表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

278/308

人間か魔物か



 それは、人間に比べれば一回り、いや二回りは大きくなっている巨体だ。


 だが、よく見てみればそのほとんどは、本体から生えてきた岩のようなもの……つまりは、体自体の大きさは変わっておらず、体から生えた岩がシルエットとして巨体に変化したように見えた……というだけのことだ。


 だから、こうして人間の体の、心臓がある部分を、狙って突き刺すことができた。



「……っ」



 剣を突き立て、切っ先を深く、深く突き刺していく。


 ノアリとミライヤの話では、あの岩は並の力では切れなかったようだが……今刺している部分は、間違いなく肉の感触。


 ……以前、ビライス・ノラムと剣を交えた際。本当であればヤークワードは、彼を殺してやりたかった。ミライヤを、ミライヤの生活を、めちゃくちゃにしたのだ。


 だが、他ならぬミライヤがそれを止めた。ヤークワードに人殺しになってほしくないから、と。


 ……しかし、今……



「ガッ……!」



 突き刺す肉の感覚は、確実に生命を奪っていくことを教えてくれる。


 人間か魔物かもわからなくなってしまったが……少なくとも、人間であるゼルジアルの姿を知っているだけに。ヤークワードは、なかなか割り切れなかった。


 それでも……



「……すみません」



 小さく、それだけを呟いた。


 自分を捕まえ閉じ込めていた……とはいえ、それはある意味当然のことだ。ヤークワードの正体が魔王だというなら、それは警戒するなという方がおかしい。


 立場的にも、彼は正しいことをしたのだ。そんな相手を、ヤークワードは手にかけた。



「……っ」



 自分の中に流れる、なにか……恐らくこれが、魔力だ。


 魔力を感じ取り、ヤークワードは無意識にその力を剣へ……切っ先へと、集めていた。切っ先から切り口へ伝わり、魔物の中へと魔力が注ぎ込まれる。


 過剰なまでの魔力が流し込まれ……とうとう、魔物の体は限界を越える。



「おい、離れろ」


「わっ」



 ぎゅっ、と襟首を掴まれ、ヤークワードは後ろへ引っ張られた。その直後に、魔物の体は大きく膨らみ……内側から、破裂した。


 近くにいれば、その衝撃に巻き込まれていただろう。それから救ってくれたのは、ローブのエルフだ。



「た、助けてくれたのか……ありがとう」


「ふん……そもそもお前の奪還が自分の使命だ。ここで死なれてはかなわん」



 どういうわけか、ヤークワードを助けに来てくれたエルフは、ドサッとヤークワードを地面に落とす。尻もちをついてしまうが、文句も言えない。


 ……先ほどまで、魔物が猛威を振るっていたが。それが嘘のように、静かになった。


 そこにあるのは、爆散した魔物の残骸。破壊されたものもの。傷ついた教師たち……それを治療する、ヤネッサ。



「……ふぅ」



 ひとまずの脅威は去った。どっと、疲れが押し寄せてくる。


 まさかあんな魔物と戦うハメになるとは思わなかったが、なんとか生き残ることが……



「ヤークー!」


「ヤーク様ー!」



 そこへ、ヤークワードの名を呼ぶ2つの声。それはヤークワードもよく知っている、2人の少女のものだ。


 その声に、どこか安心感を覚えて……自然と、視線がそちらへと、向いた。



「……ノアリ……ミライヤ……!」



 まさか、ここにまで自分を助けに来るなんて、思っていなかった。もう会えないとすら、思っていたのだ。


 まだそこまで時間は経っていないはずなのに、ずいぶんと久しぶりの気分だ。


 駆け寄ってくる2人に、ヤークワードからも駆け寄っていき……



「ヤークおりゃぁああ!」


「ぶへら!」



 その腹部に、思いっきり頭突きをおみまいされた。


 助走がつき、竜族の力も残したままだ。もう少しズレていたら角が刺さっていたところだ。



「げほろぉ!」



 構えも受け身も取れなかったヤークワードは、その場から軽く後ろにふっ飛ばされ……背中を、床に打ち付けた。


 その腹に、ノアリは顔を押し付けたままだ。



「ってて……ノアリ、お前……俺を殺す気か……?」



 なんとか、声を絞り出す。体が頑丈でよかった。


 おそらく、純粋な人間であればただでは済まない一撃……この体が普通でないと、改めて自覚してしまったわけだが。



「うっさいわね、馬鹿!」


「いきなり馬鹿呼ばわり……」


「の、ノアリ様……」



 どうにかして、上半身だけ起き上がる。


 追いついてきたミライヤは、その様子を見て苦笑いを浮かべていて……



「まったく、心配だったって素直に言えばいいのに、ノアリ様らしいですけど」


「なっ、なな、なにを言ってるのよ!?」



 どこかからかうように告げるミライヤの言葉に、ようやくヤークワードの腹から顔を離したノアリは振り向き異を唱える。


 その耳が赤いのは、ヤークワードにも見えていた。



「おい、さっさと移動するぞ」



 なんとも懐かしいやり取りに、腹部の痛みはあるが少し笑みを見せていたヤークワード。そこに淡々と声をかけるのは、やはりローブのエルフ。


 この場で唯一、誰とも深い関わりがないからこそ、その場の雰囲気に流されることはない。


 そして、それは正しい。いつまでも、ここにいるわけにはいかない。



「そうだな、行こう」



 人間、それとも魔物……殺してしまったものは、もう戻らない。


 その残骸を、ちらりと見て……ヤークワードは、前を向いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ