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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

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壊れるかもしれない関係性



 ヤークワード・フォン・ライオスによる、『勇者』ガラド・フォン・ライオスの殺害……それは一気に、周囲へと広がっていった。


 国中に放送されているのだ、当然と言えば当然だが……



「いた!」



 この広い国中から、あてもなく捜し人を見つけ出すのは難しい。


 だが、ノアリにはひとつの予想があった。そして、その予想が的中した結果、目的の人たちを見つけることができた。



「おばさん! キャーシュ!」


「! ノアリちゃん……」



 目的としていた場所……ヤークワードの実家だ。


 そこに、彼の母親でありまた"癒しの巫女"とも呼ばれている、ミーロ・フォン・ライオス。さらに、ヤークワードの弟であるキャーシュ・フォン・ライオス。


 彼の家族が、そこにはいた。



「わ、わ! "癒しの巫女"様に、弟君(おとうとぎみ)! わ、私緊張します!」


「あはは……」



 本当ならば、もっとましな状況で会わせてあげたかったのだが……事態が事態だ、仕方あるまい。


 2人とも、不安げな表情を浮かべている。



「ノアリちゃん、どうしてここに……」


「いると思いました。ここは、家族の思い出の場所だから」



 ヤークワードにとって、そして家族にとって、ここは大切な場所のはずだ。


 それに、ノアリにとっても……幼い頃から、遊んでいた場所だ。



「姉様、兄様が……それに、父様が……」


「大丈夫よキャーシュ、きっとなにかの間違いだから……」


「……姉様?」


「あははは今はいいじゃないそんなこと!」



 ヤークワードとの付き合いが長ければ、当然キャーシュとの付き合いも長い。なので親しいのはわかるが……


 ノアリは、キャーシュに自分のことを『姉様』と呼ばせていた。


 それをミライヤに突っ込まれ、誤魔化すように笑い声をあげる。



「あら、そちらは……」


「あ、み、ミライヤと申します! や、ヤークさ……ヤークワード様とは、同じクラスでして……その、へ、平民、で……」



 ミライヤにとって、貴族は憧れだ。中には自分勝手な貴族もいるが、ヤークワードと、会ったことはないがその家族は別だと考えていた。


 それでも、平民だと口にするのは、やはりためらいがあって……



「ミライヤ、ミライヤ……あぁ、前に兄様と姉様がびこむぐ!」


「あははは前に話したことあったわよねーそうよ友達なの!」



 なにかを思い出したように、口を開きかけたキャーシュの口を、ノアリは塞ぐ。ミライヤは首を傾げる。


 ……以前、ミライヤがビライス・ノラムにデートを申し込まれた時。ヤークワードとノアリは、2人を尾行していた。


 その際、ヤークワードとノアリはキャーシュと再会し、事もあろうにキャーシュも尾行に巻き込んだのだ。



「ミライヤには言えないわ……」


「あの、どうしました?」


「いや、なんでもないわよー?」



 ミライヤには、結局尾行していたことは話していない。また、キャーシュには尾行の理由は話したが、結末については話していない。少なくともノアリは。


 ここで、これ以上話をこじらせるのはよくない。



「こほん。とにかく、こっらが私たちの友達ミライヤ。で、こちらがヤークの母親と弟よ」


「ミーロよ、こんな状況じゃなく、もっとちゃんと挨拶したかったわ。ヤークからあなたのことは聞いてたから」


「キャーシュです。僕も、もっとちゃんとご挨拶したかったんですけど」


「い、いえこちらこそ。……私のこと、ですか?」


「えぇ。平民の、とてもかわいらしい女の子がいるってね」


「へっ……」



 実際に、ヤークワードは家族にもミライヤの話はしたのだろう。だがその内容までは、ノアリは知らない。


 が、わざわざかわいらしい、なんて言うだろうか。


 この人ちょっと盛ったな、とノアリは思った。



「……では、互いに自己紹介も済んだところで。その、ヤークのことです」



 手を叩き、みんなの意識を強引に引き戻す。本当なら、こんなほのぼのとした時間をもっと過ごしていたいが……


 そんなわけにも、いかない。



「……ヤーク……それに……」



 場の雰囲気が一変し、ミーロが目を伏せる。


 息子が旦那を殺した……そう、伝えられれば、平静を失って当然だ。


 それでも、まだ平静を保っているように見えるあたり、さすがはかつての勇者パーティーメンバーと言うべきだろう。



「とりあえず、立ち話もなんでしょう。上がって」



 ミーロの提案に、ノアリはうなずいた。今はまだ、周囲に人はいないが……


 被害者と加害者、その同一であるこの家の周りに人が集まってくるのも、時間の問題だろう。


 ここではなく別の場所に移動する手もあったが……今や国中、どこかしらに人がいる。その中を移動するなんて、得策ではない。


 事件の関係者、それも家族など、かっこうの得物なのだから。



「……2人は、よく無事でしたね」



 家の中、リビングに移動し、椅子に座る。ここならば少なくとも、立てこもることは可能だ。


 椅子に腰を下ろしつつ、ノアリは聞く。移動中、それも2人だけなど、人々に見つかってもおかしくなかったのに。



「キャーシュのおかげよ。あの放送が流れた直後に、ここから離れた方がいいって」


「僕と母様があの場に残ったままでは、周囲の人たちに囲まれて動きが取れなくなると思って……ここも、すでに人に囲まれてる危険はありましたが、同時に姉様ならここへ来て、合流できるかと考えて」



 どうやら、放送直後に移動したのも、移動先にこの場所を選んだのも、キャーシュのようだ。それも、ノアリがここに来るであろうことを予測して。


 普段、キャーシュは俺よりも頭が良いんだとヤークワードからのろけ話を聞かされているが……なるほど、あながち間違いでもないらしい。


 ただのブラコンではなかったようだ。



「えっと……もしも、キャーシュ様たちがここに着く前に、人々にこの家を囲まれていたら、どうしてたんですか?」



 恐る恐る、といった感じに、ミライヤは手を上げる。


 やはりまだ、完全に男が苦手なのを克服できたわけではない。しかも相手は貴族だ。


 だが、相手がヤークワードの身内という点が、彼女から怯えを取っ払っていた。



「その場合は、身を隠して地道に探すつもりでしたよ。姉様なら、兄様の味方になってくれると思ったので」


「当然よ!」



 やはり、彼らも味方を探していたのだ。


 まだ真実がわからない以上、いくら身内でもミーロやキャーシュが公に姿を現すのは危険だ。


 だから、なんとか情報を集めて、真実を……



「……2人共、いい?」



 ヤークワードの味方であることを、宣言したノアリ。しかし彼女は、落ち着いた様子で、姿勢を正した。


 その視線の先にいるのは……正面に座る、ミーロ、キャーシュの2名だ。


 その、雰囲気の変わりように……自然、2人は、そして隣にいるミライヤも、固唾を呑む。



「今から私、すごく失礼なことを聞くわ。2人にとって許せないものかもしれない」


「の、ノアリ様?」



 なにやら不穏な前置きをして、ノアリは言う。その先に続くものは、ミーロとキャーシュにとって、よからぬものだと。


 しかし、これを言うのは必要なこと……それをわかっているから、ミーロもキャーシュも、動揺は見せない。



「ノアリ様、なにを……」


「……私は、ヤークを信じてる。ヤークがなにをしても、彼の味方でいるつもりよ」



 改めて……彼の味方だと、ノアリは宣言する。


 それは、ミライヤも同じ気持ちだ。もちろん、ヤークワードが殺人など、まして父殺しなどするはずがないと、そう信じてもいる。



「私はヤークを信じてる、彼がなにをしても彼の味方でいる……それは、変わらない。その上で、2人に聞きたいの」


「……なにかしら」



 先ほどと同じ言葉……三度、ヤークワードの味方でいると、宣言する。


 そして、その上で……ミーロとキャーシュにとって、許せないであろう質問を、する。


 もしかしたら、これまでの関係性が、壊れるかもしれない。……それでも、確認せずにはいられない。











「私は、ヤークが父親を……ガラドさんを殺すという可能性は、あると思ってる。

 おばさん……いや、ミーロさん。それにキャーシュ。

 2人は、どう思ってる?」



 ……彼が、信じているというヤークワードが、父親を殺す可能性がある……


 それをノアリは……曇りなき眼で真っ直ぐと、伝えた……

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