変わりゆく王国
……あの事件から、早いもので半年の時間が流れた。
ゲルド王国、第一王子……いや、元第一王子シュベルト・フラ・ゲルドの死去。その訃報が知らされてから、国の動きはいっそうに大きなものになった。
その直前に、国王の死去、シュベルトの弟リーダ様の次期国王任命など、騒ぎは大きかった。だが、シュベルトが亡くなったという訃報は、国の騒動にさらなる混乱を巻き起こした。
シュベルトの死因は、毒殺。犯人は未だ捕まっていない。第一発見者は俺たちであり、またその目撃情報から犯人は女の子である可能性が高い。
当時、俺たちも疑われたが、その後の調べで解放された。犯人とおぼしき女の子は姿をくらまし、また女の子という情報しかないため、捜査は難航を極めているようだ。
「……」
一時は、リーダ様の暗躍が囁かれた。邪魔な兄シュベルトを貶め、第一王子の座から引きずり下ろした男……そのタイミングも相まって、疑いの目は彼にも向けられた。
だが、証拠はない。それに、貶めるのが目的ならすでに目的は達成されている。また、あの状況で殺せば、私が殺しましたと言っているようなものだ。
リーダ様なら、そんなことはしないだろう。なにより……兄弟で、殺しがあったなどと……思いたくも、ない。
だが、やっていないという証拠がないのもまた事実。なので、リーダ様は次期国王且つそのカリスマ性は健在でありつつ、兄殺しの疑いが完全には晴れていない、微妙な立場になった。
「ヤーク様、大丈夫ですか?」
「え? ……あぁ、大丈夫……とは、言えないかな」
隣を歩くアンジーが、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。いかんいかん、余計な心配をさせてしまった。
シュベルトが亡くなって、半年……俺たちが一番に見つけたのに、シュベルトが亡くなっていることにはすぐには気付けなかった。ずっと、眠っているだけと思っていた。
実際に、眠るように死んでいたなんて、気付くこともなく。
あれから、短くない時間が過ぎた。俺の心には、まだポッカリと穴が空いたようだ。それに、彼女たち……特に、アンジェさんとリエナは、深い悲しみを抱いた。
時間が解決する……なんて言葉をどこかで聞いた。だが、そんなに簡単なものではない。大切な人を失った気持ちは、いつまで経っても晴れることはないだろう。
「やはり、シュベルト様のことですか?」
「うん……半年も、経ってるのにな」
「時間など、関係ありません。悲しいのは皆同じです」
アンジーには、やはりお見通しのようだな。
シュベルトと仲良くしていた俺たちだけでなく、他にもシュベルトの死を悲しんでいる者はいる。特に、シュベルトと関わりのあった、同じ組のみんなとかだ。
騙されていたことはショックだが、だからといって死んでほしかったわけではない。そういった意味でも、悲しみを抱く者も多い。
「アンジェリーナ様も、リエナ様も、難しい立場になってしまいましたね」
「……そうだな」
シュベルトの婚約者であった、アンジェさん。彼女は、シュベルトの出自をもちろん知っていた……知っていて、家族の反対を押し切り彼と婚約したのだという。それは、アンジェさんの親にとって面白くないものだっただろう。
だが、今回の件をまるで幸運だと言わんばかりに、アンジェさんの親はアンジェさんに、別のお見合い相手を紹介していった。まだ、心の傷も癒えていないアンジェさんにだ。
シュベルトの侍女だったリエナは、仕える主を失い、別の王族に仕えることになる。リエナの事情はよくは知らないが、シュベルト個人が亡くなればお役御免、というわけではないらしい。
リエナにとっては、シュベルト個人に仕えているつもりであっても、現実としては王族に仕えているのだ。リエナの意志で、どうこうできる問題じゃあない。
「……友達が死んでも、素直にそれだけ悲しめないなんてな」
「……仕方ありません。立場の、難しい方ですから」
俺だけではない、ノアリもミライヤも、心を痛めている。そんな2人は、同じ女の子同士ということもあってか、最近はアンジェさんやリエナと一緒にいることが多い。
以前は休日には、2人と行動することが多かったが……今の状況を、寂しくないとは言えない。だが、俺よりも寂しさを覚えている人たちがいるのだ。
助けになれるなら、なんとかしたい。
「……」
アンジェさんやリエナの立場、次期国王リーダ様の扱い、亡くなったシュベルトの扱い……なんの問題も解決しないまま、新たな問題ばかりが増えていく。
国中が混乱している今なら、俺の目的も果たしやすい……ガラドの命を、狙えるのではないかと思っていたが。
とても、そんな気分には……
「失礼、少々よろしいか」
「! は、はい……」
ふいに、声をかけられた。背後からのそれに、少しだけ驚いてしまう……人の気配を、感じ取れなかったからだ。
だが、考え事で頭がいっぱいだった。そのせいで、他のことに気を回せなかったのだと思うことにして、声の主を確認するために振り向いた。
「なにか、用で……!?」
振り向いた先にいたのは……思わず、言葉が詰まってしまうほどに、変わったいでたちをした人物だった。
そこには、ひとりの男……だろうか……がいた。男だと判別しにくいのは、その全身が、鎧のようなものに覆われているから。ただ、声だけで男だと思っただけだ。
全身を鎧に包み込んでいる……それも、顔まで。兵士なんかは、鎧を着ていることはある。だが、顔まで隠れているというのは、見たことがない。
しかも、顔を隠してる……仮面、と言えばいいのか。それはまるで骸骨のような見た目をしていた。ただの骸骨ではない、頭の左右から角が生えている。
なんというか……初対面でなんだが、不気味だ。
「……」
「……あの?」
その人物は、俺たちと向き合ったまま、なにも答えない。徐々に、警戒の気持ちが高まり……アンジーも、構えている。俺も、腰の剣に手を伸ばして……
「……え?」
目の前の人物が、動きを見せる……その動きに、俺は間の抜けた声を出してしまった。アンジーも、唖然としてる。
なぜ、そんな反応をすることになったのか……それは、当然とも言える。なぜなら……
その人物は、まるで……かしずくかのように、その場に、膝をつき、頭を下げたのだから。
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魔族の角、というか顔は、バッファローみたいなイメージを持ってもらえれば!




