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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第7章 人魔戦争

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殺し合いのその先に



 俺とアンジーは、魔族と対峙する。


 魔族と対峙するのは、この体では初めて。転生前の時点でも、一対一で対峙した経験はない。そもそも、ガラドたち仲間に任せていた。


 ……仲間、か。



「いかんいかん」



 今は、余計なことを考えている時ではない。集中すべきは、目の前の魔族だ。


 奴らは、たった2分でこの国を制圧すると言った。正直、誰もかれも助けようなんて、殊勝な心がけは俺にはない。


 だが、放っておけばこいつらは、アンジーだけでなくノアリやミライヤたちにも手を出すだろう。簡単にやられるとは思えないが……


 なんにしても、こいつらの好きにさせるわけには、いかないだろう。



「……いい闘気です。私に対する敵意、いや殺意ですか……実に、いいですよ」


「その余裕ぶった口、今すぐ塞いでやる!」



 俺は、その場から踏み出し、魔族に斬りかかる。真上からの、一閃だ。


 それを魔族は、片手で受け止めた。まるで、俺の動きが見えているというように……タイミングバッチリで。



「く……」


「片手で、これほどの威力を……なるほど。日頃から鍛えている、というわけですか」



 そうだ、俺は片手でも戦えるよう、あらゆる想定をして鍛錬をしてきた。さすがに、片手首の骨が砕けた状態で、鍛錬したことはないが。


 すべては、さらなる強さを持って……あの男を、殺すため……



「ほほぉ、伝わりますよあなたの気持ちが。……これは、心の奥底に隠した、憎しみの感情」


「!」


「これほどまでに、日頃から鍛え……いったい、誰を斬るおつもりで……」


「はぁああああ!」



 まるで、魔族は俺の心を覗きこんでくるような、言葉を告げる。その内容に、少しの動揺が生まれてしまう……


 が、そこへ割り込んでくるのは、アンジーの気合を入れた一撃。魔族の死角となる部分、右斜め後ろから脚を伸ばす。


 脳天をかち割るだろうほどの威力を持つ、かかと落とし。それは、吸い込まれるように魔族の頭へと直撃して……



「気配を消したつもりでも、不自然に姿を消せば警戒しますよ」


「!」



 そう言って、魔族は俺の剣を受け止めているのとは逆の手で、アンジーの足首を掴んだ。見えていないはずの位置にある脚を……まるで、背中に目でもついているかのよう。


 だが、アンジーの攻撃は終わらない。脚を止まられるのは想定済みと言わんばかりに、ジャンプし、逆の脚を魔族のわき腹に蹴り込む。


 今度は、防御されてはいない!



「っ……いい、威力です。ですが……」


「ぁ……」



 魔族は、少しだけよろめく。……少しだけだ。


 そのまま、アンジーの足首を掴んだまま彼女を振り回し……投げ飛ばした。


 俺に、ぶつける形にして。



「きゃっ」


「うぉ!?」



 アンジーの体が衝突し、2人もろとも吹っ飛ばされてしまう。いくらなんでも、片手で成人女性を振り回すとか、無茶苦茶だ。



「も、申し訳ありません、ヤーク様」


「いや、なんてことない。それより、アンジーの蹴りでも、あの程度か……」



 魔族の追撃を受ける前に、素早く立ち上がり、構える。正直、今の一撃にかなり期待していたんだが。


 アンジーの身体能力は、かなりのものだ。彼女の蹴りは、大岩さえも砕くのを以前見たことがある。それ以来、彼女には逆らうまいと思ったものだ。


 それを、易々と掴み、受け止めるあいつの体が異常なのだ。



「ワンパターンですね。それとも、それに意識を集中させていて、別のやり方で私の(きょ)を突く作戦ですか?」


「……っ」


「実に気になるところですが……申し訳ありません。リミットが近づいてきたようです」



 淡々と、魔族は言う。


 リミットとは……さっき自分で言った、2分のことを言っているのだろうか。



「自分で、2分で制圧すると言っておいて、実行できなかったら……実に格好のつかない話になるので。お二方に付き合うのは、ここまでです」


「なにを…………っ!?」


「ぇ……」



 魔族が、腰を落とす……その直後だ。隣にいたアンジーが、後ろへと吹っ飛んでく。


 なんだ……今、なにが起きた? あいつになにかされたのか? でも、あいつはあの場から動いていないぞ。


 ……いや、今のは、かすかに見覚えがある。そう、あれは転生前の記憶……あれは……



「魔法か!」


「おや、一度見ただけで見破られてしまうとは」



 なにも、今のが見えたわけではない。それに、見破ったわけでも。ただ、知っていたのだ。


 転生前の世界、対峙した魔族が……同じようなことをしていたのを。思い出したのだ。



「その通り、これは魔力を凝縮させ、エネルギーの塊として飛ばしたものです」


「手が……」



 見れば、奴の右手は黒く染まって……いや、黒いなにかに覆われていた。あれが、魔力……


 魔力を手に纏わせ、斬撃のように見立てたってところか。それも、目に見えないほどの速さで、手を振り抜いて。



魔力(ざんげき)を、飛ばしたのか……!」


「あなたも剣を扱うなら、斬撃を飛ばすことくらいわけはないでしょう?」



 言って、再び魔族は腰を下ろす。あれは、よく見れば剣の構えと同じだ。右手を剣に、見立てている。


 落ち着け。さっきは、いきなりのことだった。あれがどういうものか、俺は知っている。


 落ち着いて、見れば、対処できるはずだ! 俺も、同じように腰を下ろし……剣を、鞘に納めた。



「はっ」



 見ろ、見ろ、見ろ。魔族の動きを。手を振り抜くタイミングを。


 そのタイミングに合わせて、俺も剣を一気に引き抜く……っ。


 我竜の太刀……!



「"竜の息吹"!」



 振り抜いた剣から放たれるのは、斬撃……というよりは、剣圧だ。だが、確かに振り抜かれた剣から放たれたそれは、相応の殺傷力を持つ。


 魔力の斬撃と、剣圧……それらは衝突し、互いに拮抗した後消滅した。



「……ほぅ」



 魔族が、感心したように声を漏らす。



「素晴らしい。私の攻撃に合わせ、あなたもタイミングよく攻撃を放った。目が良いのですね、誰にでもできる芸当じゃない」


「ちっ……」



 本当なら、奴の魔力を打ち破って、攻撃を加えたかったんだが……うまくは、いかないもんだな。


 しかし、魔法ってのは敵に回ると厄介だな。なにをしてくるかはわからない。思えば、セイメイも魔力を使ってはいたが、腕を治したり身体能力を向上させたり。


 なにをしてくるかわからない超常的な力は、攻撃の選択肢が増えてやりにくい。



「しかし……いいのですか? 私にばかり集中していて」


「あぁ? 別に、他の奴らのことは……」


「あのエルフより大事ではない、でしょう。私が言っているのは、そのエルフのことですよ」



 魔族の言葉に、俺は弾かれるように後ろを見た。敵から視線を外すなんて、言語道断だ……だが、嫌な予感がした。そして、俺は見た。


 ……アンジーに迫る、別の魔族の姿を。



「申し訳ありませんね。どうやら周辺の人間の始末はあらかた片付いたようで……はぐれたうちの一体が、こちらまで来てしまったようで」


「アンジー!!」


「ですが、これも戦い……否、殺し合い。卑怯などと言いなされるな。恨むなら、己の力のなさを、恨むのですな」



 ダメだ……間に合わない、ここからじゃ! 手を伸ばしても、魔族がアンジーを手にかける方が、ずっと早い……!


 嫌だ、やめろ……俺はもう、二度と大切な人を、失いたくは……



「アンジー!!!」



 ……ズシャッ……

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