それぞれの状況
「とりあえず、気を失ってなかった人たちは、一箇所に集まってもらっている」
「他にもいたんですね、やっぱり」
「気を失った人たちと比べれば微々たるものだがな」
戻ってきたガラドから、学園内の様子を聞く。ほとんどの人たちは中庭の奥の方に集められており、校舎には入っていなかった。建物内に集めたほうが、都合がいい気もするが……
そんな中で、突然たくさんの人たちが気絶したので、気を失わなかった人たちはひどく怯えていたという。
それは当たり前だろう。なんせ、いきなり人が次々に倒れていくのだ。それは恐怖以外のなにものでもない。
「それで……こ、こちらは?」
「あぁ……紹介します。こっちは、竜族のクルド」
「クルド……竜族……」
俺とクルド、ガラドはノアリを端に寝かせ、話し合う。そんな中で、ガラドはクルドへと視線を向ける。
俺と親しくしているから、味方だと判断したようだ。そして、名前を聞いたガラドはなにかを考え込むようにして、「あぁ!」と手を叩いた。
「『呪病』事件のときに、ヤークがお世話になった!」
「覚えておられたか」
「当たり前です!」
ガラドとクルドは、直接の面識は……あったかな。竜王の血を手に戻ってきたとき、ノアリを早く治すために俺は、戻るやすぐに家の中に駆けていった。
その時に、クルドとヤネッサも着いてきてくれていた。
「その件は、大変お世話になりました。あのときは、ろくなお礼もできずに申し訳ない」
「なぁに、気にすることはない。我がヤークに力を貸したのは、ヤークの必死さに胸を打たれたからだ」
一応面識はあった2人は固く握手を交わす。ふむ、こうして2人を見ているというのも、なんだか不思議な感じだ。
「それで、クルド。こっちが俺の父上のガラド」
「ガラド・フォン・ライオスです」
「クルドだ」
挨拶もそこそこに、状況の整理に移る。
俺が見たもの、ガラドが見たもの、そして来たばかりのクルドにも情報を共有する意味で、必要なことだ。
「じゃあまずおさらいも兼ねて、事の始まりから……」
クルドへの説明、そして自分たちの整理として、起こった出来事を始めから話していく。
いきなり国中に魔族が出現したこと、俺とガラドはなんとか逃げたこと、学園にたくさんの人が捕まっていること、ノアリが戦っていたこと、途中竜の血で暴走したこと、時間を気にして魔族は撤退したこと、俺はノアリを止めるために対峙したこと……
「そこでクルドが来てくれなかったら、どうなってたかわからなかったよ」
「ふむ……そうか」
クルドは、魔族と突然現れた竜族の気配を感じ取り、ここに来てくれたと言っていた。
魔族が現れたことは、事前に知っていたはずだ。
「ヤークがノアリちゃんを止めている間、俺は学園内に入った」
次に話すのは、ガラド。触りしか聞いていないので、詳しい話を聞かせてもらおう。
「中にいたほとんどの人は、気を失っていた。……ミーロや、キャーシュもだ」
「! 2人共!?」
捕まっている人たちの中には、やはり母上であるミーロと、弟であるキャーシュがいた。2人も、気を失っているのだという。
気を失っている人たちを移動させるのは骨が折れる。なので、ガラドは気を失わなかった人たちを、集めることにした。
「とりあえず、一箇所に固まってもらっている。ミライヤちゃんも、そこにいる」
「ミライヤ……よかった」
聞きたかった名前が出てきて、安堵する。しかも、ミライヤは気を失わなかったらしい。
気を失った人間、気を失わなかった人間……その違いは、なんなのか。
……だがまあ、その理由を考えるのは、後だ。
「じゃあ……ヤネッサは、どっちですか? 気を失ったのか、失わなかったのか」
「……ヤネッサちゃんは、見つけられなかった」
「! 見つけ……られなかった?」
母上、キャーシュ、ミライヤ……居場所の知れなかった、俺の大切な人たち。その中に、ヤネッサもいるのだ。
だが……ヤネッサの姿は、学園内には、なかったという。
「もちろん、学園内をくまなく探せたわけではない。大きな音が気になって出てきたしな。だが……いるなら、俺の声に返事をしてくれても、いいはずだ」
ガラドは、先ほどのクルドのパンチの凄まじい音で、学園内から出てきた。あの短い時間では、学園内をすべて見て回ることは無理だろう。
だが、ガラドはきっと、気を失わなかった人を探すために声を張り上げたはずだ。誰かいないか、いたら返事をしてくれ……と。
ヤネッサとガラドは、知らない仲じゃない。交流が多いとは言えないが……この状況だ、ヤネッサじゃなくても知り合いの声には反応するはず。それに、ヤネッサは耳がいい。
「……ヤネッサ……」
ヤネッサのことだ、心配はいらない……と思いたいが、状況が状況だ。そう悠長なことも言っていられない。
ひとりで、どこかに隠れている。そう、願うしかない。
「人々を待たせている。どのみちまた学園に入るし、そのときに探してみよう」
「……はい」
一通りの情報交換を終え、俺たちは学園内へと足を踏み入れる。
ノアリは、クルドが担いでいた。




