異常な力
なん、だろう……体の奥から、力がみなぎってくる、感じがする。
意識は、ちゃんと、はっきりしている……
「なんダカ、わかラないけド……これ、ナラ……!」
「……ふふふ」
魔族は、意味深に笑っている。余裕の表れか、それとも余裕がないゆえのものか……
とにかく、この力が……消えてしまわないうちに、さっさと……
「カタを、ツけル!」
「来なさい!」
俺と魔族の剣とが、ぶつかり合う。ガギンッ……と、激しい音を立てて。
不思議だ、もちろん全力のつもりだが……先ほどよりも、楽に押し返せる。渾身の力を入れようと踏ん張っていたのが、嘘のように。
それに……体の、動きも……
「おぉおおお!」
体が、軽い……? あの魔族が、俺の剣撃を捌くので精一杯じゃないか。
この調子なら……! 刻んでいく切り傷も、魔族にちゃんと通用している。もしかして、俺もノアリやミライヤのように、未知の力にでも目覚めたのだろうか?
あまり考えたくはないが、『勇者』として力を付けたガラドの息子だから、俺にもそういった力が受け継がれているとか。それとも、『癒しの巫女』であるミーロの方か?
……ま、なんでもいいか。これなら……
「お前ヲ……殺シて……!」
「あぁ、いい、いいですね! なるほど……あはははは!」
だんだんと、魔族の方が押されていく。なのに、魔族は楽し気に笑うばかり。
とはいえ、俺の攻撃だけが魔族を刻むわけではない。魔族の斬撃も、俺に確かに、掠って傷を与えていく。
……その度に、力が増していく。そんな、気がして。
「るぅあぁアあァああ」
「っ……!」
突き出した剣先が、魔族の胸元に突き刺さる。深く刺さったわけではないが、そのまま押し込み……建物に背中を押し付けて、剣先を押し込んでいく。
「ぬ、ぐ……」
「これデ……!?」
そして、俺は見た……魔族を追い込んでいる建物、その窓に映った自分自身の姿を。
窓に映り込んだ、俺の右目は……なぜだか、黒く、燃えるように揺らめいていた。
「なん……これ……」
「ふっ」
「!?」
自分の身に起こった異変。それに驚いて出来てしまった隙を突かれて、魔族に蹴り飛ばされる。剣を離すことはなかったが、魔族の胸元に突き刺さっていた剣先も抜けてしまった。
「あれでも、まだ、動く力あるのかよ……」
「言ったでしょう。人間とは体の作りが違うと」
手応えは、確かにあった。なのに……血さえも、流れていないのか。
魔族でも、傷つけば血は流す。だが、この魔族は確かに切り傷を与えていっても、そこから血は流さない。こちらの攻撃がちゃんと届いているのか、不安になる。
「ちっ……」
「ふむ……今の自分の姿を見て、少し冷静さを取り戻した……と言ったところでしょうか」
「……?」
構える俺の姿を見て、なにかを考え込むように唸り……そして、言う。分析が完了した、とでも言わんばかりに。
魔族には、今の俺の状態がどういった状態なのか、わかっているというのか? 片目が燃えているような、この状態を……
「考え事をしていても、いいのですか?」
「!」
少し、意識を別の方向に傾けた……その隙を見逃さないとでもいうように、魔族の剣が眼前に迫っていた。
振り下ろされる漆黒を、寸前で横に避けてかわす。少し、反応に遅れた髪の毛が、千切られた……!
「先ほどの勢いは、どうしました……!?」
「っ……」
迫る漆黒が、俺の視界をギリギリに掠めていく。まずいまずいまずい、さっきとは立場が逆転した!
しかも、魔族の放つ剣圧が、俺に微かながらダメージを与えていく。下手をしたら、吹き飛ばされてしまいそうだ。
「ぐっ……!」
ドゴッ……と、腹部に強烈な衝撃が走る。漆黒の、刃ではない部分……平たい部分が、俺の腹部を打ち付けた。
鈍器のように重たい一撃、たまらず膝を付いてしまう。
「げほっ……!」
いけない、こんな無防備な姿を晒しては……すぐに、立ち上がって、それから……
「ぁ……」
動く首を、動かす。顔を上げ、そこには……漆黒の剣を振り上げる、魔族の姿。そこには、ただ殺意があるのみ。
あ、だめだこれ……死……
ヒュッ……カンッ!
「っ?」
振り下ろされた漆黒の刃……それは俺の脳天目掛けて振り下ろされていたが、狙いがブレたかのように、すぐ真横に振り下ろされた。
地面を、抉る。
「む……今のは」
俺には、見えた……魔族も、気づいたようだ。俺を狙っていた刃、その刀身に、なにかが衝突し……わずかに軌道がズレたのだ。その結果、俺の脳天を狙っていた剣撃は、横にブレた。
いったい、なにが……? 視線をずらすと、剣撃をブレさせたそれが、落ちていた。
……矢だった。
「これ、は?」
なぜ、矢がこんなところに? これが、俺を助けてくれたのか。
方向的に、矢が放たれたのは……あっちか。首を、動かす。
建物の上に、人の影があった。
「……ヤネッサ!?」
そこにいたのは……いくら探しても見つけることのできなかった、ヤネッサがいた。矢を構えた状態で……
……その目から、涙を流していて。
「え……?」
涙を流すヤネッサは、2発目の矢を構え……それを、魔族に放つ。しかし、不意をついていないそれは簡単に弾かれてしまう。
それを見た、ヤネッサは……
「見つけた……魔族……! うぅ、殺す……殺してやる!」
3発目の矢を取り出し、それを構えるでなく、握りしめて……魔族に対しての憎悪を叫びながら、一気に飛び出してくる。
助走をつけて飛び出してきたヤネッサ、その手に持った矢の先端を魔族へと突き放ち……魔族は漆黒の剣で、迎え撃った。




