表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第9章 復讐の転生者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

298/308

新たな国宝



 まるで、何事もなかったかのように……ただ、散歩でもしているかのような軽快な、足取りで。


 姿を見せるのは、ひとりの子供。それがいつもの普通の日常の風景ならば、別におかしな点はない。


 問題は、暗雲の空の下、見える景色のそのほとんどが一変してしまっていること。建物は、人は、無惨にも推しつぶれ、もはや日常は崩壊していた。


 そこに、平然と現れた子供……普通ではない。


 しかし、ヤークワードは……直感的に、子供の姿を見た瞬間に、理解していた。彼は、子供などではなく……



「お前……セイメイ、か……?」



 どうして、そんなことを思ったのかはわからない。以前に会ったセイメイは、老人の姿だった。が、目の前に現れたのは子供。似ても似つかない。


 そのはずなのに……本能が、そうであると告げていた。



「ほほぅ、主は聡いの。いかにも、儂じゃよ」



 子供の姿で、おおよそ子供が使うとは思えない言葉……それに、その口調。雰囲気。そのどれもが、彼の知るシン・セイメイのものだった。


 確か、ノアリとヤネッサ、アンジェリーナはセイメイと会ったと言っていた。とっさに、ヤークワードはノアリへと視線を向けていた。


 彼女は、小さくうなずいた。



「カカッ、しかし……主を助け出した後、なにか面白いことが起こる予感はしておったが……ここまで事態が動くとはのぅ」



 セイメイは、子供らしい無邪気な笑いで、辺りを見回す。おおよそ、この国で生き残っているのはこの場にいる者が大多数だろう。


 他はすでに息絶えているか、そうでなくても動けないか死にゆくのみか……



「お前、どういうつもりで俺を……」



 聞いた話では、セイメイがヤークワード救出に手を貸してくれていた。クロード先生の足止め然りローブのエルフ然り。


 しかし、ヤークワードにはセイメイに助けてもらう理由がない。恨まれる理由はあったとしてもだ。



「んー……同じ転生者のよしみ、ではだめかの」


「なんだその取ってつけたような……」


「余を前に、よくもつまらぬ騒ぎを起こせるものだ」



 さらにヤークワードがセイメイに食ってかかろうとしたところで、行動を強制に止めるような、冷たい声が届く。


 外見も、声すらもヤークワードのものなのに……その中身は、やはり彼ではない。



「これはこれは、神龍よ。よもや儂の生が続くうちに会えるとは、思わなかったぞ」



 ヤークワードの姿を借りた、龍……神龍と呼ばれた存在は、軽く礼をするセイメイを見つめる。


 あのセイメイが慕っている……というわけではない。ただ、アンジーの言うように伝説の生き物である龍に、一応の礼を尽くしているようだった。



「……命族の王、か」


「おぉ、儂のことを知っておられるとは。儂もまだまだ捨てたものではないの。ちなみに、今どきの言い方だとエルフ族と言うようじゃ」


「どうでもいい。何用だ」



 どこかフレンドリーに話すセイメイに、龍はどこまでも冷静だ。いかにセイメイが、はるか昔から転生しているとはいえ、龍と会ったことはないらしい。


 その、刺すような視線を受けても臆さないのは、さすがだろう。



「いやいや、儂が用があるのは……主じゃよ」


「……俺?」



 セイメイの視線は、再びヤークワードへと向く。


 そして、その右手に持つものを……その切っ先を、ヤークワードに向けて。



「これを、主に渡したくての」


「……剣?」



 指されたのは、剣……セイメイといえど子供の姿で持つには不釣り合いで。その刀身は、薄く桃色に光っていた。


 普通の剣ではないのは、見ればわかった。



「これ……」


「国宝『断切剣(だんせつけん)』……主に、必要なものじゃ」



 国宝……その言葉に、ヤークワードは目を見開く。それは決して、彼には無視できない言葉だったから。


 魔族を消滅させる剣『魔滅剣(ましょうけん)』、目的の場所に一瞬で移動することができる『転移石』……その2つを、これまでに見てきた。


 そして、新たなる国宝を、なぜかセイメイが持っている。



「だん、せつ……これを、俺に……?」


「そうじゃ」


「話が、見えないんだが……」



 言葉が出てこないのは、ヤークワードだけではない。遠巻きに話を聞いていた、仲間たちも同じだ。


 しかも、彼女らにとっては国宝という言葉すら初めて聞くもの……下手に口を挟んでも、意味のないことだ。



「……なるほどな」



 そんな中、龍だけが……なんの説明もなしに、なにかに納得したようにうなずいた。


 それを横目に、セイメイは口を開く。



「こいつは、文字通り断ち切る剣じゃ」


「断ち切る……なにを?」


「"因果"を」



 にやりと、セイメイは笑う。



「これは、一度のみ……斬った者の、過去の"因果"を断ち切ることのできる剣」


「因果を断ち切る……? なに言って……」


「たとえば、そうじゃな……この剣で、主を斬ったとしよう。ヤークワード・フォン・ライオスが生まれてきたという"因果"を断ち切る……すると、どうなるか」



 説明の中に恐ろしさが満ちていく……しかし、それでもセイメイは笑っていた。


 楽しそうに。まるで新しいおもちゃを見つけたように、笑っていた。



「ヤークワード・フォン・ライオスが生まれてきたという"因果"は断ち切られ……ヤークワード・フォン・ライオスという人間は、この世から消える」


「……っ、きえ……」


「それだけではない。生まれたという"因果"を断ち切られるということは、そもそもこの世に誕生しなかったということ。つまり……」



 その先は、口にしないでもわかった……わかってしまった。なにを言おうとしているかも、なにをさせようとしているのかも。


 わかったことを、わかった上で……セイメイは、極上の食べ物を前にしたように、笑みを深めて。



「その者に関する記憶も、記録も……すべて、なかったことになる」



 この場にいる全員に、聞こえるように……はっきりと、言い切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ