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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第7章 人魔戦争

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エルフ族の結末



 ヤネッサは、自分から言った……ルオールの森林へ、連れて行ってくれと。


 それを受けてクルドは、当然躊躇したという。当然だ、自分の故郷が、仲間たちが燃えたその跡地を、見に行くなど。


 耐えられるものでは、ない。



「だが、結局はヤネッサの熱に折れてしまってな」



 先ほどと同じ言葉を、クルドは繰り返す。俺たちが気にしていたヤネッサ本人が、行きたいと言うのだ……それを止める権利は、誰にもない。


 ここからルオールの森林まで、人の足では一週間くらいはかかるだろうか。だが、それもクルドに乗せてしまえば、数分と掛からない距離だ。


 だから、ここで時間の問題は、解消される。



「それで……どう、だったのですか?」



 一瞬の沈黙、それを割ったのはリーダ様だ。こうして、エルフの森の現状を見てきたと報告があった以上、それを正確に知る必要がある。


 クルドが一歩、前に出る。



「結果から言うと……凄惨、としか言いようがない」


「……それは……」


「誰も、いなかった」



 うつむくヤネッサは、苦しそうな表情を浮かべ、しかし確かに、言った。クルドは心配そうにしていたが、ヤネッサは自分の口で話すことを選ぶ。


 誰もいなかった……と。



「森は焼失していた。それに……生き残りの生命力も、感じることはできなかった」


「焼失……」



 ……あの森は、かなり大きい。森林なんて言われているくらいだ……その中に、エルフ族の住まう集落を作っている。いや、あれはもはや村と言ってもいい大きさだ。


 それが……森ごと焼失、なんて。



「しかし、森が焼失して二次被害は起こらなかったのかね?」



 貴族のひとりが、聞く。二次被害……そうか、その心配もある。


 あんな大きな森が焼失するくらいだ、燃え広がった炎がどこまで被害を拡大させるか……



「……森を燃やし尽くした炎は、消えていた。皮肉な話だが、おそらくは結界のせいだろう」


「結界の?」


「あぁ。ルオールの森林には魔力封じの結界が張られていたと……(まぞく)は言ったんだったな。その結界が、内側で燃え上がる炎を抑え、必要以上の被害を防いでいた……ということだ」



 魔力封じの結界……それによって、エルフ族は魔力を使うことが出来ずに、なぶり殺しにされた。


 だが、その結界のおかげで被害は必要最低限に抑えられた……魔族にとっての、必要最低限。なんて、ふざけた話だ。



「くそっ……」



 エルフの森は焼失し、生き残りも……いない。ジャネビアさんも、エーネも、他のみんなも……! なんで、あの魔族はこんなことを!?


 ふと、クルドの視線を感じた。俺が首を動かすと、視線をそらされた。



「……クルド、どうかしたか?」


「いや、なんでもない」



 それは、確実に言いたいことがあるという、顔。いや……言っていいのか、悩んでいる顔と言うべきか。それは、遠慮……というものだろうか。


 クルドが俺に、遠慮?


 気にはなるが……だが、クルドが言うべきか言うべきではないかと悩んでいるのだ。俺が、とやかく言うべきじゃあない。



「そうですか……この国に住んでいるほとんどのエルフ族は、ルオールの森林を故郷にしていると聞きます」



 悲痛な面持ちで、リーダ様は口を開く。故郷を失った彼らに、いったいどのようにして真実を伝えればいいのかと。


 ……だが、今現在。本来この国に住んでいるエルフ族の半数以上は、すでにこの国にはいない。



「エルフ族の大多数は、私と同じようにルオールの森林に帰ってる。だから……」



 騎士学園を避難場所にして、度々思っていたことだ。ここにいるエルフ族の数が、異常に少ないと。


 別の場所に避難しているのかとも考えたことはあったが……そのほとんどが、ヤネッサと同じようにルオールの森林に帰っていた。いや、おびき出された。


 あの魔族の手によって。



「っ……助け、られなかった」


「ヤネッサ……」



 ヤネッサの表情は、暗い。故郷を、仲間を……奪われたのだ。それも、目の前で。


 燃える森から、ただひとりだけ、命からがら逃げ延びた。本当は、ひとりでも助けたかっただろう……実際に、行動に移したのかもしれない。だが、結果としてヤネッサは誰も助けられなかった。


 その無念は、考えただけでも胸を掻きむしりたくなるほどだ。もしかしたら、助けようとして、みんなから逃がされたのかもしれない。


 その真実は、ヤネッサにしかわからない。が、今の彼女から聞くことは、できなかった。



「なんにしても、これでルオールの森林確認へ送り込む人員を割く必要は、なくなったというわけですな」


「!」


「終わった話を蒸し返しても、仕方ないでしょう。悔やめば森が元通りになるとでも?」



 先ほどルオールの森林に人員を割くのを良しとしない意見を出していた男が、口を開く。その内容に、ヤネッサはうつむき、場の空気がピリつくのを感じた。


 ……男の言っていることは、内容だけなら正しいのだろう。確かにここでいくらエルフのみんなに想いを馳せようが、みんなが帰ってくるわけではない。


 それをあんまりだと感じてしまうのは……俺が、エルフ族と深く関わっているからか?



「えー……残っているエルフ族たちには、ボクから説明をします。みんな、まだ眠ったままですが」



 険悪になりかけた空気を、リーダ様が切り替える。


 どうあれ、ここで俺たちがエルフ族のことを考えても仕方ないのは事実だ。



「その、未だ眠っている人たちは、いつ起きるんですか?」



 貴族のひとりが、誰に言うともなく聞く。それを受けて、答えられる者はいなかった。


 だから、俺は別のことを、ヤネッサに聞く。



「ヤネッサ、結界は……魔力封じの結界は、どうなってる?」


「! そういえば……なくなってる、かも」



 それを聞いて、場に安堵の空気が流れる。結界が消えたということは、時同じくして眠ってしまった人たちも時期起きる可能性が高い。


 それに、エルフ族が起きれば、傷ついた人たちを魔法で癒やせる。魔力は、もう使えるのだから。

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