距離感
食堂……というか、全体的にこの学園の内部の部屋のひとつひとつは広い。なので食堂が特別ではないが、それにしてもこの部屋はでかい。
なので、机もたくさんある。複数人が座れる机もあるし、椅子も結構あるから座る場所にも困らない。
「……いただきます」
手を合わせ、それぞれ口にする。さて、改めてこの席に座っているメンバーは……
俺、ノアリ、ミライヤ、俺と同室のシュベルト様、シュベルト様の婚約者アンジェさん、シュベルト様の侍女であるリエナ、そしてミライヤの同室リィ。
人数にして7人。周りを見てもさすがにこれだけの人数で食事をしている人はいないが、人数以上に注目を集めるのはやはりこの面子だろう。
ただでさえ王族は目立つ。それに、あまり表に出ないとはいえその婚約者の組み合わせ。加えて、王族に準ずる『勇者』に、上位貴族。リエナの階級はよくわからないが、王族に仕える家系だし低くはないだろう。
さらに、この学園でたった2人の平民であるミライヤとリィが揃っているのも、ある意味注目を集める。
「……」
「…………」
そしてそのミライヤとリィだが、さっきからまったく箸が進んでいない。平民である彼女らにとって、貴族や王族と食事をすることなんてまずないもんな。ガチガチだ。
気持ちはわからんでもない。俺だって、もし周りに王族しかいない中で食事をしろと言われても……同じように、ガチガチになっているだろうしな。
「まあ、ノアリさんったら面白いのね」
「そんなことないですよ~、アンジェさんも親しみやすくて嬉しいわ。ねぇねぇ、シュベルト様のどこが好きなの?」
「も、もう、そんないきなり……」
一方、ノアリとアンジェさんはなんか意気投合している。おいおい、少し目を離した隙にこの短い時間でなにがあったんだ。
しかもなにを王子との色恋沙汰にまで首を突っ込んでるんだ、仲良くなりすぎだろ!
「シュベルト様、お口にソースが……」
「り、リエナ、ここではそんなに過保護にしなくても……」
あっちはあっちで、そのやり取りからしてどうやらいつもの光景らしい。を繰り広げている。
世話焼きの侍女か、アンジーを思い出すな。ただ違うところといえば、シュベルト様とリエナは年が近いということか……同年代の女の子に甲斐甲斐しくお世話されるとか、それはそれで良いな。
「ほらミライヤ、リィ、固まってないで食べよう?」
「は、はい」
「そそ、そうですね……」
うーむ、交流のあるミライヤはともかく、リィの方は俺に対してもまだ固いなぁ。ま、初めて会うんだから仕方ない部分はあるけど。
今回の食事を機に、少しでも仲良くなれたらいいんだけど。
「え、えっと、ライオス様……」
「ヤークでいいよ。ミライヤにもそう呼んでもらってるし」
「お、お名前で……!」
ぼふっ、と顔が赤くなっていくリィ。この子もミライヤと似た雰囲気を感じる……最近の平民の子ってこうなのだろうか?
「え、えっと、じ、じゃあや、や、ヤーク、様……!」
「うん、どした?」
「えぇと……ミライヤが、言ってました。ヤーク様、すごい親切な人だって」
「ごほ! り、リィちゃん!?」
突然名前を出されていたせいか、水を飲んでいたミライヤはむせる。そして顔を赤くして、リィを見つめる。
ミライヤ、俺のことをそんな風に言ってたのか。
「いやなんだよ、照れるじゃないかミライヤ」
「いや、それはちが……わないですけど……!」
同室の子に親切だと言うくらい、俺のことを好意に思ってくれているのか。そうかそうか。
俺の言葉に対して、ミライヤは口をパクパクさせている。ふむ、こうして少しからかってみるのも、なかなか楽しいかもしれない。
「だってその……親切にしてもらえたのは、事実、ですし……嬉しかった、ですし」
「うんうん」
「なんですかその目はー!」
赤くなったり、かと思ったら目をばってんにして怒ってみせたり、表情が変わるやっぱり面白い子だ。
これで、少しでも緊張がほぐれてくれたらいいんだけどな。
「ずいぶん楽しそうね」
「あ、カタピル様も親切でそれにとてもきれいな人だって、ミライヤからうかがってますよ!」
「へ、そ、そう? やだもーきれいだなんて……あ、私はノアリでいいわよ!」
なんか睨まれた気がしたが、リィの言葉にすぐにノアリはデレデレになる。なにか怒っていたように感じたが、この有り様……こいつやはり、チョロい……
「なんだ、楽しそうだな。混ぜてくれ」
「ですね」
盛り上がる会話に、シュベルト様とアンジェさんも入ってくる。ガチガチに緊張していたミライヤやリィだが、シュベルト様たちの気安い態度にだんだん固い雰囲気は和らいでいった。
シュベルト様は王族とは思えないくらいに柔らかい。なんか、王族ってお堅いイメージが勝手にあったから……アンジェさんも、同様に接しやすいタイプだ。リエナは、口数が少ないけど……
王族でも、平民でも、貴族でも……どこにも、かしこまる必要はないのだと。そう、言ってくれているようだった。
決して長い食事の時間ではなかったが、この時間の中で、俺たちの距離はだいぶ縮まったんじゃないかな、と思った。




