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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

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どちらでもあり、どちらでもないそれ



 目の前の異形は、魔物だ……人の姿など、もうほんの少ししか残っていない。


 残っている部分に見えるのは、確かに校長ゼルジアル・フランケルトの面影。あの顔も、髪の毛も。


 だが……それが真実だとして、おかしな話になる。だってそうだろう……元々人間だったものが、魔物へと変貌しているのだから。



「ぐぅウゥぅ……!」


「みんな、油断しないで!」



 もはや右目しか残っていない彼の瞳は、赤く光り……残っている人の部位も、もはや人であるとは言えない。


 唸るその姿は、まさしく獣……人である部分を強いて挙げるなら、二足歩行であることくらいか。



「人が、魔物に……」



 これまで、魔物に魔獣に加え、様々な魔族に出会ってきた。しかし、その中でも人間が魔物になった、なんてことは聞いたことがない。


 そんな実例があるなら、もっと騒ぎになってもいいはずだ。


 もしくは、人間が魔物になるなどとわかっていて、包み隠している可能性もなくはないが……



「今は、どっちでもいいか」



 今考えるべきことでは、ない。


 目の前のそれが魔物だというのなら、放置は出来ない。すでに、何人もの犠牲者が出ているようだ。


 ここで放置すれば、被害は外にまで及ぶ。そうなれば、キャーシュやアンジーたちにも……



「アレを殺すなら、決定打のない者は下がれ」


「! あんた……」



 一触即発の状況に、ヤークワードの隣に並び立つのはローブのエルフ。


 その声は落ち着いていて、少なくとも魔物を見ても動揺していないのがわかる。



「あの小娘2人と、お前……他の者は下がれ」


「わ、私も戦えるよ!」


「向こうの怪我人を放置したまま戦いに参加したいというのなら、好きにするがいい」


「うぅ」



 冷静に指示を出すように、エルフは口を開く。


 その内容に異を唱えるのはヤネッサであるが、複数の重傷者を見て言葉を詰まらせる。今にも手当てが必要な者ばかりだ。


 指名されたのは、ノアリとミライヤ、そしてヤークワード。



「手を貸して、くれるのか?」


「アレに暴れられては、王に迷惑がかかる」



 王、とは誰のことはわからないが、協力してくれるというのならこの際、なんでもいい。


 軽く、ヤークワードはうなずいた。



「あの、私だってその、戦えます!」



 駆け寄るアンジェリーナが、声高々に言う。自分は、足手まといにはなりたくない。


 人間だったゼルジアルならともかく、今の知性を失った状態であれば……



「アレは魔物だ、それも普通の魔物ではない。お前のようなただの人間がダメージを与えたところで、すぐに回復されるのがオチだ」



 淡々と、言われてはアンジェリーナも返す言葉がない。


 ヤークワードは疑問だった。シン・セイメイのように、高い回復手段を持つ相手ならばともかく、魔物であれば人間でも戦えるはずだ。勇者パーティー、ヴァルゴスがどうだった。


 だから、エルフの人選に疑問だったのだが……どうやら、アレは普通の魔物ではないらしい。人間が魔物になった時点で、普通ではないが。


 彼は言った。ダメージを与えてもすぐに回復されると。だが、魔物には自身を回復させるような知性も、まして手段もない。


 つまり……



「自動回復する……ってことか?」


「察しが良いな。見てみろ」



 チラ、向けられた視線の先、そこではやられっぱなしではない教師たちが、抵抗を試みている。


 だが、斬りつけても、ダメージのあったはずのそこはすぐに、傷口が塞がってしまう。



「だから、竜族のノアリと鬼族のミライヤと…………なんで、俺なんだ?」


「……」



 湧いた疑問に、しかしエルフは応えない。


 知っているのだろうか、このエルフも……ヤークワード・フォン・ライオスの、正体を。



「来るぞ」


「!」



 続けてなにかを言おうとしたヤークワードだが、それよりもエルフの口が動くのが早い。


 直後、魔物は雄叫びをあげ、ヤークワードの方を睨みつける。その、残っているゼルジアルの右目と目があった時、背筋が凍った。


 その場で踏み込んだ魔物は、そこから一気に飛び出す……あの巨体からは考えられない速度で、走り出し……



「うぉおオおおオおォお!!」



 振り落とされた腕は、硬い床を砕く。ヤークワードとエルフは、直前にその場から退避。


 魔物との戦い方は、心得ている。奴らは知性がない分凶暴だが、落ち着いて対処すれば問題はない。



「速い、けど……!」



 巨体な分相手の視界からは逃れやすい。うまく、相手の体を利用して姿を隠し、懐へと潜り込んでいく。


 さらに、それを察してくれたのかノアリとミライヤが、それぞれ魔物の注意をそらす。あのエルフも、遠距離からの魔法でサポートしてくれている。


 剣を、握り締める手に力が入る。この体に、魔力が宿っているというのなら……



『アレを殺すなら、決定打のない者は下がれ』



 ふと、エルフの言葉が頭をよぎった。


 殺す、殺す……魔物を、殺す。それは、転生前のライヤも、やってきたことだ。力がなくとも、仲間との連携で魔物を殺してきた。


 それと同じことを、するだけだ。なのに……



「……っ」



 アレは、魔物であるが……人間だ。ヤークワードは、ゼルジアルという人間のことをなにも知らない。騎士学園の校長ではあるが、会ったのは今日が初めて。


 加えて、理由があったにしろ自分を捕まえ、監禁していた人物だ。


 それでも……魔物に変貌してしまった人間を、殺すということに……抵抗が、ないわけない。



「だとしても……」



 未だって他の教師はやられ、リィだって倒れているのはゼルジアルに殴り飛ばされたからだ。今は傷は治っているが。


 このまま放っておくことは、出来ないのだ。


 だから……



「ぬぇえええええい!」



 人間か魔物か……その、どちらでもあり、どちらでもないそれの胸元に。


 ヤークワードは、鋭く剣を、突き立てた。

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