表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

290/308

天に潜む影



 ズズズッ……と、地面が揺れる。胸の奥にまで、響くような地鳴り……それは、地面どころか家全体が、揺れているかのよう。


 皆座っていたため、とっさに机にしがみつくことができたが、立っていれば間違いなく転んでいたであろう。


 一同は、揺れる空間に振り落とされないため、必死にしがみつく。ノアリやミーロどころか、ヤネッサやアンジーでさえ、経験したことのない揺れ。


 長寿のエルフ族の中でも、比較的若い部類に入るヤネッサ。そしてお姉さんのアンジーであるが、そんな彼女たちも初めて感じる揺れ。



「ななな、なんですかこれ!」


「喋るな、舌を噛むぞ!」



 誰かの声が飛び交い、悲鳴も聞こえなくなる。声を上げる余裕がないほどに、信じられないほどに大きな揺れ。


 これが自然的なものか、それとも人為的なものかはわからないが……永遠にも続く時間は、突然と終わりを告げる。


 ゆっくりと、しかし確かに、激しかった揺れは収まっていき……



「……止まっ、た?」



 恐る恐る声を上げる。伏せていた顔を上げて、周囲を確認する。


 散々な有様だった……戸棚は落ち、本はばら撒かれ、小物は散乱し、そして窓も所々割れている。


 どれほどの揺れが、襲ってきたのか……考えるまでも、なかった。



「今の揺れ……外は、大丈夫かしら」



 安全を確認し、立ち上がるミーロ。いち早く行動に移せる切り替えの早さは、さすがは修羅場をくぐってきただけはある。


 いち早く行動するミーロに続き、アンジーは各々の安全確認。ロイも同じように立ち上がると、ミーロを気遣うように隣を歩く。


 そして、窓の外に顔を近づけ……見た、先は……



「……え?」



 それは、予想だにしていない光景だった。目の前に広がる光景に、思わず嘘だと言いたくなる。


 しかし、同じく隣で窓の外を見るロイも、言葉を失っている。


 これが現実だと、同じものを見ているという証拠だ。



「母上?」



 その異変に、キャーシュが、そして他のみんなも不思議そうに首を傾げた。いったい、なにが起こったというのか。


 だが、その真意を聞き出すよりも、己の目で見たほうが早い。だからそれぞれ、近くの窓から外を見る。


 ……その先に映る光景を見て、反応は皆、同じだった。



「な……」


「え……ぇ?」


「これ……」



 一様に、驚きに染まった声が上がる。誰もが、言葉を失っている。


 それは、やはりヤークワードも動揺だった。なにか、よくないことが起こり始めている……そんな予感が、一同の心中に渦巻いていた。


 ……街中の様子が、一変していたからだ。



「うそ……建物が、全部、崩れてる……?」



 ようやく声を出せたのは、ノアリ。その目で見たものを、確認するかのように口に出したのだ。


 いつもならば、窓の外から見える景色は決まっている。賑やかに建物が立ち並び、人々の活気にあふれている。が……


 今は、違う。見える範囲すべての建物が崩れて……いや、正確にはつぶれているのだ。まるで、上から重力にでもに押しつぶされたかのように。



「今の揺れのせいか……?」


「え、じゃあ、この家も……!」


「いや、影響があるなら、もう及んでいるはず……」


「家の周りに、結界を張っていたからここは無事だった、ってこと?」



 先ほどの揺れと、外の惨状が無関係だとは、どうしても思えない。


 皆、今後の話し合いやヤークワードがなにかを切りだそうとしていたことに夢中で、外など見ていなかった。どうしてこうなったのか、わからないのだ。



「……」



 ここで、ほっとしている自分がいることに気付いてしまったヤークワードは、己を恥じた。少なくとも、この状況ではヤークワードが打ち明けようとした話どころでは、なくなったからだ。


 話さなければならない、けれど話さなくなってよかった……そんな気持ちがあることに、気づいてしまったのだ。



「あの、他の人たちは……大丈夫、なんでしょうか」



 おずおずと、リィが口を開く。彼女が心配するのは、押しつぶされた建物もそうだが……建物の中にいるであろう、人々のことだ。


 魔族に襲われた国の復興作業、ヤークワードの逮捕……これらは平常時よりも人々を外に出す材料となっていただろう。いつもに比べれば、家の中にいる人数は少ないのかもしれない。


 それでも、今は夜。騒動を関係ないとする者もいるし、そういった人たちは、家の中……



「……あのたくさんの建物全部の中に、人がいないとは……」


「考えられない、ですね」



 つまり……建物の中にいた人たちは、建物共々、押しつぶされてしまっている可能性が高い。


 あの、瓦礫の下敷きになっているのだとしたら、いったい何人が、犠牲に……



「怪我じゃ、すまない……!」


「! ミーロ様! 危険です!」



 建物に押しつぶされ、そうなった場合無傷でいられるはずがない。最悪の場合……


 その可能性がよぎり、即座にミーロは動いた。そんな彼女を追うように、ロイも反応する。


 外があんな有様なのだ、揺れが収まったとはいえまだ危険が潜んでいるかもしれない。迂闊に動くのは危険だ。



「でも……!」



 それでも……ミーロは、玄関の扉を開け放つ。魔王討伐の旅を経て、彼女はたくさんの、傷ついた人間を見てきた。彼らを、救いたいと願い……そのために、この力はあるだと、思った。


 彼女が動けなかったことで、救えなかった命もある。だから、決めたのだ……絶対に、見捨てないと。動かず誰かが傷つくくらいなら、動いて自分が傷ついたほうがいい。


 『癒しの巫女』と呼ばれた彼女は、その力を持って、傷ついている人々を救うと決意する。回復力に関しては魔力をも上回るこの力があれば、ひとつでも多くの命を救える。


 そのために、自分の存在価値があるのだ。誰にでもできない、彼女にしかできないことをやるために、ミーロは飛び出して……



「……ぁ」



 天から彼女を見下ろす、2つの赤い光を見た。雲の奥に潜む、黒い影……なにかが、いる。巨大な生き物が。


 その正体がなんであるか、見ることは叶わなかった。なぜなら次の瞬間……



「……っ」



 真上から降り注ぐ重力に、押しつぶされたから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ