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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

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囚われの場所



 犯行現場……あの場に、誰も居ないのは幸いだった。あの場に訪れたのを見られては、いくらノアリたちとわからなくても、不審に思われていたかもしれない。


 仮にも『勇者』が殺された場所、そこに警備を配置しないのも、普通に入ることができるのも、不用心ではあるが……


 それだけ、ヤークワードの対応に急を要しているのかもしれない。



「急がないと……!」



 慎重に、しかしそれなりに早く。各々は、逸る気持ちを抑えて歩みを進めていく。


 先頭はヤネッサのまま、後続につくノアリたちは周囲への警戒をも怠らない。


 アンジーの魔法のおかげで、認識をずらすことはできているが……同じエルフ族には、効果の薄いものらしい。だから、確実に安全というわけでも、ないのだ。



「それにしても、この道って……」



 小さく、ミライヤが呟く。その呟きに耳を傾け、ノアリも改めて周囲を見やる。


 ……よく見る、景色だ。先ほどまで、ただヤネッサの案内に従って歩いていたのみだが、だんだんと見覚えのある光景になってきたのが、わかる。


 おそらく、このメンバーの中で、ノアリとミライヤが、真っ先に気づいたことであろう。



「……ここ。ここから、ヤークと、あの場に残ってたたくさんの、においが、する」



 そして、ついにヤネッサはその足を止めた。それに続き、ノアリたちも足を止める。


 ヤネッサが見上げるは、ひとつの建物だ……彼女に倣って、ノアリたちも顔を上げる。


 その視線の先に、あったものは……



「騎士学園……」



 ノアリたちが日々、通っている……学園の、姿。


 正直、予想はしていた。ヤークワードが連れ去られ、囚われるにあたり、その可能性のひとつとして、騎士学園がそうではないかと。


 その予想は、的中した。ヤネッサが言う、あの場に残ってたにおい、とは……つまりは、ヤークワードを連れ去った人物たちの、においということ。



「まさか、ここに……」


「学園は広い。私たちが知らない場所があっても、不思議じゃないわ」



 ノアリたちは学園に通うようになり、もう年単位が経つが……それでも、学園の内部すべてを知っているとは、言えない。


 彼女らが知らない、監禁部屋のようなものがあるのかも。そうでなくても、ただ教室に縛って放置しているかもしれない。


 どちらにせよ、部屋がたくさんあるという利点が、この学園にはある。



「さすがに、何人か警備っぽい人たちは、いるわね」



 影に隠れ、学園の様子を伺う。何人か、大人が徘徊している。無関係の人間ということはないだろう。


 となれば、やはりここにヤークワードがいる可能性は高いヤネッサを疑うわけではないが、明らかになにかを警戒しているようにも見えるからだ。



「問題は、どうやって入るか……ね」



 さすがに、正面突破というのは乱暴だ。ともなれば、裏口からか……


 今にも飛び出しそうなヤネッサを押さえつつ、ノアリは考える。急いだほうがいいのは確かだが、大胆な行動はできない。明るいうちから忍ぶのは危険だ。


 となれば……



「暗くなるまで、待ったほうがいいでしょうね」


「そうですね……って、うぇあ!?」



 同じことを考えていた声があり、ノアリはうなずく……が、振り返り仰天。そこにいたのは、今までこの場にはいなかった人物。



「ろ、ロイ先生……!?」


「お久しぶりです」



 人畜無害そうな笑みを浮かべ、そこに立っていたのは……ロイ・ダウンテッド。ヤークワードとヤネッサの剣の先生だ。


 移動中捜してはいたが、見つけられなかった人物。それが、タイミングよく現れたのだ。



「ど、どうして……」


「ヤークのこと……でしょう、皆さんも。私も、不信に思い……彼の居場所を、探っていたんです。そうしたら、移動中の皆さんを見つけたので」


「あれ、でも認識がずれてるんじゃ……」


「? 認識?」


「くんくん……あー、あなた、アンジーお姉ちゃんのにおいがする! 長く一緒にいたから、きっと魔法の効果も薄かったんだね」


「!?」



 突然現れ、ノアリたちを認識したロイの言葉に、一同は疑問に思うが……ヤネッサが発した言葉で、全員が言葉を失う。特に、アンジーとロイは顔を赤らめた。


 なるほど、アンジーと接した期間が長いため、アンジーの幻惑魔法は彼には効果が薄かったようだ。


 ヤークワードが学園の寮に住むようになってからも、ライオス家を頻繁に訪ねていたとは聞いていたが……



「……」



 におい、なんて生々しい表現をされてしまうと、なんというか、どう反応していいか困る。2人のことだから、一緒にお茶したり程度のことだとは思うが。



「も、もー、私たちだってわかったなら、声くらいかけてくださいよ。びっくりしました」


「す、すみません。皆さん真剣だったので、タイミングが……」



 話の流れを変えるように、ノアリは言う。それに、ロイも苦笑いを浮かべて答える。


 なんにせよ、この反応はロイ本人で間違いなさそうだ。最悪、何者かがロイの変装をして近づいてきた可能性もあったが……


 昔と変わらぬ、色恋には敏感なこの反応。なにより、ヤネッサが『アンジーと仲のいいにおい』と評しているのだ。



「こほん。とにかく、動くならば日が落ちてからの方がいいかと。急ぐ気持ちはわかりますが」



 話題を元に戻すように、ロイはわかりやすく咳払い。


 そうだ、今気にすべきはこの2人の仲の深さではない。それはまた後で。


 暗闇に紛れて、ヤークワードを奪還する。場所も割れた、あとは残り数時間で計画を立てるのみだ。

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