今後の身の振り方
ライオス家にたどり着き、これまで行動を共にしていたエルフは離脱。
ミーロが皆を促し、家の中に入っていく。ちなみに、家の周りにはアンジーが結界を張っているため、滅多なことでは人は来ない。
そして現在、広間にはヤークワード、ミーロ、キャーシュ、アンジー、ヤネッサ、ロイ、ノアリ、ミライヤ、リィ、アンジェリーナ、さらに目を覚ましたリエナが、それぞれ座っている。
これだけの人数がいても、部屋にはだいぶスペースの余裕がある。
「こ、ここがヤークワード様のご実家……ふぁあ……」
と、みんなが座ってもひとり最後までオロオロしていたリィが、感激しているかのように目を輝かせている。
確かミライヤが初めてこの家に来たときも、こういう反応だったなぁ……と、ヤークワードはぼんやりと思った。
「申し訳ありません……私は、なんの役にも立てず……」
「いつまでも気にしてちゃダメよ、大丈夫だから」
落ち込んだ様子で謝罪を口にするのは、リエナだ。
彼女は、騎士学園での攻防の中で、校長ゼルジアルに一撃をもらい、つい先ほどまで気絶していたのだ。
怪我こそ、ヤネッサの治療のおかげで治ったが、役に立てなかったことは変わりない。
「しかし……」
「あ、私は、その……」
アンジェリーナに宥められても、やはりすぐに気を持ち直すには至らない。
それに、自分と同じく攻撃を受けたミライヤが、こうしてぴんぴんしているのだ。先ほども戦いに身を投じていたというし、どうしても比較してしまう。
しかし当のミライヤは、自分は純粋な人間族の体ではないことをわかっている。言ってしまえば常人より頑丈なのだ。
なので、そこまで悲観することでも、ないとは思うが。本人的には、そういうわけにもいかないらしい。
「まあ、各々の反省は一旦置いておきましょう」
と、軽く手を叩いてロイが口を開く。
今話し合うことは、自分たちの行動を振り返っての反省ではない。今後の、動き方についてだ。
「話を整理すると……ヤークはガラド様殺しの罪で騎士学園へと連行された。
そこで、我々は彼を学園から連れ出した」
「ヤークがいなくなったのも、私たちが連れ出したっていうのも、もう話が広まっていると思う」
今日一日……というよりたった数時間の出来事であるが、ずいぶんと濃い内容のような気がする。
一同は、起こった出来事の情報交換と移る。途中ローブを被った謎のエルフが助けてくれたこと、彼曰く"王"が結界を張っていたこと、それによりアンジーたちは弾き出されてしまったこと、校長ゼルジアルが魔物と成り死闘を繰り広げたこと、この国に宣戦布告してきた魔族が再び現れたこと……
そして……
「え……王って、セイメイのことだったのか!?」
「えぇ」
ヤークワード始め、ミーロたちも気になっていた存在。あのエルフが王と慕う人物の正体に、驚きを見せるのはやはりヤークワードだ。とはいえ、薄々勘付いていたのも事実だ。
彼、シン・セイメイとの因縁は決して浅くない。一度対峙したことに加え、彼もまた、ヤークワードと同じ転生者だと言うのだから。
もっとも、彼の場合は他者の力でなく自らの力と意志で、転生したようだが。
「セイメイが……どうやって……」
「それは、わからなかったわ」
あのとき、ヤークワードたちは死力を尽くして、セイメイを倒した。とはいっても、最後は魔力封じの拘束具を持って現れたリーダ・フラ・ゲルドによって拘束されたのだが。
……そして、その後どこかへ、連行されたはずだ。
「逃げ出した? それとも……」
あの凄まじい力なら、並大抵の拘束はセイメイにとって意味のないもの。
しかし、あれは魔力封じの拘束具。いくらセイメイと言えども、簡単に抜け出せはしまい。彼自身の力でないとするならば……
「それに、どうしてヤーク様を助ける手助けをしてくれたのか、不思議です」
ふと、思案しているところにミライヤの声。その疑問は、当然ながら誰もが持つものだ。
ヤークワードたちによって拘束されたセイメイ。ヤークワードたちに恨みこそあっても、助ける義理などないはずだ。
それも、騎士学園でも屈指の魔力使いクロードを足止めし、別にエルフを差し向けるサービスっぷりだ。
「その、エルフの王とやらが考えていることは今、考えてもわからないでしょう」
うんうんと唸る中で、ロイがバッサリと切り捨てた。それは、その通りだ。
いくら理由を考えても、結局は、本人の胸の内のことは誰にもわからないのだから。
ただ、完全なる善意からではない……それは、ヤークワードはなんとなく思っていた。
「そうね、今考えるのは……」
「ヤーク様の、今後の身の振り方……」
「学園に侵入した私たちも、言っちゃえば犯罪者を逃がした扱いだから、どうなることか」
今後避けては通れない問題。それが、他ならぬヤークワードの扱いだ。もはや国中に犯罪者として広められた形になり、無罪を証明しようにもその方法がない。
それに、彼を助けに学園に侵入したノアリ、ミライヤ、アンジェリーナ、リィ、リエナ……彼女らの身の振り方も、考えなければならないだろう。なにせ、学園在籍の生徒なのだ、顔は割れている。
ヤネッサだけはまだバレていない可能性もあるが、時間の問題だろう。
「みんな……」
「おっと、謝るのはなしよ。それを承知で、助けに行ったんだから」
みんなを巻き込んでしまったことをヤークワードは謝罪しようとするが、ノアリが手を出し制止する。これは、覚悟の上だと。
他のみんなも、同じ気持ちだ。
「ただ、ひとつはっきりさせておかなきゃ、いけない」
コホン、と咳払いをひとつ。ノアリは、ヤークワードを見据える。
その視線の鋭さに、思わず背筋を伸ばしてしまうほどだ。
そして、ノアリは口を開く。彼の口から、真実を聞くために。
「ヤーク……あんたは、ガラドさんを殺したの?」
全員の視線が、ヤークワードに……集まっていた。




