お宅訪問
そんなわけで、ミライヤを自宅に連れてきた。
「さ、どうぞー」
「ふぁあ……」
ミライヤは、家を見上げたまま、口を開いたまま固まっている。まあ……気持ちは、わからんでもない。
フォン・ライオス家は、『勇者』の称号を持つ。貴族よりも位が上の存在だ。だから、望めばどんな大きな家だって建てられる。
だが、元平民だからか、両親はそんなに大きな家はいらないと話した。なので、『勇者』にしては質素な家になってしまったが……それでも、普通の家に比べれば何倍もでかい。
平民である彼女が驚くのは無理ないし、転生したばかりの俺も驚いた。そもそも、普通の家には剣の鍛錬ができるような広い庭なんてないしな。
「ほら、突っ立ってないで行くわよ」
「わ、わわ!」
放心状態で突っ立ったままのミライヤの手を取り、ノアリが敷地内へと引き入れる。
ホント、昔とは性格変わったよな。こうして誰かを引っ張る存在になるなんて。
「か、かか、カタピル様の、て、手が……うへへやぁらかい……」
「……ちょっと怖いんだけど」
「す、すみません!」
貴族に強いあこがれのあるミライヤと、距離感の近いノアリ……案外いいパートナーなのかもしれない。
そこへ、家の扉が開き中から誰かが出てきた。少し騒がしかっただろうか。
「どちら様で……あら、ヤーク様。それにノアリ様も。お帰りなさいませ。入学試験はもう終わったのですか?」
姿を見せたのは、綺麗な金髪をなびかせるアンジーだ。エルフである彼女は長寿ゆえか、俺がここまで成長してもあの頃とまったく見た目が変わらない。
俺とノアリを視界に収め、にこっと微笑む。
「ただいまアンジー。あぁ、すぐに終わったよ」
「おじゃましまーす」
「ふふ、では紅茶のご用意を……あら、そちらの方は?」
ノアリが手を繋いでいる、ノアリへとアンジーの視線が移る。当のノアリはしばしぼーっとしていたが、話しかけられたことに気付き背筋を伸ばす。
「あ、は、はじめまして! み、ミライヤと申します! あ、その、えっと……」
「今日知り合ったんだ。彼女にも紅茶をお願いできる?」
「かしこまりました」
とりあえず、立ち話もなんだし家に入ってもらおう。ミライヤは緊張しまくりであるが、相変わらずノアリが引っ張ってくれるので心配はいらない。
「あ、あの方、エルフ、ですよね。は、初めて見た……すっごい、きれい」
「はは、でしょ。あとで本人に言ってあげてよ」
「なんであんたが誇らしげなのよ」
「ウチのメイドだし」
そんなことを話しながら家の中に入ると、奥から母上が出てくる。母上はちょくちょく城に呼ばれたりして、『癒しの力』を持つ巫女として重宝されているらしいが、今日は家にいた。
「あらら、お帰りなさい。早かったわね」
「まあ、ね」
エルフであるアンジーとは違い普通の人間だが、母上もあの頃からあまり変わらない。金があるから若さを保ついろいろなことでもやってるんだろうか。別にいいけど。
そして、母上はミライヤに視線を移す。
「みみ、み、ミーロ・フォン・ライオス様……ほ、本物だぁ……」
ミライヤは、母上を見て恍惚とした表情を浮かべている。
息子であるだけの俺にあんな様子だったんだ……実際に『勇者』として功績を残した張本人を前にして、テンションがめちゃくちゃあがっているようだな。
「んん? そっちのかわいらしい子は?」
「かわっ……え、ええと、わ、わたくし、は、み、ミライヤと、申します者で……」
「ミライヤ、落ち着こうか」
人見知り……と言うよりは、あがり症なのだろうか。変に気負わなくてもいいのに。
……そういえば、ミライヤと俺たちの関係ってなんだろう。アンジーには知り合ったとしか言ってないが、単なる知り合いというのも味気ないし……
「今日お友達になった子ですわ、おばさま!」
「とっ……!?」
「まあ、そうなの」
ミライヤとの関係性について考えていたところで、ノアリがミライヤの両肩に手を置く。その衝撃……というより、言葉の内容に、ミライヤは開いた口が塞がらない様子。
そこへ、4人分の紅茶を持ってきたアンジーがやって来た。せっかく家の中に入ったが、今日は天気もいいということなので、外に出て庭に設置してあるテーブル、椅子にておしゃべりすることに。
紅茶を、まずは一口。
「うん、おいしい」
「ありがとうございます」
「ミライヤ、まだ緊張してるの? それともいきなり友達なんて、迷惑だったかしら」
「い、いえ、ぞんなごと……わたぢ、うれじくで……この紅茶、しょっぱいでずね」
「それはその涙のせいでは?」
ミライヤ、ノアリに友達扱いされたことが、そんなに嬉しかったようだ。すごい号泣している。




