たまに大胆
その後、昼食は互いの弁当を交換したりして、交流を深めていった。ミライヤは、俺たちの弁当を分けてもらう、自分の作ったものを食べさせるなんてそんなおそれ多いことできないと慌てていたが……
無理を言っておかずを分けてもらうと、見た目通りのおいしさだった。ノアリは悔しそうだったが素直においしいと褒めていたし。
俺も料理をしたことはないが、同じくらいの年齢でこれほどのものを作れるとは。アンジーの料理で育ってきたようなもんだが、それに決して負けてはいない。
「……あむっ」
ミライヤはミライヤで、俺たちのおかずをまじまじ見つめ、「食べるのもったいない……食べたらバチが当たらないかしら……」とぶつぶつ言っていたが、さすがに食べてもらわないと意味がない。
ミライヤは恐る恐るといった感じで、おかずを口に運ぶ。瞬間、いやに緊張していた顔は一気に緩む。
「おいひぃ~……!」
さっきまで緊張していたのが嘘のように、モグモグ食べている。こうもおいしそうに食べてくれたら、作ってくれた人は嬉しいだろうな。アンジーがここにいないのが残念だ。
アンジーの弁当のおかげで、ミライヤの緊張も解けたようだ。見事に胃袋を掴んだみたいだ。
「私、嬉しいです……貴族の方に、こんなによくしてもらえるなんて」
そんなミライヤが、自分のことを話し始めたのは、弁当を食べ終えお茶で喉を潤した直後のことだ。
ミライヤは貴族に憧れのようなものを持っていたが、実際に平民が貴族からどんな目を向けられるかも知っていたという。実際、今朝の一件はそれを体現したようなものだ。
俺も、知識ではそういうものなのだろうと思っていたが……実際に、あんないじめのようなシーンがあるなんて思わなかった。転生前の俺だって、遠目に睨まれる程度だったというのに。
「お二人は、こんな私に優しくしてくれて……私、感激でどうにかなってしまいそうで」
「大袈裟ねぇ。貴族だ平民だなんて言われてるけど、どっちもただの人間なんだから。そこで区別するのって、ホント理解できないわ」
いい意味で、普通の貴族とは違うなノアリは。いや、貴族の子供が平民を見下すのは、多くの場合が親の影響によるものだ。だから、違うのはノアリの両親の方か。
俺の両親は、元々平民だったからか、平民を差別するような発言を聞いたことがない。
「うん……よし」
「?」
「どうしたのヤーク」
「ミライヤ、今からウチに来ないか?」
あの両親ならば、平民に対して偏見を持つことはない。それどころか、笑顔で受け入れてくれる可能性だってある。
そう考え、ミライヤをウチに招待する。貴族があんな連中、とばかり思われるのも、なんか嫌だし。
「……へ?」
俺の言葉を聞き、ミライヤはしばし沈黙。やがて、顔を真っ赤にしてうろたえ始めた。
「え、え、え! それってつ、つまり、ふ、ふ、フォン……」
「……あー」
そういや、会ったばかりの時も俺がフォン・ライオスの人間だと知ると、こんな反応してたな。
ただでさえ貴族の家にお呼ばれされるだけでもおそれ多いのに、その上の位の家にお呼ばれされるなんて……といったところだろうか。
「……ヤーク、あんたたまに大胆よね」
「そうか?」
あきれたようにノアリが言う。それほど大胆だとは思わないが。
ま、3人とも試験が終わったし、この後の予定はなにもないんだ。学園を見て回るのもいいかと思ったが、試験後の注目された状態で見て回るのも、俺やノアリはともかくミライヤの心臓に悪そうだし。
「嫌なら、言いなさいよ?」
「い、いえ、嫌だなんて! ここ、光栄です!」
……どっちにしても心臓が心配になるかもしれない。




