その思惑は
ノアリたちと同じ目的を持つという、シン・セイメイ。ノアリたちの目的はもちろん、ヤークワード救出。
それと、目的が同じだというのなら……味方ではないにしろ、互いに協力は、できるはずだ。
だが、素直に受け入れられない……セイメイが、ヤークワードを救出しようとしている、理由がわからない。
「なんで、ヤークを……」
気づけばノアリの口からは、自然と疑問が漏れていた。それも、当然のことだろう。
ヤークワードは、セイメイに深手を負わせたひとり……その隙をついて、リーダが魔力封じの道具でセイメイを封じたのだ。
恨みこそあれど、助ける理由などないはず。なのに……
「カカッ、ノーコメントじゃ」
セイメイは、愉快げに笑うだけで、ノアリの質問には答えてくれない。
目的は同じだというが、理由がわからないのでは、信用していいのかどうか……
「なるほど……つまり、命王は単独で彼を、助けに来たと?」
「ま、そういうことになるの」
「学園内の爆発も、貴方の仕業?」
「全て答えてやる義理はないぞ?」
セイメイとクロードの間に流れる空気は、穏やかなようで、一触即発だ。
ヤークワードを助けに来たというセイメイ、ヤークワードを捕らえている場所を守っているクロード……その立場の違いが、この空気の原因だ。
「先生……ヤークを、返して!」
そんな状況であっても、ノアリは、叫ぶ。先ほどと、同じ言葉を。
彼は、教師だ。生徒にはとても優しかった。こうして頼み込めば、きっと返してくれる……そんな気持ちが、あったのかもしれない。
だが……
「……申し訳ありませんが、それは無理です」
バッサリと、切り捨てられた。
その表情は、なにを思っているのか……読み取れない。アンジェリーナも、同じように言ってくれているが、聞く耳を持たない。
どうして……ノアリは、歯を食いしばる。
「なんで……なんで、ですか! どうして、ヤークが……」
「放送を聞いていなかったのですか? 彼は、『勇者』を……自分の父親を、手にかけた。だから、拘束した。それだけの……」
「本当に、ヤークがやったんですか!?」
「……そう、だとして、あなたたちは素直に帰るのですか?」
本当に、ヤークワードがガラドを殺したのか……その問いかけに、クロードが返す言葉はひどく冷たい。
とても、これまで接していた、温かな声を出していた人と同じとは、思えない。
「それ、は……」
「カカッ、無用な問答じゃ」
しかし、そのやり取りをあっさりと切り捨てるのは、ヤークワードを助けに来たというエルフ族の王。
「儂は、ただあの混じりの小僧をここから連れ出す。それだけのこと」
「……!」
セイメイの言葉に、ノアリは弾かれたように顔を上げた。もちろん、ノアリだってなにがあっても、ヤークワードを助けるつもりだ。
だが、敵か味方かもわからないこの男が、こうも堂々宣言するとは、思わなかった。
「あんた、本当に……」
「どうやら貴方には、情に訴えかけるなどといったやり方は通用しないようですね」
もはや、クロードにとってこの場に集まった者が、どのような思惑を秘めているのか関係ない。
ただ、ヤークワード・フォン・ライオスを助けに来た。それだけのこと。
もっとも、3人の少女とエルフの王とでは、目的こそ同じであってもその先に見ている景色は、違うようだが。
「……主、名をなんと言う?」
「クロード、と」
「ふむ、そうか……クロード、主が……」
リーダ・フラ・ゲルドに魔力封じの道具を持たせた人物か……と、セイメイは口の中で小さく呟いた。この自分の魔力を封じる道具を作るなど、大した男だ。
この人物の人柄は知らない。だが、リーダに道具を持たせたり、同じ学園に所属している以上に彼と繋がりがあるのは、明白だ。
そして……このシン・セイメイを、囚われの状態から解放したのも、リーダ・フラ・ゲルド。
互いの背後に、同じ男がいる。その上で、片やヤークワードを奪い返されまいとする立場におり、片やヤークワードを奪い返しに来た。
「やれやれ、なんとも……複雑に絡みよるわ」
この場で口に出すことはしないが、セイメイがこの場に現れたのはリーダの頼みによるものだ。
つまり、リーダと関係を持つクロードはヤークワードを捕らえ、リーダと関係を持つセイメイはヤークワードを助けに来た。
同じ人物と関わりを持つ自分たちが、正反対のことをしている。
「あやつめ、腹になにを抱えておるのか……」
「さっきから、なにをぶつぶつと……」
「いや、こっちの話じゃ」
クロードは、セイメイとリーダに繋がりがあることは、知らないだろう。自分と、敵対する相手が同じ相手と協力していると知れば、あの男はどんな顔をするだろう。
こほん、と、セイメイは咳払いをひとつ。
「さて……本来ならば儂だけで事を為すつもりじゃったが。せっかく人数がいるのじゃ、娘ら、主らは混じりの小僧を助けに行くが良い」
「え……」
「まああれじゃ、ここは儂に任せて先に行け、というやつじゃな」
意気揚々と、セイメイは言い放つ。まさか、セイメイ本人からそのようなことを言われるとは、思っていなかった。
ノアリは、ヤネッサは、アンジェリーナは。不安げな表情を浮かべ、互いを見つめる。
ちなみに、不安というのは、セイメイの身を案じて、ということでは断じてない。
「……いいの?」
「おう」
その理由はともかく、この男はヤークワードを助けに来た、のだ。なのに、自分はクロードの足止めに徹し、ノアリたちを行かせてくれるという。
重要なのは、自分がヤークワードを助けることではなく、あくまでヤークワードが助け出されること……というわけだ。




