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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第9章 復讐の転生者

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未練がない



 ……


 …………


 ………………


 その場を、静寂が支配した……それは、誰が示し合わせ、意図したわけでもない。自然と生まれた、静寂の空間だ。


 その静寂の原因を生み出した……ヤークワード・フォン・ライオス。彼は、自分に向けられる複数の視線に気づいていた。


 みんなが、見ている。そこに、どんな感情があるのかわからない……いや、そもそも感情がないのだ。なんせ、みんな、自分がなにを考えたらいいかが、わかっていないのだから。


 起こった出来事に、理解が、追いついていないのだから。



『俺は…………魔王の、生まれ変わり。かも、しれないから』



 ほんの数秒前……のはずが、はるか昔に思える。それほど、衝撃的な告白だった。頭の中が真っ白になるとは、このことか。


 ヤークワードが、変な様子なのは……ミーロはもちろん、アンジーもロイ、ノアリもミライヤもヤネッサも、気づいていた。なにかを言おうとして、それは中断されて。


 いつの間にか事態は切り替わって。だからみんな、忘れて……忘れた、ふりをしていた。



「あ……」



 どれだけの時間が、経っただろう。長くはない……わずか数秒のはずだ。世界一長い、数秒だろう。


 静寂を打ち破る、声が漏れる。しかし、それは果たして誰の声であっただろうか……ヤークワードのものでないことだけは、確かだろう。



「ヤ、ークが……ま、おう……?」



 それから、先ほどの言葉にならない声とは違い、今度こそ言葉を漏らすのは……誰だっただろうか。


 あまりに、衝撃が強すぎるもので。



「そ、れって……」


「どう、いう……?」



 その言葉に弾かれるように、それぞれが困惑の声を漏らす。特に、ノアリやミライヤ……彼女たちにとっては、魔王という言葉は知っていても、実感などあろうはずもない。


 魔王は、21年前に倒されたのだ。以降、魔族も消滅した。彼女たちが、生まれる前のことだ。


 魔王どころか、魔族とも彼女たちとは、本来関わりのないもののはずだった。



「……」


「……」



 神妙な面持ちで黙り込むのは、アンジーとヤネッサ……エルフ族の、2人だ。


 エルフ族は、魔力を感じ取ることができる。なので、人間には無いはずの魔力をヤークワードから感じ取ったことで、おかしいなとは思っていた。


 2人がそれをヤークワードに確かめなかったのは……自分でも良くは、わかっていない。けれど、もしかしたら怖かったのかもしれない。


 ここまでの展開は予想していないが、これに近い展開になるのではと、心のどこかで思っていたから。



「そういう、ことだから」


「! いや……待てヤーク!」



 驚愕に固まる一同を背に、ヤークワードは扉へと向かう……しかし、それを制止する声。


 いち早く反応した、ロイのものだ。



「その、キミにとって重大な案件なのは、わかっている。だが……これは、あまりにも……」



 押し止めるロイの声が、だんだんと小さくなっていく。当然だろう。


 ただの悩み事なら、笑い飛ばせるようなものなら、まだよかった。だが、魔王の生まれ変わりなどと……しかも、この状況に拍車をかける形で、とんでもない内容のものを投下されたのだ。


 受け止める時間も、整理する時間もまるで足りない。


 ……そして、そうする時間が残されていないことも、確かだ。



「俺は魔王の生まれ変わり。多分、魔王復活まで時間がない……あの龍が、世界の転換点に現れるって言うなら、きっと原因は俺です」


「……」



 不思議だった。先ほど、あれほど言うかどうかで悩み、覚悟を固めるにも時間を要したのに……一度口にしてしまえば、後はあっさりと、口にできた。



「兄上……?」


「キャーシュ、ごめん。……母上なら、魔王の恐ろしさ、よくわかるはずだから」


「……っ」



 その言葉に、キャーシュはなにも言えない。その通りだ、魔王の恐ろしさは、この場では一番ミーロがよくわかっている。


 いや、ガラドが死に、エーネはエルフの森と共に亡くなり、行方の知れないヴァルゴス、それに今は亡きライヤ……今では、魔王と直接対面したミーロだけだ。この世界で唯一、魔王の恐ろしさを知っているのは。


 そのミーロは、今や意識を失ってしまっている。なんとか、死んでいない程度だ。



「ま、待ってください! そもそも、ヤークワード様が出て行って、どうにかなる、保証はあるんですか……!?」



 おずおずと、しかししっかりと声を上げ意見を主張するリィ。彼女の言うことにも、一理ある。


 龍が出現した理由が、世界の転換点……その原因が本当にヤークワードにあるとして。



「その先、いったいどうするつもりですの?」


「……自分を犠牲に、と考えていますか?」



 リィの言葉を後押しするように、アンジェリーナが、リエナがそれぞれ付け加える。そもそもの話、ヤークワードが出ていったところで、この状況に変化はあるのかという疑問。


 それに、ノアリとミライヤも激しくうなずく。



「そ、そうよ! せっかく助けたのに、じ、自分を犠牲になんて許さないから!」


「……」



 助けてに来てくれたことには、感謝している。本来ならば、自分のためにああも危険を犯してくれる仲間がいることを、手放しで喜ぶべきだ。


 もしも、自分の正体に気付いていなければ……そう、できていたかもしれない。



「そうだな……それは、感謝してる。ありがとう」


「だったら……!」


「けど……ダメなんだ」



 先ほど、魔王の恐ろしさを知っているのはこの世ではもうミーロしかいないと言ったが……正確には、それは誤りだ。なにせ……ここにいるヤークワード自身が、この目で魔王という存在を見ていたのだから。


 転生前の、ライヤとして……だから、わかる。魔王を、復活などさせてはいけない。



『21年の月日が経った後、我は再び甦る……その時が、楽しみだよ』



 あの言葉を、現実にさせてはいけない。自分はどうなっても……ここにいる人たちを、死なせてはいけない。



「ダメって、なにが……」



 もう、誰の言葉も、耳に入ってこない。自分の正体を知り……いや、それよりも前から。己の、生きる目的を失って、奪われて……


 魔王であること、復讐対象を失ったこと……この2つだけで、充分だった。


 2度目の人生を、終わらせる覚悟を決めるのは。未練がない、と言えば嘘になるが。



「みんなには、感謝している。おかげで、この人生は楽しかった。思わず、目的を忘れちゃうくらいに」


「……ヤーク?」


「ヤーク様?」


「だから……!」



 あの龍は、十中八九ヤークワードを殺しに現れた。ならば、そうさせてやる。それで、みんなにはもう、迷惑は掛からない。


 言葉も少なく、困惑しているみんなの隙を突いて、走り出す。


 その先は、外へとつながる扉……



「ヤーク!!」



 最後に聞こえたのは、彼を案ずる、大切な人たちの声。


 それを背に受け、扉を開け放ち外へと飛び出したヤークワードは……



「……あれか」


「……」



 天にある、巨大な影……そこに光る、赤い2つの瞳。それは、確かにヤークワードを見下ろしていて。


 両者の視線が、交差したような、気がした。

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