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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第9章 復讐の転生者

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与えられた命



「転生者って……なに?」



 衝撃は、そのまま言葉となって表れる。体から力が抜け、掴み上げていた龍……ヤークワードの姿へと成っていたそれを、離す。


 その視線の先にいるヤークワードは、なんとも言い難い、複雑そうな表情を浮かべていた。



「ヤーク、転生って……」


「……聞いたことが、あります」



 困惑するノアリの言葉を切り、一歩踏み出すのはアンジー。エルフ族である彼女には、その単語に聞き覚えがあった。


 これもまた、かつて読んだ書物の内容だ。



「魔法……いえ、魔術の中には、自分の魂を今とは違う時代へと飛ばし生まれ変わらせる……つまり、転生させる魔術。転生魔術が存在する、と」


「転生魔術……じゃあ……」



 アンジーの説明を受け、ノアリは、そして各々は、なにを言うべきか言葉を探していた。


 そもそも、アンジーとヤネッサ以外は魔法だの魔術だの、そういったことには全然詳しくない。それが、それほどすごい魔術なのかも。


 だが、魂を生まれ変わらせると聞けば……それは、とんでもないことなのだと、ぼんやりとでもわかる。


 つまり、今目の前にいるヤークワードは、見た目通りの年齢ではなく、すでに長い年月を生き、そして転生したというのか……



「でも……ヤーク様は、ヤーク様です!」



 黙り込む空間の中で、健気にもミライヤの声が響いた。


 転生であろうがなんであろうが、そこにいるのはヤークワード。そこに、なんの違いもない。


 それに、彼自身が魔王の生まれ変わりだと打ち明けられたときに比べれば、そんなのなんてことも……



「あれ?」



 そこまで考えて、引っかかりを覚える。龍はヤークワードのことを『前世の魂と魔王の魂が混じっている』と言った。これは、ヤークワードの前世の魂は魔王ではないことを、示している。


 だったら……なぜ、前世の魂に、魔王の魂が混じるのだ?



「あいつ……」



 ぼそっ、とノアリが爪を噛む。思い出したことがある。シン・セイメイのことだ。


 彼は、ヤークワードのことを『混じりの小僧』と呼んでいた。


 それがどういう意味かわからなかったが……あの時点で、気づいていたのだ。ヤークワードが転生者であることも、魂が混じっていることも。



「ヤークワード様と、というかその前世の魂と、その、魔王は……なにか、かかわりがあったと、いうことですの?」


「かかわり……例えば、どちらも同じタイミングで、同じ場所で死んだ……とか?」



 魂が混じり合う可能性について考えを巡らせていた、アンジェリーナとリエナ。その洞察力は、若いながらもさすがだと言うべきだろう。


 もしもこの場に、ミーロが……あるいはガラドがいたならば、その考えにすぐたどり着いたであろう。



「魔王と同じ場所で死んだって……それって……」



 そこまでたどり着いて、しかしその先に誰も考えが及ばない。


 当然だ……勇者パーティーのメンバーは、ガラド、ミーロ、エーネ、ヴァルゴス、そしてライヤ。このライヤという人物の情報は、あまり残っていない。


 せいぜい、魔王討伐の旅の道中、奮闘虚しく魔族に殺された……程度のものだ。


 "真実"は、そこには書かれていない。



「お前らがなにを考えているかの予想はつくが、余がその時間に付き合ってやるつもりはない」



 思案の静寂、その場をばっさりと断ち切るのは、そもそも混乱の種を巻いた龍。彼……性別があるのかはわからないが……の言うように、ノアリたちの思いに、彼が付き合う必要はないのだ。


 むしろ勝手に悩み考えればいい。その間に、済ませることを済ませるだけだ。



「さて、ヤークワード・フォン・ライオス……お前ももう知っていようが、お前の中には魔王の魂が混じっている。そして、その復活は、すぐそこだ」


「……」


「おそらくは、魔王が死に際に自らの魂を別の人間の体に移した。しかしその体も死に瀕し……命が尽きる前に、転生魔術を使い難を逃れた」



 まるで見てきたかのように、龍は言う。龍はヤークワードの記憶を読み取っているので、実際に見てきた、という使い方は正しいのかもしれないが。


 それは、ヤークワードがライヤであった頃、実際に体験したものだ。魔王を倒し、魔王が死にゆく中不吉な言葉を残して……その直後、仲間だと思っていたガラドに殺されて……



「……ん?」



 ふと、引っ掛かりがあった……喉の奥に、魚の骨が刺さったような、妙な違和感。


 なんだろう、今、無視できない事柄が、あったような……



「魔王が復活すれば、世界は闇に落ちる。だから……お前には、死んでもらう」



 その間も、龍の言葉は続く。予感はしていたことだ、驚きはない。


 むしろ、その手段がわかっていながら、こうして龍という存在が出てきたこと自体が、驚きで……



「ま、待って……死ぬって、そんなの、だめよ!」



 しかし、ノアリはそれを認めない。ノアリだけではない、口々にそれはダメだと、騒ぎ立てる。


 それだけ、ヤークワードを大切に思ってくれているのだ。それは素直に嬉しい。だが、もしも魔王が復活すれば……世界がどうとかもう興味はないが、少なくとも、ここにいるみんなは殺される。


 みんなが殺される。そうなるくらいなら……



「どうせもう、終わった命……」



 一度は、死んだ命だ。それに、龍の話を聞くに……ヤークワードの中に魔王の魂があるが、ライヤがヤークワードへと転生したのもまた、魔王の仕業ということだ。


 誰が、なんのためにライヤを転生させたのか。それは、魔王が生き延び、後の時代にて復活するため。


 なにもかも、魔王の手のひらだったということだ。魔王に与えられた命も同然、惜しくは……



「カカッ、なにやら愉快なことになっておるようじゃのぅ」


「!」



 ふと、耳に届いた声……それを理解した瞬間に、背筋に寒気がした。弾かれるように、声の方向を見る。


 そこには……ヤークワードの知っている姿とは違う……しかし、確実にそうだと言い切れる、男がいた。



「セイ、メイ……?」



 かつての老人の姿ではなく、子供の姿となったシン・セイメイが……こちらへと、歩いてきていた。


 その右手に、子供が持つには大きめである、剣を持って。

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