注目の的
「ミライヤ、起きろー」
「ふみゅう……」
ダメだ、完全に魂抜けてしまっている。貴族に緊張するミライヤが、王族を前にして意識を保てるはずもないのだ。
とはいえ、このままここに放置していくわけにもいかない。平民である彼女をひとり残してはなにが起こるかわからないし、そうでなくてもここに置いていくのは気が引ける。
なので……
「よっ、と」
勝手ながら、背負わせてもらう。このままここに寝かせるわけにはいかないとなれば、中へ運ぶしかない。もうじき入学式も始まるし、起きるまで待っているわけにもいかないだろう。
ミライヤの体は結構軽い。女の子の体はこんなもんなんだろうか、それとも満足に食事を取っていないのか。少し心配だ。
それと、背中に押し付けられる柔らかい感触が、どうにも気になって……
「……」
「な、なんだノアリ」
「別に。腑抜けた顔してるなと思っただけ」
「いや、嘘だろ!?」
「嘘よ」
な、なぜかノアリの視線が痛い。なぜだ、俺は親切心からミライヤを背負っただけだ。いくら女の子とはいえノアリに背負わせるわけにもいかないし、他に任せられる人もいないし。
これは仕方ない、仕方ないことだ。背中に感じる柔らかい感触は、狙ったわけではない。意図せずこうなってしまったに過ぎない。
「おぉ、力持ちだな。女の子とはいえ、意識のない人ひとり軽々と背負うなんて」
「ど、どうも」
そんで、こっちの王子様はなぜか目をキラキラと輝かせているし。うーん……言ってはなんだが、この王子様はそこまで腕力があるとは思えない。
それも服に隠れているし、こうして入学の場にいる時点で剣の腕も確かなのだろうが。多分、攻撃的な功竜派ではなく、防御特化の防竜派か技術面を磨いた技竜派だろう。
ま、それも今後わかることだ。ずっとここにいても仕方ないし、そろそろ中に入ろう。
「……なんかめっちゃ見られてるわね」
「だろうな」
校門を潜り、校舎へ向けて進む。その間周囲からの視線をすごく感じた。
それはそうだろう。俺とノアリが歩くだけでも貴族からの注目を集める……そこに、王族の人間まで一緒に歩いているのだ。
王族の顔は、平民であるミライヤでもすぐにわかるほどに有名だ。俺はすぐにはピンとこなかったが……ともかく、それほどまでの有名人。さっき校門前で人が集まっていたことといい、この人は注目の的だ。
俺も『フォン・ライオス』の人間としての視線を向けられたことは多々あるが、今回のはそれとは別格だな。あまり慣れない。
「さっさと建物の中に入ってしまおう」
「それがいいわ」
上位貴族に勇者の家系、王族の組み合わせは視線を集めるには充分すぎる。他の連中もぞろぞろと中に入ってはいるし、それに紛れて俺たちも……
「あ、あれ……?」
「お、起きたか?」
ふと、背中から声が。背負っていたミライヤが目を覚ましたようだ。立場上を引いても、この体勢は視線を集めてしまうために起きたなら、下りて自分の足で歩いてもらいたいものなのだが……
「あ、あれ、私……え、え! や、ヤーク様のせな、背中……はぅ……!」
「おおい!?」
自分が背負われている事実、それが俺の背中であることに気づき、またも気絶してしまった。おいおい……
結局その後、建物に入り式が始まるまでの間、ミライヤが起きることはなかった。




