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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

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ヤークワード救出へ



 ヤークワードを助けるにあたり、考えるべきことは多い。本来ならば、周到な作戦を練ってから、向かうべきだ。


 だが、時間という問題から、ノアリたちはすぐに動くことを決める。ヤークワードが『勇者』殺しの犯人として祀り上げられた以上、どうあっても猶予は少ない。


 自由に動けるのは、むしろ今をおいて他にはないだろう。



「わ、ホントに私たち、気づかれてませんね」



 それを決めた一行は、家を飛び出し、ヤネッサを先頭に街中を堂々と歩いていた。


 ヤネッサを先頭にしたのは、彼女がヤークワードを見つけられる可能性が一番高いからだ。


 ヤークワードの関係者、それも"癒しの巫女"も含んだ一行であるが、周囲の人々から奇怪な目を向けられることはない。



「これが、認識をずらす、魔法……」


「えぇ。私たちを私たちと認識させない……結果は、ご覧の通りです」


「認識をずらすだけだから、別に透明になってる、とかじゃないのよね。目立つ行動は避けなきゃ」


「すみません、ひとりや2人ならまだしも、この人数を透明化は……」


「ううん、充分よ」



 もしも透明化なんてことができれば、もっとスムーズに移動することができるだろう。だが、贅沢は言えない。


 なんの備えもなしに外に出てしまえば、ノアリたちの存在はすぐに発見され、囲まれ、移動もままならなくなってしまうだろうから。



「ヤネッサ、どう?」


「うーん、こっちからヤークの濃いにおいがする」


「言い方……」



 ヤークワードを捜すにあたって、手掛かりがあるとすればヤネッサの存在だけだ。


 『呪病』事件の時も、『魔導書』事件の時も。ヤネッサのおかげで、それぞれ助けられた人たちがいる。実績は、あるのだ。


 なので、こうして頼っているわけだが……



「犬みたいですね……」


「もしそんな行動をとりそうになったら、すぐに止めるわよ」



 ヤネッサとは初対面のキャーシュが、おずおずと言う。それは、みんな感じていたことだ。


 においを追う……それは、それだけならいいが、それ以上に仕草まで犬のようになってしまってはアウトだ。


 あくまで周囲の人々から、ノアリたちがノアリたちである認識をずらしているだけ。もし変な行動でもとろうものなら、奇行に人々の注目を集めてしまうこと間違いなしだ。


 キャーシュの言うように、犬のようなのはまだいい。もしも犬のように四つん這いになんてなられたら、それはもう事故だ。


 そうなってしまう前に止めようと、ノアリは固く誓う。



「もしも近くに、先生とかいたらいいんだけど……」



 目的地は、ヤークワードが囚われている場所。だが、その道すがら、知り合いの姿はないかと、目を凝らすことも忘れない。


 特に、ヤークワードとノアリの剣の先生である、ロイ……ロイ・ダウンテッドであれば、必ずや味方になってくれるはずだ。



「アンジーは、ロイ先生がどこにいるか、知らないの?」


「な、なぜ私に聞くんですか……残念ながら、わかりません」



 ノアリの質問に、アンジーが若干動揺したのを、彼女は見逃さなかった。


 幼い頃から、あの2人はいい雰囲気だなと思っていたのだ。まあ、以降10年近く、なにもなかったようだが……



「ま、私も人のことは言えないか」


「?」



 ひとり、ノアリは呟く。それを聞きつけたミライヤが、首を傾げたのが見えた。


 とにかく、アンジーはロイの居場所を知らないようだ。まあ、知っていたら、事前に合流していそうな気もする。あるいは、ヤネッサとロイが会ったことがあれば、捜すこともできたのだろうが。


 最後に聞いた、ロイの目撃情報……ヤークワード曰く、アンジーが魔族にやられそうになった時、助けに来てくれたらしい。


 結局彼も魔族には敵わなかったようで、アンジーと共に学園に連れていかれた。


 ヤークワードはどうか知らないが、ノアリは彼とはその後会っていない。思えば、結構会ってない気もする。



「こっち」



 その間も、ヤネッサの案内は続く。数人が固まっていて移動している程度では、周囲の人間に不審がられることは、ない。



「あのヤークワードってのが父親を殺したらしいぞ」


「マジかよ、ろくでもねぇな」


「けど、今回魔族の撃退に功労したのも、そいつだって話じゃんか」


「いや、そういう疑われにくいことしといて実は……ってことかもしれねえぜ」


「魔族を手引きしたんじゃないかって言われてるわよ」


「つまり自作自演ってことかよ?」


「魔族騒ぎを起こして、混乱に乗じて父親を、ってことか? えげつねえな」



 移動の最中、人々の声が聞こえてくる。それは、先の情報がひとり歩きし、噂が噂を呼んでいる状態。


 根も葉もない。だが、彼らにとって、それが真実かどうかなんて、ささいな問題かもしれない。


 言われぬ容疑に、ノアリは歯を食いしばる。いや、ノアリだけではない。



「……」



 本当なら、今すぐにでも飛び出して、今あらぬことを言った奴を殴り飛ばしてしまいたい。


 それをしないのは……ここで暴れれば、ヤークワード救出のチャンスを、棒に振ってしまうことになると、わかっているから。


 とはいえ、まだ大人な分冷静なミーロやアンジーはともかく、ヤネッサやキャーシュが我慢できているのは、賞賛に値する。



「……もしも……」



 ヤークを奪い返せたとして、その後ちゃんと元に戻るのかしら……


 そんな気持ちを、最後まで口に出すのを、ノアリは止めた。言葉にすれば、まるでそれが本当のことになってしまうような気がして。


 大丈夫だ。ヤークワードを取り返し、真実を明るみにする。そうすれば、周囲の人たちだって、きっと……



「! ここ……」



 ぽつりと、ヤネッサが声を漏らした。いきなり立ち止まられたので、ノアリは鼻先を彼女の背中にぶつける。


 いったい何事かと、ノアリはヤネッサの背中からひょいと顔を横にずらし、視線の先を追う。


 そこには……



「……っ」



 ……大きな、血だまり……


 誰がなにを言うでもなく、わかった。ここで、ガラドは……殺された。そして、ヤークワードのにおいが残っているということは……



「現行犯扱いで、連れていかれた……?」



 ヤークワードがガラドを殺していないことを前提として考えると……ガラドはここで何者かに殺され、そこにヤークワードが居合わせた。


 状況証拠としては、充分すぎる現行犯。そう考えれば……



「奥様……!」


「っ、大丈夫……大丈夫よ」



 よろめくミーロを、アンジーが支える。無理もない、ここで犯行が行われたのなら……


 許せない。こんなことをして、大切な人を悲しませて……



「ヤネッサ」


「わかってる。……においは、まだ続いてる」



 ここで終わりではない。ここからが始まりだ。


 決意を新たに、ノアリたちは歩みを進めていく。

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