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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

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今後の方針



 ヤークを、助けに行こう……誰もがきっと頭の中に考え、しかし誰もが簡単には言い出せなかった言葉。


 それを、合流したばかりのヤネッサは、あっさりと言い放った。



「……ん? みんなどうしたの?」


「いや……あまりに、いきなりだったから」



 合流できたのは嬉しいし、魔法の使えるエルフである彼女たちが一緒にいるのは心強い。


 それに、魔法の他にもアンジーは武術を得意としているし、ヤネッサは鼻が利く。


 ヤークワードがどこにいるかわからない……という悩みも、ヤネッサがいれば解決できるに、違いない。



「ヤネッサ、事はそう簡単じゃないのよ」



 と、アンジーが言う。彼女の、言うとおりだ。


 ノアリが考えている通りなら、敵はヤークをガラド殺しの犯人に仕立て上げようとしている……それだけの権力を、持っている。


 しかも、『勇者』ガラドを殺せる実力付きで。不意をついたかどうかはわからないが、不意をついた程度で殺せるほど、甘い相手ではない。



「む……」


「気持ちはわかるけど、いきなり行って『ヤークを返せー』なんて言っても、通じる相手とは思えないわ」



 相手がどんな権力を持っていても、王族以上の権力の持ち主はいない。


 だから、現在次期国王に一番近い、リーダ・フラ・ゲルドの力さえ借りられれば……



「……」



 しかしノアリは、その考えを押し殺す。正直に言えば、リーダという男は、信頼できない。


 それに、誰が敵で誰が味方かもわからないこの状況。考えたくないが、この一件にリーダが関わっていることも、充分にあり得る。


 ……もし、シュベルトが生きてくれていたら……



「いや、考えても仕方ない」



 彼は、もういない。彼なら信頼に足る人間だが、いない人間のことを考えても、仕方ないことだ。


 彼の、王族の婚約者であった、アンジェリーナ・レイならばどうだろうか。……信頼はできるが、彼女の立場も今や微妙な位置にある。


 信頼できる人物としてアンジェリーナや、シュベルトのお付きであったリエナ。それにミライヤの友達であるリィとも、合流したいところではあるが……



「みんな、ヤークを助けたくないの!?」


「そんなことないわ。ただ、慎重に動かないと、私たちも殺されてしまうかもしれない」



 痺れを切らしたヤネッサの言葉に、アンジーが冷静な言葉を投げかける。その内容に、ヤネッサは……いや、一同は息を飲んだ。


 敢えて口にはしなかったが、そういうことなのだ。何者かがヤークワードを犯人に仕立て上げようとしている。


 それを助けようとするということは……なにをされても、おかしくない。



「現に、旦那様は……」


「っ……」



 ミーロが、悲痛な表情を浮かべる。


 それに気づいたアンジーは、ハッとして頭を下げた。



「す、すみません! 私……」


「いいのよ、あの人が殺されたのは事実。気を遣わないで。それより、私にとっては、今生きている子供のほうが大事」


「奥様……」


「ミーロ様……」



 きっと一番つらいのは、彼女だ。夫を殺され、その犯人に息子が仕立て上げられているのだから。


 だが、そのつらさを見せない。その強さは、まさに"癒しの巫女"と呼ばれるに堂々たる、姿であった。



「とにかく、ここから移動しましょう。また、誰が来るともわからないわ」


「そうですね」



 今外にいる人たちは、アンジーの魔法で眠ってもらっている。だが、いつまでもここに留まるわけにもいかない。


 また、人がやって来るかもしれない。それに、今寝ている人たちも、いつ起きるとも分からないのだ。



「でも、どこに……それに、ここに留まるのも危険ですけど、移動するのもそれはそれで、危険ですよ」


「うーん……確かに」



 今後の方針をめぐり、キャーシュが不安げに漏らす。確かに彼の言うことも、一理ある。


 道に迷ったら動かずその場に留まれ、とはよく聞く言葉だが、この場合でも同じようなことが言えるだろう。


 移動すればそれだけ、誰かに見つかり危険にさらされる可能性が増す……だが、この場に留まれば、少なくともこの中になだれ込んでくることは、ないだろう。



「だったら、やっぱりヤークを助けに行こうよ」



 思い悩み、会話が途切れたところで……はいはいと、手を上げるのはヤネッサだ。


 彼女の言葉に、しかしアンジーは軽くため息を漏らした。



「アンジー、さっきも言ったように、事は慎重に……」


「でも、どっちみちヤークを助けるなら、時間が経てば経つほどこっちには不利になるはずだよ」


「む……」



 先ほど却下した意見、それを再度わかりやすく話そうとするが、思わぬヤネッサからのカウンターに、アンジーは押し黙る。


 なるほど、彼女の言うことも一理ある。ヤークワードが、どこかに囚われ監禁されているとして……その場所には警備が、必ずいるはずだ。


 今は、ヤークワードが犯人として祀り上げられてから、さほど時間が経っているわけではない。きっと敵さんも、やることが多くて慌ただしくなっているだろう。


 だが、時間が経てば……それだけ、ヤークワードの警備の目も、厳しくなるだろう。



「警備の目が粗いのは、むしろ今がチャンス、か」


「そうそう!」



 もしかしたら、敵も同じことを考えているかもしれない。ヤークワードを助けようとする者がいるとして、それは周到な準備を終えて、来るはずだと。


 だから逆に、即効で動く……敵の考えの、逆を行く。



「今なら国中が混乱してる。この混乱に乗じれば……」


「うん、ヤークを助けられる!」



 人々の中には、ヤークワードを助けるためだけではなく、ただ単純に野次馬根性でヤークワードを捜している者も、いるだろう。


 そういう連中に混ざれば、動きも不審には見られないだろう。



「ヤネッサちゃんの言うことは、正しいかもしれない。こうして話し込んでいる間にも、ヤークが……」



 気丈に振る舞っていても、やはり心配なのだろう。


 ミーロは、ヤネッサの言葉に賛同する。



「ただ、この人数で動くとなると、目立つんじゃないかしら」


「それなら、おまかせを。魔法を使えば、人々から私たちの認識をずらすことができます」


「認識を……ずらす?」


「はい。そこにいても、すぐに私たちだとはわからなくするものです」



 移動手段も、アンジーの魔法により解決。認識のずらしとは、あまりいい思い出がないが、ノアリとミライヤはそっと呑み込んだ。


 ヤークワードを捜すのも、ヤネッサの力があれば可能だ。


 ヤークワードを助け出す……それだけの、目的だ。この場にいるのは、ノアリ、ミライヤ、ミーロ、キャーシュ、アンジー、ヤネッサ……


 戦力としても、決して悪くはない。



「じゃあ……今から行きましょうか。ヤークを、助けに!」



 しばし考えた後の、ノアリの言葉。それに反論する者は、ひとりとしていなかった。

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