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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

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終末へのカウントダウン



「アンジー!」


「!」



 背後、家の中から自分の名を呼ぶ声に、アンジーは我に返る。今は、あの圧倒的な存在より、ミーロを気にする方が重要だ。


 魔力により全身を守ってはいるが、この状態でも気を抜けば、押しつぶされてしまいそう。


 これは、強力な重力だ。それと、天にいるなにかが無関係だとは、思えないが……



「奥様……!」



 倒れたままの、ミーロを抱き上げる。全身から血が流れ、あの建物のようにひしゃげてこそいないが、おそらくは全身の骨が折れている。


 このままでは、危険だ。



「奥様、気をしっかり……!」


「母上!」



 ミーロを抱き上げ、アンジーは急ぎ家の中へ。念のため、扉は閉めておく。


 すでに動いていたロイが毛布を持ってきて、床に敷く。その上に、ミーロを寝かせてはまじまじと、その姿を見つめて……



「は、母上……」



 唖然としたキャーシュの声が、虚しく響いた。ミーロの姿は、とても直視出来たものじゃない。


 なにかに押しつぶされた、という表現通り、ミーロの体は全身が押しつぶされていて……抱えたアンジーにはわかったが、全身の骨が砕けている。骨が砕けているほどの圧力ということは、おそらく内臓も……


 それに、あらゆるところからの出血がひどい。つぶれた部位から、外も打ちも関係なく出血を起こしているのだ。胸は上下しているので、かすかに息はあるようだが。



「そんな……」



 その姿を、呆然とした様子でヤークワードは見つめる。かつての、幼馴染……想い人の姿を。


 魔王を討伐するための旅の中でだって、これほどの傷を負ったことはなかった。そもそも、『癒しの巫女』である彼女は、自己回復力に優れている。昔から傷の治りは早かったが、力を意識してからはいっそうに、自己治癒の力は上昇した。


 だから、よほどの重傷でもない限り、すぐに傷は治るはずなのだ。


 一日寝れば、どんな傷でも……と、楽観できる状態では、ないが。



「あ、アンジー! それにヤネッサさん! 母上を、治して……」


「わかっています、ヤネッサ!」


「うん!」



 即座に、アンジーとヤネッサが、ミーロへと手をかざす。この状況において、頼れるのはエルフ族の魔法だ。


 この場所を守ってくれているアンジーにさらに負担をかけるのは申し訳ないが、その気持ちが吹き飛ぶほど、今のキャーシュは混乱している。


 だが、ミーロを助けたいのは、アンジーもヤネッサも、同じことだ。



「……っ……」



 2人の両手からあたたかな光が漏れだし、同じ光がアンジーの体を覆っていく。回復魔法だ。


 それは見る間に血をきれいにしていく。それに、血色の悪かった肌にも若干ながら健康な色が戻ってきた。


 回復はうまくいっている……そのはずなのに、2人の顔色は優れない。



「……アンジー? ヤネッサ?」



 その雰囲気は、2人と長年を共にしてきたヤークワード……でなくても、気づくことができただろう。


 やがて、光は消える。後に残ったのは、おびただしかった血が消え、見た目は多少"マシ"になったミーロの姿。



「2人とも? どうし……」


「すみません、これ以上は……」


「無理、治せない」



 困惑するキャーシュの問いに、返ってくる言葉はひどく冷たい。だが、それはもちろん、意地悪で言っているわけではない。


 2人の浮かべている、無念にも思える表情が、その証拠だ。



「どういうこと?」



 もちろん責めているわけではない。が、状況の説明を、ノアリは求める。


 一同、同じくそれを求めている。



「……出血箇所など、傷と思える場所は確かに、魔法が作用しました。ですが……」


「つぶれた部分には、どうしてか魔法が効かない」



 眉を寄せ、理解が出来ないとばかりに口を開くアンジー。その説明を、ヤネッサが引き継ぐ。


 血もきれいになった、血色もマシになった……だが、押しつぶれた部位は、そのままだ。つまり、折れてしまった骨や、つぶれた内臓もそのままだということ。


 これでは、完全な治癒とは言えない。



「そんな……!」


「魔力が効かない……ってことですか?」


「っ」



 苛立ち気に顔を歪めるアンジー……そんな彼女の姿を、ヤークワードは初めて見た。いや、おそらくは誰も見たことのない表情だ……ヤネッサでさえ、驚いた表情を浮かべている。


 魔力が通用しない、使えない……そんな状況を、アンジーたちは味わったばかりだ。今も、己の無力感に心を痛めている。


 魔力が通用しないほどの状態……それこそ、『癒しの力』が必要となるはずなのだが……


 ……一番通用するはずの、本人がこの状態なのだ。



「外では原因不明の現象が起こってるし、そもそも外に出た時点で、ミーロさんみたいに……」


「ど、どうしたら……!」



 原因がわからなければ、それを解決する手立てもない。ついさっきまで、ガラドを殺したヤークワードを奪い返し、今後の方針を話し合っていたというのに……


 『勇者』が殺されたり、魔族が再び現れたり、そしてこの事態……予想だにしないことが、起こっている。



「……原因はおそらく、外にいたアレです」


「アレ?」



 そんな中で、アンジーが言う。


 先ほどミーロを助けるために外に出た際、見てしまったものだ。原因はと聞かれれば、アレが関わっていると言う他にない。


 なにせ、家に入る前までは……いや、あの揺れが起こるまでは、空にはなにも居なかったどころか、あんなに雲に覆われてもいなかったのだから。



「なにを、見たんです?」



 落ち着いた様子で、ロイが聞く。彼女が、そしてミーロが見たものを確認するために。


 それを受けて、アンジーは小さくうなずき……自分を見つめる一同を見回して、口を開く。



「その全容が見えたわけではないですが……あの姿は、おそらく、龍かと」


「りゅ、竜?」



 そのアンジーの答えに、いち早く反応するのはヤークワードだ。その理由は、知った単語が出てきたからに他ならない。


 竜族のクルド、友達であるその存在を思い、驚愕に震える。



「はい。昔、読んだ書物に描いてあった、それに似ていたと思います」



 全容を見たわけではないアンジーとしては、その情報は不確定なものだ。さらに、読んだ書物というのも随分昔のこと。


 しかし、それでも以前読んだものを思い出させるほど、あの存在感は強大だった。



「竜、って……」



 それに、ヤークワードと同じく反応するのはノアリだ。彼女も、ある意味ではヤークワード以上に他人事ではない。


 その単語に思いを馳せる各々の気持ちは、様々だ……ゆえに、まだ気づかない。


 アンジーの言う『りゅう』とヤークワードたちの思う『りゅう』、その認識に、大きな違いがあることに。

いつも読んでくださり、ありがとうございます!


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