表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第9章 復讐の転生者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

293/308

世界の転換点



「竜が、いる」



 外に、いや天にいるという圧倒的な存在。アンジーはそれを、『りゅう』だと言った。


 それを聞いてまず思い浮かぶのが、竜族であるクルド。彼と同類の存在。同じ竜族の、誰か。


 しかしそれが、なぜこの場に現れたかは、一切不明で。



「なんなのです、その、りゅうというのは」



 おずおずと手を上げ、アンジェリーナが聞く。彼女は、クルドと会ったことがなかっただろうか。


 とはいえ、同じ疑問を抱いた者は多いだろう。それらに答えるため、アンジーは軽くうなずく。



「龍とは、遥か昔に存在した、伝説上の生き物とされています」


「伝説の?」


「はい。その姿は、大蛇のように長い胴体で、4本の手足。それに、硬い鱗を持つとされています」


「……ん?」



 アンジーの語る、『りゅう』の特徴……しかし、その姿の情報を聞いて、ヤークワードの中にようやく別の疑問が生まれる。


 彼女の語った『りゅう』の姿、それがヤークワードの知る竜……クルドのものと、大きく違っていたからだ。


 鱗や、手足は問題ない。問題なのは、大蛇のように長い胴体、というもの。



「ねぇ、それって、竜族とは違うの?」



 同じ疑問に至ったのか、ノアリが疑問をぶつける。クルドとも交流があり、なにより自らも竜族の血を取り込んでいるのだ。気にならないはずがない。


 竜族、と単語を受け、アンジーは緩く首を振って。



「竜族、とは、ヤーク様やノアリ様が言っていたクルド殿のことですね。同じようで、明確に違います」



 きっぱりと、言い切ったのだ。



「そう、なの……」


「私も、書物での情報しかわかりませんが……竜族とは、種族として昔、この世界に君臨していた4つの種族のひとつ」



 アンジーの話を聞きながら、ヤークワードは思い出す。確か、セイメイも同じようなことを言っていた。


 竜族、鬼族、魔族、そしてエルフ族……かつて命族と呼ばれた4つの種族が、この世界に存在していたと。今は、人と共存しているエルフ族、人知れず暮らしている竜族、復活した魔族がちらほらといる程度だ。


 その、数少なくあったエルフ族も……



「しかし、龍とは……世界に、ただ一体しか存在しないとされる存在」


「ただ一体……」



 感傷に浸りかけていたヤークワードの意識は、再び話を始めたアンジーへと戻される。龍の存在なんて、セイメイからも聞いたことがない。


 まさか、知らないとも思えないが……まあ、あの状態で話す内容でもないだろう。



「私、知らない……」


「ヤネッサは、難しい本とか読まないでしょう」


「うっ」



 エルフの森にあった書物であるなら、ヤネッサの目にも触れているはずだ。しかし、彼女はそれを読んだことはない。難しい本は読まない性格なので、当然だが。


 そのヤネッサは、今なお、ミーロに回復魔法をかけ続けている。無駄かもしれないとわかっていても。


 結界を維持するため、アンジーにはそちらに集中してもらいたい。



「けど、その龍ってやつと、外で起こってる現象、なんの関係があるの?」



 外に存在するものの正体はわかった。あくまでアンジーの推測ではあるが。


 それでも、龍と外の現象の説明がつかないのも、事実だ。



「書物によると、龍が現れるときは、世界にとっての転換点……と。世界が変わるかどうかの瀬戸際に現れるとされています。その存在感は、出現するだけで周囲に影響を及ぼすと」


「……なんかスケール大きすぎて、いまいちピンとこないわね」


「じゃ、じゃあ、これはあの龍が自発的にやってるわけじゃないってことですか……? 世界の転換点って……?」


「!」



 交わされる会話、その中で、ヤークワードには心当たりがあった。龍だとか世界の転換点だとか、ノアリの言うようにスケールが大きすぎる。だが、そうなりかねない要因に。


 そっと、己の胸元に手を当てる。自分が、魔王の生まれ変わりだとして……それが、復活するまであと半年。それが、世界を滅ぼすのだとしたら?



『本来存在しえない命……それが生まれたことが、『歪み』となり、少なからず世界に影響を与えることになる』



 以前セイメイは言っていた。転生者が新しく命を授かる場合、それは世界の『歪み』になるのだと。



『主、周りでなにか……異常なことはなかったか? なにか、大きな事件とか』


『不可解な出来事、と言ってもいい。それが、主が転生したことにより発生した歪みじゃ』



 思い当たることは、多い。『呪病』事件、『魔導書』事件、魔族が現れたのだって……本来、あり得ない事象のはずなのだ。


 そして今、またもあり得ないものが、空に君臨している。もしも、アンジーの言う通りなら……ヤークワードの中にいるかもしれない魔王は、以前ガラドたちが倒したものとは別次元の可能性がある。


 あまりに大雑把な理由。けれど、そう、思えた。



「世界の転換点とかなんとか知らないけど、その龍が今、たくさんの人を殺してるじゃない!」


「本人にそのつもりはない……ということでしょうね」


「はた迷惑すぎるわよ!」


「今は、この状況をどうするかが先決だ」



 ここで言い合っていても仕方がない。あれが龍だろうが世界の転換点だろうが、このままではみんな死んでしまうだろう。


 しかし、外に出れば瞬く間に押しつぶされてしまう。魔力で守ってもらえれば、ある程度は大丈夫だろうが……



「俺が、行く」


「ヤーク……?」



 そこで、声を上げるのはヤークワード……もしも、龍が現れた原因が自分にあるというのなら、自分が出ていけば、事態は収束するかもしれない。そう考えてのことだ。


 だが、それに納得する者は、もちろんいない。



「なにを言っているの、そんなのダメよ」


「そ、そうですよ!」



 ノアリが、続けてミライヤが首を振る。他のみんなも、同じ意見だ。


 自分が出て行って事態が収束する確信が、あるわけではない。それでも、ヤークワードは窓の外から天を睨む。



「こんなことになったのは、俺のせいかもしれない。だから……」


「? それって……」


「……」



 先ほど決めた覚悟、それとはまったく違う形で、決断を迫られている。


 だが、みんなを納得させるには……なにより、自分が納得するには、もうこれしかなかった。



「俺は…………魔王の、生まれ変わり。かも、しれないから」



 己の中に秘めていたものを……ついに、吐き出した。

いつも読んでくださり、ありがとうございます!


面白いと思っていただけたら、下の星に評価ポイントを入れてくだされば、ありがたく! 創作意欲が捗ります!

感想なども、募集しておりますよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ