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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

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変わりゆく心



 ……それからのことは、よく覚えていない。


 ヤークワード・フォン・ライオスが魔族、しかも魔王であると判明した以上、やるべきことは決まっている。世界を混沌へ導く存在を、野放しにはしておけない。


 あの魔族は死んでしまったようだったが、そんなことはどうでもいい。



『私が、守らなければ……』



 やるべきことは、ただひとつだけ。危険人物を、速やかに拘束すること。


 クロードに魔力封じの工具を作らせ、邪魔者を排除し、ヤークワードを捕らえる……念のために、ルオールの森林で死んだエルフの亡骸を利用して作った弾丸も、常備しておく。


 すべては、順調だ。あとは、この危険な化け物を殺す。それだけでいい。


 そうだ、すべては順調だった。そのはずなのに……



「答えろ!」


「……」



 対峙し、目の前にて己を睨みつけるエルフの少女の姿。学園の生徒たちと共謀し、彼女らはヤークワードを奪い返しに来たのだ。


 エルフの少女は、あの弾丸に同胞の血肉が使われていたことが、ひどく気に入らないようだ。



「エルフの血肉を使った武器……ルオールの森林を襲った魔族……魔族がこの国を襲った時あなたの姿は見なかった」


「……」


「これで、なにも疑うなって方が無理でしょう」



 すでに彼女は、疑いの段階からほぼ確信の状態に至っている。


 まったく、妙に勘の働く少女だ。黙って、いればいいものを。ゼルジアルだって、好きで生徒を手にかけたいわけではないのに。


 ……いや、彼女はこの学園の生徒ではない。ならば、なにをしても問題はないのか。



「そもそも、ヤークワードを……あの化け物を奪おうとする時点で、彼女らも、敵……まぞ、く……?」


「……? なにを、さっきからぶつぶつと……」



 瞬間、ヤネッサの頬を鋭いなにかが過ぎる。遅れて、ビュッと風が吹く。


 鋭いなにか……しかしそれは、刃物とかではない。拳だ。鋭く研ぎ澄まされた拳が、ヤネッサの頬をかすめたのだ。


 つぅ……と、ヤネッサの頬から血が流れる。もしあと一歩、ヤネッサが首を動かすのが遅かったら、今頃は……



「おやおや、避けましたか」


「っ……」


「見えなくても反射的に避けてしまう……敏感なエルフ族ならではですね」



 エルフ族は、もちろん個人差にもよるが人間と比べれば、感覚が研ぎ澄まされている者が多い。ヤネッサもそのひとり。


 これまでを森の中、という自然の中で生きてきたからか、単純に種族としての特性なのかは、わからないが。



「……あなた、人間族、だよね」



 咄嗟に後ろに飛んで距離を取り、ふと、怪訝な表情を浮かべてヤネッサが問う。


 その先にいるのはもちろん、対峙しているゼルジアルだ。



「? おかしなことを言いますね。私は人間に決まっているではないですか」


「なら、微弱だけど……なんで、あなたから魔力を感じるの?」


「……はい?」



 それは、ゼルジアルにとって聞き流すことのできない言葉だった。魔力を? 感じる? 自分から?


 それはなんの冗談だろう。……しかし、目の前のエルフの表情は、真剣だ。とても嘘や冗談を言っているようには。


 ……だとしたら。



「魔力……私が……? 魔力……魔族……わた、しが……いや、あり、えない……!」



 魔力を感じるなどと……それはまるで、魔族ではないか。あの、薄汚い……世界を混沌に導く、憎むべき存在だ。


 さては、動揺を誘おうと嘘を言っているのだ。そんな真剣な顔をしても、無駄だ。



「ヤネッサ、校長先生は人間……エルフ族や、魔族ではないわ。そのはず。なのに……」


「……」



 今のヤネッサのセリフに、疑問を投げかけるのはノアリ。アンジェリーナも、ミライヤも同じ気持ちのようだ。


 しかし、ヤネッサは真剣な表情で首を振る。



「わからない。けど、間違いない。私は、あなたに会ったことはないから、最初からそうだったのかそうじゃなかったのかはわからない。けど、後者なら……」



 つぅ、と、ヤネッサの額から一筋の汗が流れる。


 本来は、あり得ないことだ。しかし、ヤネッサは気づいていた……人間であるヤークワードから、時折魔力のようなものを感じることがある、と。


 人間は魔力を持たないし、まして途中から魔力を帯びるなんて考えられない。そのはずなのに……


 目の前の男も、今まさにその現象が、起こっているのだ。



「ええい黙れ黙れ! 私が、そんな……あるはずがない!」


「!」



 突如として叫び狂うゼルジアルは、ヤネッサへと飛びかかる。とっさにそれを避けるが、先ほどまでの余裕のあった動きとは天地の差だ。


 今の言葉に動揺した……果たして、それだけだろうか。


 言動も、先ほどからどこか支離滅裂なものになっている気がする。



「ぜぇえ!」


「わっ!」



 避けた先に再び飛びかかってくるゼルジアルの姿に、狂気のようなものを感じる。また避け、避けても、狙いを定めて飛びかかってくる。


 その姿は、まるで……



「獣……あぐ!」



 伸ばされた手が、ヤネッサの首を締め付ける。ぎゅっ……と力を込められ、締め上げられて。


 これが、老人の力かと……疑いたくなるほどの。



「……!」



 その最中……ヤネッサは、見た。


 ゼルジアルの、睨みつけるような瞳に映る……凄まじい、狂気を。人間ではない、それはまるで……

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