捕らえられた人々、抗う少女
「……いたぞ」
「……っ」
息を殺し、ガラドと共に移動する。やはり移動中も逃げ遅れた人たちを見つけることは出来ず、ほとんど捕まったと見るのが妥当だ。
そして、俺たちは身をひそめながら、とある場所へとたどり着く。
騎士学園……そこには、複数の魔族が、捕まった人たちを囲うように、立っていた。
「あそこで、当たりだったようだ」
「みたいですね」
ここからでは学園の中まで見ることは出来ない。だが、あれだけ魔族が、なにかを警戒するように身を固めているんだ。
敷地内に、捕らえられた人たちがいる……そう考えた方が、妥当だろう。
「このまま、突入するのは無謀だな……」
と、ガラドは呟く。ただの魔族ならば、俺とガラドであれば倒せる……だが、今見えている範囲にいる魔族だけが、すべてじゃないだろう。
それに、もし人質を取られでもしたら、俺たちには手出しが出来ない。どころか、せっかく逃げたのに捕まりに来たようなものだ。
「なら、どうするか……」
「ヤークは、なにか考えがあるか?」
なぜここで俺に意見を求めるんだ。まあ、単にひとりでも多くの意見が欲しい、ってところだろうか。
「そうですね……やっぱり、今あそこに突っ込むのは、得策じゃないですね」
「だよなぁ」
「とりあえず、他にも誰か捕まっている場所がないか確認するとか……いや、なんとか中の人と連絡を取る手段があれば……」
自分でも、無茶苦茶を言っているのはわかるが……中に捕まっている、誰かと連絡を取ることが出来れば、状況は好転するはずだ。
国を制圧されてしまったのは、魔族の不意をついた襲撃があったからに他ならない。
「内部と連絡か……」
「えぇ」
だが、もしもここにいるみんなで一致団結できれば、魔族を倒せる。個の力では魔族に負けていても、集団としてならば勝てるはずだ。
それに、外と内から一気に攻め立てれば、魔族も困惑するはず。
「なら、これは使えないか?」
「! 魔石、ですか」
これを、と言ってガラドが懐から取り出したのは、魔石だ。手のひらサイズのそれは、不思議な色をしている。赤とも青とも取れる。
これは、連絡用の魔石だろう。確かにこれならば、内々に連絡を取ることが出来る。
「だけど……この結界の中で使えるか、それがわかりませんね」
「……ダメだ、繋がらないな」
「!」
エルフ族の魔力を封じるこの結界の中でも、魔石を使うことが出来るのか……確認するためには、慎重に……
そう思っていたのだが、いつの間にかガラドが魔石を使って連絡を試みていた。なにやってんだこいつ。
結果的に、魔石は使えなかった。それはそれとして、もう少し慎重に事を成してほしい。
「せっかくみんなが捕まっている場所を見つけたのに、歯がゆいな」
「……」
歯がゆいのは、俺も同じ気持ちだ。今すぐにでも、本当なら飛び出した。
あの中には、おそらくノアリやミライヤたちが捕まっている。あの2人が簡単に魔族にやられるとは思えないが……
学園内で事が起こったとして、一対一の勝負ならともかく他に人質を取られれば、為す術はなくなるだろう。
「! おいヤーク、あれ」
「あ……」
ガラドが声を押し殺しつつ、叫ぶ。その視線の先を追うと……
そこには、あの魔族がいた。周りの魔族と色が違う、どこか別格感のある魔族。現に、強かった。
そいつの後ろに、いた。アンジーと先生だ。気を失っているのか、抵抗する様子はない。別の魔族に、抱えられている。
「っ……」
「ヤーク、落ち着け」
「わかって、ますよ」
あの魔族が、アンジーと先生を連れて現れたということは……やはり、ここに捕まえた人たちを集めているのか。
魔族を確認するや、学園の門が開く。門の側にいる魔族と、なにやら会話をしているようだ。
なにを話しているのか……耳に、全神経を集中させる……!
「ヤーク……?」
「しっ」
…………
「見張りご苦労様です。先ほど2名ほど逃がしまして……しかし、この場所を突き止めれば、必ずここに来るはずです。警戒を怠らぬよう」
……俺たちがここに来るのは、織り込み済みってわけか。むしろ、おびき寄せたというべきか。
ここに警備が厳重なのは、そのためなのか……ならば、他の場所は……?
「それと、まだ何名かは我々の手を逃れ、隠れているはずです。見つけ次第、ここに捕らえておくように」
「!」
俺たち以外にも、逃げている者がいるのか……ここに来るまでは、見つけられなかったけど。
……いや、隠れてるってことはどこかに身を潜めているってことだ。だから簡単には見つからなくても、当然か。
「ちょっと! あんたたちこんなことして、タダで済むと思ってるの!?」
「!?」
「おいヤーク、この声」
続けて聞こえてきたのは、俺のよく知っている声。耳をすまさずとも、ガラドにまで聞こえる声。
ここからじゃ姿は見えないが、声の主が誰かはわかる……ノアリだ。
「おや、元気がよろしいですね……っと」
「ふん!」
まるで、噛みつくように現れたノアリは、手首を縛られているにも関わらず、動いている。魔族に突っ込み、逆に頭を押さえられても。
あいつ、あんな状態で……
「やれやれ。足も縛っておくべきでしたか」
「この……いきなり現れて、私たちを捕まえて……なにをしようってのよ!」
「元気なのは結構。あなたのような若い労働力こそ、我々の欲するものなのですよ」
「っ……」
魔族は、ノアリを押さえたまま、いつの間にか手に持っていた漆黒の剣をちらつかせる。
それを、一閃……俺が反応するよりも速く、ノアリの体は斬られた。




