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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

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引けない理由vs引けない理由



「ほぉ、これはこれは……」



 己を見据えるエルフの存在、それを認めた魔族は不敵な笑みを浮かべた……ように見えた。


 黒い鎧のようなものに包まれた顔、端から表情をうかがい知ることはできない。



「貴様が前回、この国を襲ったときは、魔力封じの結界を使ったのだろう。ご丁寧にエルフ族にだけ通用するものをな」


「……」


「だが、今回はそれがない」



 前回の襲撃と違う点……それは、魔族が影から新たな魔族を生み出せないのと、もうひとつ。


 それが、魔力封じの結界の有無だ。その名のとおり、魔力を封じる……それも、エルフ族のみの。


 おかげでエルフ族は結界の中では魔力が使えなかったどころか、魔力の強い者であるほど身体にも異常をきたしていた。


 しかし、その結界は今回は、ない。だからこそエルフは魔術を使え、ノアリとミライヤをサポートした。



「そうか……」



 その姿に、ヤークワードはどこか納得したようにうなずく。


 魔力を封じ、魔法を使わせず、また体も自由に動かさせない……それが魔族の狙いだった。エルフ族の攻撃を封じる、だが魔力でできるのはそれだけではない。


 今彼がやったように、身体強化のサポート……それも、大きな戦力の強化方法だ。思い返せば、転生前にはエーネが同じようなことをしていたのを、見たことがある。


 魔力の使い方は、なにも攻撃や回復、防御だけではないのだ。



「ただでさえ強大な力を持つ竜族や鬼族を、魔術で強化ですか。これは……」


「無論、身体強化だけが私のやり方ではない」



 その瞬間、かざしていたエルフの手のひらが青白い光を放ち……一筋の光線が、魔族へと放たれる。


 迫る光線に、しかし魔族は焦った様子もなく、まるでハエでも払うかのように光線を手で払うと、軌道を変えた光線は空へと打ち上げられていった。



「もちろん多彩な魔術で攻撃もしてくる、と」


「あぁ。だが、今のを弾かれるとは」



 一瞬の攻防に、ヤークワードたちは目を見張るばかり。


 あの凄まじい光線を弾き飛ばした魔族は恐るべきだが、あのエルフも、あの威力の攻撃をあの一瞬で繰り出すなど、凄まじい魔力量と技量だ。



「さすが、セイメイのお仲間ってわけ」



 このときに限っては味方である、セイメイを王として慕うエルフ……とりあえず、今だけでも味方で良かったと、ノアリは本気で思う。


 それは、他のみんなも同様に思ったであろう。



「おい、なにをボサッとしている」


「えっ。あぁ、そうよね」



 攻防に見入り、動けなくなっていたノアリたちに、当のエルフから叱咤が入る。イケないイケない、今やるべきことは、エルフの魔術に見惚れることではない。


 ただでさえ、異種族の力に目覚めて己の力の昂りを感じているのだ。ここに、エルフによる身体強化が合わされば、もう怖いものなしのように思えた。



「ふむ、竜族の娘がひとり。鬼族の娘がひとり。エルフの娘がひとり。人間の娘が3人……いやひとりは気を失っているようだ。ローブの貴方がひとり。

 そして……」



 魔族は観察するように、いつの間にか己を取り囲むようにしている者たちを見る。ノアリを、ミライヤを、ヤネッサを、アンジェリーナを、リィを、リエナを、エルフを。


 そして、ヤークワードを。



「個々の力ならば問題はありませんが、これらにローブの貴方の魔術サポートが加わる、と。些か以上に厄介、と言わざるを得ませんね」


「……引くなら、無理には追わないが」


「まさか」



 この場を引くなら、というエルフの言葉に、しかし魔族は笑って答える。



「あなたがたに引けない理由があるように、私にも引けない理由が、あるのですよ」


「……そうか」



 それが、合図となった。今度は、魔族の方から動きを見せる。


 その場から駆け出し、向かう先はエルフ……彼の魔術は厄介だ、だからこそ魔族は、真っ先にエルフを標的にした。


 そして……それがわかっていたからこそ。



「させるか!」


「!」



 エルフを背に庇うように、魔族の正面に現れたヤークワードが刃を振り下ろす。それを、魔族はとっさに腕で受け止め……



「おぉおおお!」



 防ぎ切ることはできず、ヤークワードの剣は魔族の腕を斬り裂いた。



「ぐっ……」


「どうだ……おわっ!?」



 勝ち誇るヤークワードであったが、いつの間にかその足を掴まれ、思い切りぶん投げられてしまう。しかも、その先には誰もいないため受け止めてくれるものは、木だった。



「ぐへっ!」



 受け身も取れず、背中を木に打ち付け、ヤークワードは地面に崩れ落ちた。


 その姿を横目で見つつ、魔族は己の切れた腕を見つめる。



「以前よりも、魔力が上がって……やはり……」



 それは、おそらく誰にも聞こえないほどに、小さく呟いた声。


 ……ただひとり、エルフを除いては。



「……」



 エルフはローブを深く被り直し、手のひらに魔力を集中させる。それは、まるで火の玉のような凄まじいエネルギー。それはどんどん大きさを増し、放たれる。


 先ほど撃った光線とは別の攻撃魔術。それを受け、魔族はまたも手で払い飛ばす。


 しかし、それは単なる目眩まし……本命は、火の玉に隠れるように潜んでいた、ヤネッサだ。



「やぁあああ!」



 ヤネッサも、魔力封じの結界さえなければ、魔力を存分に使うことができる。その手に握りしめるのは、魔力で作った矢。


 それを、剣のように振り回して、対する魔族は己の腕を武器として、お互いの得物がぶつかり合う。



「っ……みんなの、仇を……!」



 ギギギ……と火花を散らし、拮抗する両者の得物。


 そんな中で、ヤネッサは誓う。故郷であるルオールの森林を、仲間を燃やし殺した魔族への、仇討ちを。


 だが、以前のように怒りに呑まれたりはしていない……自分のためだけではない。同胞の、そして今居る友達のために……再び、誓う。


 ヤネッサは、目の前の魔族を倒すことを。

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