次なる国王
……次の日……事件は、なんの前触れもなく起こった。
「ヤーク、シュベルト様も! ちょっと早く!」
「な、なんだよ……」
朝、いつも起きる時間……しかし、今日はそれよりも早く、目が覚めていた。正確には、目を覚ませられた。
なぜかというと、今俺とシュベルトを引っ張っているノアリの存在だ。ノアリはいきなり、部屋の扉をどんどん叩いて訪問してきた。
その騒々しさに目が覚め、さっさと扉を開けないと蹴破るぞ……と脅された俺たちは、着替え、ノアリに言われるまま歩いていた。
まだ寝惚け眼な俺には、ノアリの大声は頭に響く。だが、ノアリの表情はあまり見たことがない……いや、見たことはあるが、それはいつも嫌な場面の時だ。
『魔導書』事件が、記憶に新しい。青ざめているわけではないが、それに近しい険しい表情。それだけでも、ただ事ではないことが起こっていると、わかった。
「あ、お二方……!」
ついた先は、食堂。ここに来た理由は、朝食を食べるため……ではもちろんない。いつもなら、そうだが。
食堂には、ミライヤを始めたくさんの生徒たちがいた。それも、ある一点を見つめて。
彼らの視線を、辿る。そこにあったものは……
『……私は、過ちを認める』
「なっ……」
「ち、父上……?」
食堂の壁に、大きく映し出された老人の顔。その顔を見た瞬間、隣にいたシュベルトが目を見開いた。
それもそのはずだ……なぜなら、そこに映し出されていたのは、シュベルトの父。つまり、この国の現国王なのだから。
「なんだ、これ……なあ、どうなって……」
「わから、ないわ。突然、映像が映し出されて……」
これは……リーダ様が利用していた、投影魔術。あれに似ている……いや、あれを国王も利用しているのか?
ということは、この映像は食堂だけでなく、あちこちで放送されているってことだろうか。
「けど、いったい……」
「しっ」
『……繰り返す。以前、我が息子リーダが言っていたことは、真の事実であると、認める。第一王子として扱っていたシュベルトは、我が第一子ではないと』
「……は?」
それは……王が、過ちを認めている場面だった。リーダ様の言葉を認めるものとして、シュベルトの出自を誤魔化していたことを、認めていたのだ。
だが、なんでこのタイミングで? 今まで肯定も、否定もしなかったのに……
よりによって、国王本人が肯定だと? それは誰が言葉を語るより、真実に溢れている……俺たちにとって、都合の悪いものであろうとなかろうと。
「しゅ……」
「……」
シュベルトの反応を伺う……話しかけるのもためらわれるほどに、彼の表情は青ざめていた。
国王への疑念……それを国王本人が肯定したことで、もうどうすればいいのかわからなくなってしまった。
「シュベルト様……」
「……」
そこへ、神妙な表情を浮かべたアンジェさんとリエナが近寄ってきた。2人とも、もう体は大丈夫なのか……そんなこと、気にしてもいられない、状況だ。
シュベルトだって、いきなりこんなことになって、どうすればいいのか、わからないだろう。
『ついては……』
「おい、国王がまだなにか……」
「!」
国王の話は、まだ終わっていない。次になにを言おうとしているのか、注目しているのは俺たちだけではない。
その口から紡がれる言葉を、聞き逃さないように、しっかりと注視して……
『第二王子であったリーダ……それを真なる次期国王とし、これよりリーダを第一王子として扱う』
「……!?」
それは、予想もしていなかった……こんな形で、発表されるとは思わなかった、言葉。
シュベルトが本当に次期国王としての資格がないのでは、とわかっていた時点で、予感していなかったと言えば嘘になる。
それでも、まさかこんな形で……
「リーダ様が……」
「次期、国王……?」
生徒たちの中にも、動揺が走る。当然だ……こんな展開、すぐについていけるわけがない。
その後も国王は、なにか言っていたが……あまりに衝撃がでかすぎて、あまり頭に残っていない。
放送が終わり……全員の動揺を残したまま。今となって、この場に留まるのは危険な気がして……俺は、シュベルトをつれて離れようとして。
「……!」
……生徒全員の視線が、注がれているような、感覚があった。




