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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第7章 人魔戦争

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バカげた話



「ヤネッサ……!」



 入り口に立つヤネッサの姿に、安堵したような胸が締め付けられるような、そんな複雑な感情が渦巻いた。


 ヤネッサは、目の前で故郷を、仲間を焼かれて……怒りのままに、魔族に挑んだ。その結果、深手を負い気を失っていたのだ。


 それはある意味で、救済だったのかもしれない。あのまま怒りに囚われ、暴れていたら……ヤネッサは……



「……大丈夫、なのか?」



 だから俺は、2つの意味で、問いかけた。傷口の具合、そして精神的な意味で。



「うん、大丈夫」



 そう答えたヤネッサは、果たしてどちらの意味で答えたのか……それとも、2つの意味で、大丈夫だと答えたのか。


 ヤネッサは一瞬、俺に微笑みかけた後……リーダ様へと、視線を向ける。



「話が聞きたいなら、私はちゃんと話すよ。見たままを」


「……いいんですか?」


「うん。これも、必要なことだから」



 ヤネッサは、別に強がっているわけではない……のだとは、思う。まだ傷跡も癒えていないだろうに。俺たちのために。


 それから、後ろのクルドを見上げた。



「それと、さっきの話聞こえちゃったんだけど……ルオールの森林へは、もう行ってきたんだ」


「え」


「我なら、すぐに飛べるからな」



 なんてこった……俺たちが不毛な言い争いをしている間にも、ヤネッサはクルドに乗って、すでにルオールの森林の状況を見てきたのか。


 そうか、クルドならば、人間の足よりも運搬用のモンスターよりも、断然速い。



「2人とも……」


「我は止めたのだがな。……ヤネッサの熱に、押されてしまった」



 ヤネッサは空いていた席に座り、周囲を見渡した。彼女らしくなく緊張した様子だったが、いくつか深呼吸を繰り返して、強く目を開いた。


 そして、ヤネッサは話し始める。俺がクルドにヤネッサを預けてから、なにがあったのかを。



 ………………



 魔族の生命活動停止を確認したクルドは、一息をついた。



「ふぅ……それにしても」



 気を抜くには、まだ早い。クルドの中には、魔族の言い残した言葉が、引っかかっているのだ。


 ……ヤークワードを怒らせるためだけに、この国とエルフの森を巻き込んだ……



「そんな、バカな話……」



 そんなもの、ありえない。たったひとりを怒らせるために、国を、村を、巻き込んだというのか?


 そんなもの、ただの妄言。最期の時まで、こちらを混乱させるための、妄言だ。そんな言葉に、振り回されてどうする。


 ……だが、その言葉には、どこか真に迫るものがあった。



「……だと、すれば……」



 もしも魔族の言葉が本当だとして……ここで、ひとつ、恐ろしい考えがよぎってしまう。


 魔族は、この国の混乱の時を見計らって、攻め入ってきたと言っていた。国王不在且つ次期国王の立場も複雑で、国民も国自体も混乱している、この瞬間を狙って。


 考えたくはないが……それも、魔族の計算だとしたら?


 ……つまり……だ。この国の混乱も……国王の不在も……第一王子であったという、ヤークワードの友達の死も……すべて、仕組まれていたとしたら?



「……っ!」



 そこまで考えて、クルドは自らの片手で顔を覆う。人の手ではクルドの覆うには至らないが、竜族の巨大な手はたとえ人の姿をしていても人のものと比べると大きなものだ。


 バカバカしい、なにを考えているのだ。だいたい国王の死は老化によるものと聞いている。それは、国民全員に向けて発表された事実……


 ……そう、死因は老化だと、発表されただけ……では、ある。


 シュベルトの死についても、殺人であることはわかっているらしいが、事件が発生して半年経った今でも、犯人は捕まっては……



「う、ん……」


「!」



 その時だ。膝に頭を乗せていたヤネッサ、彼女が意識を取り戻したのは。


 意識を取り戻してくれたことにほっとする一方、実は先ほどの魔族の言葉を聞いていなかっただろうかと、ひやひやする。


 ……ヤークワードを怒らせるためだけに故郷を、仲間を燃やされたなど。たとえヤークワードが無関係であろうと、心中穏やかなものではないだろうから。



「ヤネッサ……今、起きたか?」


「んぅ、クル、ド……うん……」



 実はすでに起きていて、いかにも今起きました……という風を装っていないだろうかと警戒しながらも、冷静に分析する。先ほどまでは確かに、意識は感じなかった。寝たふりなど、していなかった。


 ここで「もしかしてさっきから起きていたか?」なんて聞いたら、それこそ不審に思われるだろう。だからクルドは、極めて冷静に、話をする。



「安心しろ、ここはもう安全だ」


「……っ、あの、魔族は……」


「ヤークが倒した」



 気を失う前のことを思い出したのだろう、ヤネッサは立ち上がろうとする。しかしクルドはそれを押さえ、ヤネッサの疑問に答える。


 その証拠だと言わんばかりに、首と胴が離れ横たわる、魔族の姿を指さして。



「ぁ……」



 それを確認し、ヤネッサの体から力が抜けていくのを感じた。当然だろう。殺したい憎んでいた相手が、自分が気を失っている間に死んでいたのだから。


 悔しいのか、それとも怒っているのか。その心中は彼女にしかわからない。……だが……



「そっか……ヤークが……」



 そう、言葉を漏らすヤネッサの声色は、どこか優しく……柔らかな、表情を浮かべていた。


 場合によっては、自分の手で殺したかった、とヤークワードにあらぬ怒りを向ける可能性も考えていたが……その心配は、なさそうだ。


 それにしても、憎しみに囚われていた表情をしていたというのに、今はなんと穏やかな顔をしているのだろう。眠って落ち着いたのか、それとも……



「……ヤネッサ?」


「! ああ、うん、なんでもないよ。なんでも」



 声をかけただけで、ヤネッサは肩を跳ねさせる。そこまで驚かせたつもりもないのだが……


 慌てたように、パタパタと手で自分を扇いでいたヤネッサだが……次第に落ち着きを取り戻し、真剣な表情になって、クルドに向き直り……告げる。



「ねぇ、クルド……お願いが、あるの」


「……お願い?」


「私を、ルオールの森林まで連れて行って」



 まだ深い傷が残る、己の故郷へ……連れて行ってくれと。躊躇することなく、ヤネッサはクルドに頼んだ。

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