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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

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守るべきもの



 騎士学園の敷地内、すなわち結界の外に出るまであとわずか……であるのに、ここに来て最大の難関が立ちふさがる。


 以前、ヤークワードがクルドと協力して倒したはずの魔族……それとまったく同じ姿をした、同一といっても過言ではない存在が現れたのだ。


 彼は、ヤークワードを視界に捉え……共に来てもらうと、告げた。



「っ……」



 とっさに、ヤークワードは構える。先ほどヤネッサから借りた剣を、持ったままだった。


 構えるのはヤークワードだけではない。ノアリも、ミライヤも、ヤネッサも、アンジェリーナも、リィも。各々が、魔族を見据えて警戒レベルを引き上げる。


 特に、一度魔族と打ち合っているノアリは、その実力が身にしみてわかっている。



「ふむ……多勢に無勢、というやつですか」


「そんなこと言って、また影から仲間を呼ぶつもりなんでしょう」


「それが、困ったことに……この結界の中では、その術が使えないようでしてねぇ」



 この魔族相手に、数の有利などあってないようなものだ……そう警戒していたが、思わぬ言葉に拍子抜けしてしまう。


 以前は、魔族は対象の影から、対象と同じ強さを持つ影魔族を生み出し、戦わせていた。それは、この国の人間を多く苦しめた。


 クルドだって、最初は手こずっていたほどだ。



「それが、使えないなら……」



 ここで嘘をつく理由はない。ということは、魔族の言葉は真実だということだ。


 影から魔族を生み出せないのであれば、厄介度は大きく下がる。もちろん、あの魔族単体の力もかなりのものだ。竜形態のクルドと渡り合ったほどだからだ。


 それでも、今いるメンバーを考えれば、魔族に対抗できない、とは言えないだろう。



「なんだかよくわからないけど、また私たちの邪魔をしようってのなら」


「えぇ、容赦はしません」



 ふと、ヤークワードを守るように、ノアリとミライヤが立ちふさがる。竜族と鬼族の力を持つ彼女たちは、この中でも大きな戦力だ。


 自分を守ってくれるのは、素直にうれしい。だがヤークワードは、それ以上に……2人に守られる価値があるのかとも、思う。


 だって、あの魔族が今現れた理由は……いや、以前現れた時だって……きっと、ヤークワードが魔王の生まれ変わりかもしれないことに、関係しているのだから……



「2人とも、俺は……」


「……今なら、わかるわ、なんとなく。ヤーク、あなたがただの人間じゃないってのも」


「え……」


「感じるのよ、魔力」



 小さな声で、しかし確かに聞こえる声で、ノアリは言う。本来、人間には感じられない魔力を、感じていることを。


 ノアリも、というか人間は魔力を感じることは出来ない。だが、竜族の力が覚醒し、それをある程度使いこなせるようになったノアリは別だ。


 それに、同じ理由でミライヤも。


 2人は、ヤークワードから感じるはずのない魔力を感じて……なにかおかしいと思っても、こうして守ってくれようとしているのだ。



「後で、ちゃんと説明してもらうからね」


「ですね」


「ヤークは渡さないよ」



 それに、純粋なエルフ族であるヤネッサ……彼女も、きっと。


 それでいて、ヤークワードを疑うようなことは、しない。



「おやおや、ずいぶんと人気者ですねぇ」


「別にあいつの人柄はどうでもいいが、私もあいつをお前に渡すわけにはいかない」



 さらには、エルフも立ちふさがる。彼が王より授かった使命は、捕まっているヤークワードを奪還すること。


 失敗など、あってはならない。突然現れた魔族に渡すなど、あってはならないのだ。



「ヤークワード様は、お友達ですもの」


「は、はい」



 アンジェリーナもリィも、全員が臨戦態勢へと入る。


 いくら正門の騒ぎが大きいからとはいえ、誰も裏門に現れない保証にはならない。時間をかけては、いられないのだ。



「どいてもらうわよ!」



 言って、まずはノアリが突っ込む。竜族の脚力により、深く地面を踏み込み、一気に加速。鬼族ほどでなくても、それの速度は人間を凌駕する。


 その勢いを乗せて、振るわれる刃は岩をも斬り裂くだろう。その力が、遠慮なく振るわれ……



「っ……」


「ふむ……」



 魔族の右手に、安々と受け止められた。


 以前もそうだったが、いったいその細腕のどこに、そんな力があるのか。



 バリッ……



「せぇえええ!」



 それは一瞬の出来事、いつの間にか背後に回っていたミライヤが、雷の纏った刃を振るう。


 ガンッ……と鈍い音を立て、刃はその背に受け止められる。いくら竜族ほど力がないとはいえ、この力でも刃が通らないとは。


 もしくは、その鎧のような背中に、秘密でもあるのだろうか。



「無駄ですよ、あなたがたの力では……っ!?」



 余裕をもって、2人の攻撃を受け止める魔族……しかし、その声から突如として、余裕が消える。


 受け止めていたはずのノアリの刃が、ミライヤの刃が……魔族の右手に、背中に、深く食い込み始める。


 とっさに、魔族は刃を、いや2人を振り払う。



「わっ……なに? 今、力が……」



 振り払われ、着地したノアリは、己の手を不思議そうに見つめる。ミライヤも、それは動揺だ。


 気のせい、ではないだろう。力が、あの瞬間変化した。魔族の力が減ったのではない、自分の力が増したのだ。


 力が増したおかげで、あと少しで魔族に致命傷を与えることが出来たのだ。



「今の……」


「あなたですか」



 不思議がるノアリとは対称的に、いち早くその謎の答えにたどり着いたのは魔族だ。


 その視線を、追うとそこには……右手をかざし、視線をそらさない、フードのエルフの姿があった。



「あぁ。純粋な身体強化の魔術……だが、対象が竜族や鬼族なら、たとえ子供でもその威力は絶大だろう」



 今しがた、ノアリとミライヤに魔法ではなく、魔術をかけた男の姿が。

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