格!よって第一騎士団団長ステンの勝利!」


 わあ!という歓声と拍手が鳴り響き、鼓膜が破れそうなほどだった。興奮冷めやらない観客たちが次々と語りだす。


「見たかよ?落馬したぜ!」

「ああ!何回も見に来ているけど落馬なんて初めて見た」

「すげえ!さすが第一騎士団団長だ!」


 それほど相手を落馬させることは難しいことだった。


「ステン!ステン!」


 次々とステンコールが沸き起こる。ベアトリスたちも、呆けたように試合に見入っていた。


「やっぱりステンってすごいのね」

「当たり前よ。第一騎士団の団長だもの」  


 なぜかイザベラが威張るように胸を張った。


 ステンは兜を外し、従者に渡す。顔にかかる髪が鬱陶しいのか、首を左右に乱暴に振った。肩にかかる長い黒髪に無精ひげという、強さだけを求めるスノー騎士団でなければ破門間違いなしの見た目の男だ。それでも独特の色気があるのか、マダムたちから絶大な人気がある。


「これでまたステンへの婚約の申し込みが増えるわね」


 ベアトリスの言葉にオーウェンとイザベラが振り向いた。


「独身なんだ?」

「そうよ。三十代半ばだけど、結婚には興味ないみたい」


 ふーん、と興味のなさそうなオーウェンの横で、イザベラが静かに広場を見下ろしていた。



 ステンは馬を下り、救護室へと向かう。テントを捲り、中を覗き込むと、ユーゴがベッドに寝ている。


「おーい、大丈夫か?」

「ステンさん!大丈夫です!さすがスノー騎士団の団長!すごかったです!」


 落ち込んでいるかと思いきや、ステンを見るなり元気いっぱいに上半身を起こした。その拍子にチョコレート色の髪がふわりと動く。


「いいから寝てろ」

「平気です!受け身はちゃんと取ってたんで。落馬なんて初めてだから、興奮しちゃって!」


 なぜか嬉しそうなユーゴに拍子抜けする。


「そんだけ喋れるなら平気そうだな。じゃあな。お疲れさん」

「はい!また相手してください!」


 背後からそう声を掛けられ、ステンは目線を上にしながら頭を掻いた。


 大したタマだぜ。ああいうタイプは伸びが早いんだ。





 広場ではウノとマットが丁度、試合を行うところだった。


「第三試合、第四騎士団団長ウノ 対 第四騎士団副団長マット」


 呼ばれた二人は馬に乗り、従者から兜を受け取る。


 ミルクティー色の髪を後ろで結んだウノは、いつもの中性的な印象からぐんと凛々しい表情になっている。その顔を兜で覆う。


 対するマットは後ろを刈り上げているので邪魔になる髪もない。カールした金髪が潰れるのも気にせず、スッと兜を付けた。


 第四騎士団のトップ同士の対決に、会場がざわつく。


「団長と副団長の試合だってよ」

「こりゃ見ないといけないな」


 お互いに紫の衣装に身を包んだ二人が、遠目に対峙する。身長差はほぼない。


 ウノもマットもどちらも頑張って!


 ベアトリスが祈るのと同時に審判の声が響いた。


「はじめっ!」


 マットは狙いを定め、馬を走らせながら脳内でカウントする。


 この距離から互いに疾走して相手に槍が届くまで、およそ五秒!

 相手の槍の向きに集中して、かわすと同時に攻撃する!


 五、四、三……。


「は?」


 とん、と軽く頭に何かが当たった。

 マットのカウントより一秒早く、ウノの槍がマットの頭を突いていたのだ。

 かわすことすらできなかった。


「…くそ!」


 予定と違う!何でこんなに早いんだよ?


「ウノ、三点!」


 槍を当てたウノはゆっくりと愛馬を歩かせた。その背を撫でる。


「いい子、いい子」


 ウノの攻撃の方が早かったのには理由がある。


 体重だ。

 標準体型のマットに比べ、ウノは細身で、しかもマットとの試合に備えて鎧もうんと軽いものに変更していた。


 ごめんねー、マット。団長の僕が副団長の君に負けるとかっこ悪いからさ。


 二戦目から速さに対応してきたのは、さすがマットというところだが、最初の三点が響いた。


「三対二で勝者、第四騎士団団長ウノ!」


 周り込んできたウノがすかさずマットに声を掛ける。


「この攻撃は予想外だったでしょ?」

「お前、わざと前回の試合で遅く走ったな」


 チッとマットが舌打ちして、刈り上げた頭の後ろを掻きむしった。

 ウノも兜を取り、フフン、と口角を上げる。


「苛つくぜ、その顔。俺に勝ったんだから優勝しろよな」

「うん!応援してね」





 次の試合も勝利した騎士団長たち四人が、ついに準決勝でぶつかることになった。


「今年もやっぱりこの四人での対決になったか」

「そりゃそうだろ。不動の四人だ」


 団長同士の対決は見ている方も自然と肩に力が入る。騎士団の面々も両側に分かれて自分たちの団長を応援している。


「準決勝、第三騎士団団長エイジ 対 第一騎士団団長ステン」


 鮮やかな青い衣装のエイジと、全身黒のステンが遠目に向かい合う。


 エイジの赤毛が揺れ、耳にはめたリングのピアスが見え隠れした。受け取った兜をつけながら、ステンを観察する。

 ステンは無精ひげを撫で、長い黒髪を括ることもせず、そのまま兜を付けた。


「はじめっ!」


 エイジは極力長く使えるよう、槍の端を持った。


 ステン団長は力技でくる。ユーゴとの試合で見せた攻撃、当たると痛いだろうが鎧が威力を吸収して大怪我にはならないはずだ。大ぶりなだけ、速さはこちらに分がある。

 威力はいらない。無駄な動きを省いて当てればいいだけ。


 向かい合った瞬間、相手の胴に一突き入れるが、同時に手に槍が当たる感触があった。


「ステン、一点」

「は?何で?」


 端を持った分、長く細い槍がしなったことで届くのがほんの僅か遅れた。それに加え、突き出した腕を狙ったステンの方が胴を狙ったエイジより早いのは当然だった。

 ステンはその後、相打ち狙いでエイジの槍に槍をわざと当てて攻撃を防ぎ、結局、一対零でステンの勝利となった。


「くそう。卑怯だぞ!」


 悔しがるエイジにステンが笑う。


「狙いが丸わかりだったからな。これが大人の戦い方さ」


 ステンがいち早く決勝進出を決めた。





「準決勝、第四騎士団団長ウノ 対 第二騎士団団長ラース」


 全身紫色のウノと、真っ赤なラースが相対する。


 ウノはミルクティー色の髪を一度、後ろで揺らして兜をつけた。

 一方のラースは目線を上にし両手で兜をかぶる。切りそろえたオリーブ色の短髪がすっぽりと包まれた。


 両騎士団員たちがそれぞれ団長に声援を飛ばしている。柵の周りにいる観客たちも興奮したような声で二人を応援した。


「はじめっ!」


 両者、一気に駆け出すも、やはりウノの方が少し早い。両者ともに腕を狙ったが、ラースの槍はウノの腕の横を僅かにすり抜けた。


 ラースが目を細めて眉根を寄せる。


「ウノ、一点」

「やった!」


 ウノが愛馬を撫でて褒める。


「二回戦、はじめっ!」


 ラースが駆けだし、向かってくるウノを見据える。互いの馬を走らせた状態で、素早くかわすウノの腕に当てるのは難しい。となると。

 狙うは胴体だ!


 ウノの攻撃をかわし、槍で一突きする。が、槍は空を切った。


「え?」 


 ウノはひらりと馬の右側に上半身をのけぞらせ、ラースが通り過ぎてからゆっくりと起き上がらせた。何事もなかったかのように、会場の端まで走り去る。


「すげぇ!」

「防具を付けてるのに、なんて身軽なんだ!」


 会場から驚きと感動の声が漏れ、拍手が起こった。興奮した人々が腕を上に突き上げている。


「あの身軽さは厄介だな」


 ラースはひとりごちた。


「三回戦、はじめっ!」


 ラースは槍を構えた状態で走り出し、すれ違う直前に小さく突きの動作を見せた。それを察知したウノが槍を狙った瞬間、がら空きになった脇を目掛けて槍を突いた。


「しまった!フェイント!」というウノの声を背後に聞きながら、「よしっ!」とガッツポーズをきめた。


「第四騎士団団長ウノ対第二騎士団団長ラースの試合は、一対二でラースの勝利!」


 赤色の旗が大きく振られた瞬間、大歓声が上がる。


「悔しいー!つられちゃった」

「さすがの動きだった」


 しょげるウノの背を押しながらテントに戻る。




 決勝進出者はステンとラースに決まった。


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