表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第9章 復讐の転生者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

305/308

普通の人間として



 ヤークワード・フォン・ライオスとライヤ。この2人は、元は同じ人間のはずだった……だが、それは本人たちが、そう思い込んでいただけなのかもしれない。



『結局さ、"俺"と"お前"が同じ人間だってのも、記憶を引き継いでいるから、そう思っていたってだけなんだよな。セイメイとか何人かは転生者だって見抜いてたし、今となっちゃ同じ人間だったって証明されたわけだけどさ』


『……そう、だな』


『……けど、さ。きっと……ライヤの因果がなくなっても、ヤークワードは生まれてくる。そして、また同じように、大切な輪を繋いでいく。そんな、気がするんだ』


『じゃあ、ライヤの因果が断ち切られたら……"お前"の記憶は、"俺"の中からも、消えるのか?』


『んー、それはちょっと寂しいけど……どうだろうな。案外、ひとつの体の中にずっと居たんだから"お前"だけは、覚えてたりしてな』



 すべての真実を知り……ライヤの中には、死の直前に感じていた憎しみの気持ちも、消えてしまった。


 だから、もういいのだ。たとえヤークワードの因果を断ち切っても、ライヤが生き返るわけではない。その逆、ライヤが消えてヤークワードが生まれるかは。賭けの部分もあるが。


 ただ……ひとつ言えることがある。



『話せてよかった』


『っ』


『あの記憶も、結局は真実を伝えてくれただけ……"お前"にとってどう感じたかはわかんないけど、"俺"はすっきりしたよ。誰も、恨んで逝かなくて済む』



 そう語るライヤの表情は、どこかさっぱりしたもので。



『……嫌いに、なったか?』


『ん?』


『さっき、ガラドが言ってたろ。真実を知れば、ライヤはライヤ自身を許せない、って』


『あー……どうだろうな。確かに、自分の不甲斐なさのせいで、ガラドたちにあんな決断をさせてしまって。そんな自分は、やっぱり許せないな』



 自分を嫌いになってほしくなくて、ガラドたちはあのような決断を下した。そんな決断を下させてしまった自分が、ひどく情けない。



『けど……みんな、"俺"が"俺"を嫌いにならないように、って思いで、あそこまでしてくれたんだ。だから、最期くらいは、爽やかに逝こうと思う』



 だから……と。


 ライヤは、手を伸ばして指をさした。そこには……さっきまではなにもなかったはずの空間に、『断切剣』が浮かんでいる。



『そいつで、"俺"を斬れ』


『なっ……"俺"、が?』


『どうせ終わるなら、最期は自分の手で終わらされるのも、悪くない。あ、この言い方だとなんか自殺っぽいな……自殺はだめだよな……ま、ニュアンスの違いか』



 それに、"俺"はもう終わってるけど……と、ライヤはケラケラと笑う。


 不思議だ……ヤークワードは、自分が形のない存在としか認識できなかった。しかし、"手"を伸ばせば、剣を掴むことができた。


 その様子を見て……



『……国宝、か。結局、"俺たち"が国宝に選ばれた理由は、なんだったんだろうな』



 ぽつりと、呟いた。それは、どちらの漏らした声であっただろうか。


 自分は、ガラドのように、ミーロのように、エーネのように、ヴァルゴスのように……剣術に、回復術に、魔力に、武術に、なにに秀でているわけでもない。


 そんな自分が、国宝に選ばれた。貴族でもない、ただの平民である、なんの才能もない男が。



『"俺"が転生することになったのも、魔王の仕業。"お前"に転生した後も、魔王は来る日のために準備を整えていた……』


『そう考えると、最初から……うん、最初から魔王の手のひらだった気もするな』


『なんだったんだろうなぁ、"俺"の人生』



 己が倒されることも、折り込み済みで……だから、ガラドでもミーロでもエーネでもヴァルゴスでもない。一番寄生しやすい、ライヤを選んで寄生した。勇者たちに倒された後、勇者のいなくなった世界で復活する。


 もしそうであるなら、国宝がライヤを選んだことも、実は魔王からなにかしらの干渉を受けていたのではないか……


 ……さすがに、考えすぎだろう。



『けど、さ……』


『ん?』


『ライヤの存在がなくなれば、確かに魔王は、寄生先を失う……だけど。ライヤがいなくなったらいなくなったで、ライヤ以外の誰かが、国宝に選ばれるなんてことは……』


『あー、それも可能性のひとつではあるよな。ただ……それに関しちゃ、問題ないと思う』


『どうして』


『勘』



 ニヤリ、とライヤは笑った。



『勘ってお前……』


『なんてのは冗談で……国宝は、ガラド、ミーロ、エーネ、ヴァルゴス、そしてライヤだからこそ選んだんだ。ライヤの存在がなくなっても、その因果まで変わることはない』


『なにを根拠に……』


『そんな気がするんだよ』


『……結局勘じゃねーか』



 こんな状況なのに、恐ろしいほどの軽口。


 あるいは、ヤークワードに気を遣わせないためだろうか。




『じゃ、そろそろやってくれ』


『…………』


『おいおい、まだそんな顔してんのか? いいんだよ……今まで、"俺"の記憶で振り回して、悪かった。これからは、"お前"の人生を、楽しんでくれ』


『……あぁ』



 ゆっくりと、剣を振り上げる。顔は……伏せている。だって、相手の表情を見たらきっと、またためらってしまうから。


 後は、剣を振り下ろす……それだけだ。



『……"俺"は……いや、"俺"と『復讐の転生者』としての"お前"はここで死ぬ。これからは、ただのヤークワード……普通の、人間として生きてくれ』


『……あぁ』


『……じゃあな、俺』


『あぁ……じゃあな、俺』



 彼の記憶を、忘れてしまうかもしれない……もう、因果を断ち切れば二度と会えない。ためらいは、ある。それでも……


 ヤークワードは、剣を振り下ろして……ライヤの魂を、断ち切った…………

いつも読んでくださり、ありがとうございます!


面白いと思っていただけたら、下の星に評価ポイントを入れてくだされば、ありがたく! 創作意欲が捗ります!

感想なども、募集しておりますよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ