起こる騒ぎの中で
「さっきから、誰もいませんねぇ」
「ですが、油断はしないでください」
裏門から、騎士学園内へと足を踏み入れた、ミライヤとリエナ。2人は、出来る限り音を殺し、声を殺し、慎重に歩みを進めていた。
しかし、いくら慎重に移動しているとは行っても、ここまで誰にも出くわさないというのは、返って不気味だ。
「外で、人が消えてしまったのと、関係があるんでしょうか」
「……ないとは、言い切れませんね」
ミライヤたちは、自分たち以外の人間が消えたのが、人払いの結界による現象だと気づいてはいない。
「それに、正門で大きな音があったのも気になるし……ノアリ様たち、大丈夫でしょうか」
そして、正門ではこの結界を張った張本人であるシン・セイメイと、教師クロードが激突していることも、ミライヤたちは知らない。
ただ、不気味なほどに静かである一方、時折爆音のようなものが響いている。それだけだ。
「先ほど、学園内で爆発があったようですが……なんなのでしょう」
そもそもノアリたちが侵入を決めたのは、学園内で謎の爆発があったからだ。
あれを皮切りに、悠長にしている時間はなくなり、ノアリたちと二手に分かれて侵入した。
誰もいないのは、みんな爆発の原因を探るためにあっちへ行っているからだろうか。
「あの部屋に、なにかあるんでしょうか」
ポツリと、ミライヤがつぶやく。外からではあの部屋がなに教室かまではわからなかったが、3階くらいの位置だ。
あそこに、なにがあるのか。なにもないのに、爆発はしないだろう。多分。
「陽動……とは考えられませんか?」
「ようどう? ……適当な所を爆発させて、注意を引いて、その隙に侵入するつもりで?」
「あくまで考えのひとつですが。……ただ、爆発は内側から起こっているんですよね」
「うーん……」
単に、学園の外側……つまり壁などが爆発すれば、外からの攻撃だとわかるものだが。起こった爆発は内側だ。
爆発は部屋の中で起こったことになる。外から、内側を爆発させるなんて不可能だ。多分。
それに……リエナの予想通りだとして、ミライヤたち以外にも学園内に侵入した者がいることになる。
自分たちは、それにあやかりついでに侵入した、という形になっているわけで。
「ヤーク様を助けようとしてくれている人が他にもいるなら、心強いんですけど」
「先ほどの爆発の主が、味方とも限りません。もしかして、誰かが内部から爆発させたのかも。そんな危険な人物が、私たちにも好意的かどうか」
「内部から……そっか、侵入しようとした人が爆発させたんじゃなく、その協力者が内側から爆発させたのか」
「考えのひとつですがね」
とはいえ、そう考えた方が自然だろう。学園内にも、ヤークワードを助けようとしている者がいる。
まさか、何者かが侵入しようとして、そのために外から部屋の一部を爆発させるなんて芸当、不可能だろう。魔法を使っても、そこまで万能ではないはずだし。
そんなことができる人物がいたとしたら、それはすごいを通り越してもはやインチキだ。
「まあ、考えても答えが出るわけではありません。先へ進みましょう」
「そうですね」
思考を中断し、先へと進むことを決める。
だが、ミライヤサイドは、ノアリサイドのようにどこへ進めばいいか、あてがあるわけではない。
ヤネッサがいるノアリたちは、彼女の能力のおかげで迷いなく進めていたことだろう。ミライヤたちも、本来ならばアンジーやミーロに任せる手はずだったのだが……
「どこから回りましょう」
「そうですね……」
とりあえず、ミライヤはノアリたちが無事であることを信じて、進んでいる。
せっかく別れて侵入した手前、途中で合流するよりもそれぞれ別の場所を探索した方が効率的だ。
「ノアリ様たちは下から調べるとのことでしたので……上から、行きましょう」
「了解です」
階段を見つけ、ミライヤとリエナは上る。普通に歩くよりも足音に気を付けなければならないため、より慎重に。
……ヤークワードを見つけたら、アンジーとヤネッサの間で連絡を取ってもらうつもりだったが……どうするかは、まあヤークワードを見つけてから考えよう。
「! し……」
先行していたリエナが、階段を上りきる前に足を止め、身をかがめる。口元に指先を持っていき、静かにするようにとうなずく。
その行為に、ミライヤも小さくうなずき……直後、ドタドタドタと、複数の足音。
2人は身をかがめつつ、顔だけを覗かせると……
「……先生たち?」
見覚えのある、教師たちが走っている。どこか、焦っている様子だ。
どうやら、ミライヤたちの存在がバレたわけではないらしいが……まさか、ノアリたちが……?
「おい本当か、正門で誰かが派手に暴れていると!」
「今クロード先生が対応中だ!」
「なんでも、突然人が消えたのもそいつのせいらしい!」
「エルフ族が!?」
騒がしく話をしている教師たち。激しい足音にかき消され、すべての会話が聞こえたわけではないが……
正門で、なにかが起こっている。
「エルフ族……」
正門にいるエルフ族といえば、ヤネッサだろうか。だが、彼女にこんな大規模なことが、できるだろうか。
嫌な予感がする……どうか、無事でいてほしい。




