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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

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それぞれの役割



「ヤネッサ!」


「! ぅっ……」



 不意に、己を呼ぶ声にヤネッサは我に返る。直後、苦しかった締め付けから解放された。


 いきなりのことに受け身を取ることが出来ず、地面に体を打ち付けてしまう。



「けほ、けほっ……」



 体を打ち付けてしまったが、それ以上に締め付けられていた首が解放されたのが大きい。


 大きく息を吸い込み、勢い余ってむせこんでしまう。



「ヤネッサさん、大丈夫ですか?」


「えほっ……う、うん」



 起き上がろうとするヤネッサの体を支え、起こしてくれるのはアンジェリーナだ。


 今、いったいなにが起こったのか……それを確認するために、ヤネッサは視線を上げて……



「はぁあああ!」


「ぬっ……!」



 今しがたヤネッサを掴み上げていた、ゼルジアル・フランケルト。彼と対峙するのは、竜族の力を発揮したノアリだ。


 ゼルジアルを押しのけ、ヤネッサを助けてくれたのはノアリのようだ。さらに、ゼルジアルの後ろにはミライヤの姿。


 2人で、挟み込むようにして戦闘を開始している。



「ノアリ……ミライヤ……」


「ヤネッサ、ヤネッサはヤークを捜して!」


「え……」



 ようやく意識もはっきりとし始めたところへ、ノアリから信じがたい言葉が投げかけられる。


 ヤークワードを捜せと……しかし、それはこの場に、彼女らを置いていけということだ。



「そんなの……」


「このままじゃ、時間がとられるだけだよ!」


「それに、人数がいても有利に働くとは、限りません!」



 今対峙しているノアリとミライヤが、一番よくわかっているはずだ。校長ゼルジアルとの力の差を。


 かといって、ここでヤネッサやアンジェリーナが参戦しても結果が好転するとは思えない。そもそも、このままでは分かれて侵入した意味がない。


 それに、ノアリの言う通り……たったひとりに時間を取られ、そのうちにも他の教師が来るかもしれない。



「……っ」



 ここは、彼女らに任せるしかない。



「ここは、私たちの役割です!」


「わかった。2人とも、無理しないでね!」


「わかってる! アンジェさん、ヤネッサをお願い!」


「はい!」



 お互いにお互いの無事を祈りつつ、ヤネッサとアンジェリーナは背を向け、その場から走る。


 追いかけてこようとするゼルジアルを、ヤネッサとミライヤが協力して足止めしている音が聞こえてきた。


 ゼルジアルの力は強大だが、ノアリとヤネッサもまた、竜族と鬼族の力を持っている。


 大丈夫だ、信じよう。



「ヤネッサさん、ヤークワード様たちは……」


「ん……こっち!」



 もう、バレないようにこっそりと移動している時間はない。ヤネッサは先行して走り、アンジェリーナもそれに続く。


 においはまだ上階だ、しかし着実に近くなっていっている。あとは、ヤネッサの方からのおいの方向へと、近づいていけばいいだけだ。


 二段飛ばしで、階段を上がる。何階か上がる間も、喧騒は聞こえても誰とも出くわさない。


 飛ぶように階段を上り終え、そこに誰かいるのを発見する。


 とっさに、2人とも身構えるが……



「……あれ、あのときの」


「……」



 そこにいたのは、黒いローブを羽織ったエルフの姿だった。


 今となっては数少ない同胞……なにより、先ほどはヤネッサを助けてくれたのだ。いくらシン・セイメイの関係者とはいえ、ヤネッサには彼が悪い人には見えなかった。


 それに、理由は分からないが目的は、自分たちと同じヤークワード救出なのだ。



「まあ、先ほどの」


「もしかして、私たちがこれまで、教師と出くわさなかったのって……」



 ここに来るまで、誰にも見つからなかった。運がいい、だけでは片づけられない状況だ。


 だが、彼がここに来るまで、教師たちを排除してくれていたのであれば、それも納得だ。



「……見つかると面倒だから、始末しただけだ。お前たちのためじゃない」



 これはあくまで、結果としてヤネッサたちに有利に働いただけ……そう、エルフは念押しする。


 それでも……



「私たちがスムーズにここまで来れたのはあなたのおかげだもん、だからありがと!」


「っ……別に」


「まあまあ」



 素直なヤネッサのお礼に、エルフはさっと顔をそらした。その姿に、アンジェリーナは小さく呟く。


 ともあれ、彼のおかげで障害という障害はなさそうだ。あとは、落ち着いてヤークワードを捜せば……



「ん……」


「どうかしました、ヤネッサさん?」



 歩き出そうとしていた足を止め、ヤネッサはその場で目を閉じ、鼻で嗅ぐ仕草。


 それは、なにかに集中している姿……そして、この状況でヤネッサが気にするにおいがあるとすれば、ひとつだ。



「あっちから、ヤークのにおい!」


「本当ですか!?」


「……」



 はっと目を見開き、ヤネッサは駆け出す。その走りに、迷いはない。


 その後ろをアンジェリーナ、そしてエルフが追いかけるようにして、走り出す。



「ヤーク、ヤーク……!」



 逸る気持ちは、だんだんと大きくなっていく。ようやく、ようやくだ。会うことが出来る。


 父親を殺した犯人として連れていかれた彼は、いったいどんな気持ちだろうか。


 ノアリとミライヤとはまた違った形で、ヤネッサはヤークワードを信じていた。彼が、そんなことをするはずがないと……そう、信じて疑わなかった。


 その気持ちを抱いて、においの濃くなる方へ……曲がり角を、曲がった。



「ヤーク……!」


「! や、ヤネッサ!?」



 そこに……捜していた、ヤークワードがいた。驚いた顔をして、こちらを見ている。


 間違いない、その顔は、このにおいは、ヤークワード本人のものだ。


 ようやく会えた嬉しさに、感極まり……ヤネッサは、ヤークワードに飛びついていった。

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