命王との決着
ダメージが激し過ぎて、動かなかった体が動く! これも、ノアリとミライヤがセイメイ相手に、時間を稼いでくれたおかげだ。
2人になにが起こったのかはわからないが、今確実にセイメイを押している。そして……この機を逃したら、もう同じような展開は訪れないだろう。
だから、ここで決める……!
「小僧ぉおおおおお!!!」
「おぉおおおおおお!!!」
俺はセイメイの前に飛び出した。今セイメイの両腕はない、ノアリとミライヤにそれぞれ斬られたからだ。
奴の魔術ならば、斬られた腕も元に戻せるはず。どうしてそれをしないのか、それはわからない。
その理由を考える、そんな暇もない。今はただ、この剣で奴を斬ることだけを考えろ……!
俺の力じゃ、たとえ一太刀浴びせても、たいしたダメージにはならないかもしれない……
「だったら……!」
一太刀がダメなら、無数に斬撃を打ち込めばいいだけのことだ。
……我竜の太刀……!
「"竜星群"!!」
握り締める剣は、大振りの構え。そこから一気に剣を振り下ろし、セイメイの体に傷を与える……しかし、それで終わりではない。
振り下ろした剣、それを今度は振り上げる。さらに、振り上げた剣を下に、上に、または横薙ぎに……何度も何度も、剣で斬り刻んでいく。
「ぐっ、ぬぅうう……!」
「おぉおおおおおお!!」
剣による乱打……いや、乱斬。力の限り、対象に何度も斬撃を叩き込む。
これで、終わらせる。これで決めろ……もう二度とチャンスは来ない。だから……
「これで……」
渾身の力を込めて、剣を振り上げる。残った自分の、全ての力を込める……残った体力も気力も、全部くれてやる!
……刹那、自分の中からなにか、自分のものではないなにかが流れ出したような気がして……
「"竜馬"!!」
右上から、斜め一線にかけての斬撃を放つ。セイメイの右肩から左わき腹にかけて、深い傷が刻まれた。
その瞬間、俺はその場に膝をついてしまう。今の一撃で、力を全部使い切ってしまったせいだ。
「は、はっ……」
だが、待て……まだセイメイは、倒れていない。まだ、まだ……
「カ、カ……やってくれるのぅ、小僧」
「!」
なんとか顔を上げると、そこには身体中に傷が刻まれながらも、不敵な笑みを浮かべるセイメイがいた。うそだろ、あれだけやっても……
おまけに、俺が刻んだ無数の切り傷は、あっという間に再生していく。あれだけ、必死に打ち込んだものが、全て……
……最後に刻んだ、一太刀を除いて。
「……?」
「ぬ……やれやれ、主もか。参ったのぅ」
なぜ、傷が治らないのか……もしかして、腕のも含め治せない、のだろうか。だとしたら、なぜ?
それに、なんで最後の一太刀だけ……
「いやぁ、見事じゃよ、見事。危うく敗けるところじゃったよ」
「!」
「じゃが……ここまでのようじゃの」
見れば、ノアリも、ミライヤも、すでに倒れてしまっている。意識があるのかさえも、わからない。
俺ももう、倒れないようにするのが精一杯で……動けそうに、ない。
「……く、そ」
「誇るがよい。儂にここまでの手傷を負わせたのじゃ」
両腕がなくても、セイメイにとっては目の前の命を摘み取ることなど簡単だ……
もはやこれまでだと、覚悟を決め、目を閉じた。結局、俺の目的も果たせないまま、こんなところで……後悔が、心中を渦巻いていく。
「……誇ったまま、潔く死……」
「"封"」
……そんな、時だ。どこからともなく、声が聞こえたのは。
「む……こ、これは……!」
その直後、セイメイが驚きを含んだ声を漏らす。なにが起きたのか……ゆっくりと、目を開けた。
そこには、セイメイが立っていた。だが、先ほどと違うところがある……金色に光る、縄のような細長いものが、セイメイの体を縛っていたのだ。
それを、セイメイはうっとうしく見つめ……しかし、もがくばかりで魔術を発動しようとしない。
「いやあ、皆さんお疲れ様です」
「……主か」
困惑する俺たちの前に姿を現したのは……今までその姿をどこかに隠していた、リーダ様だった。
その顔には笑顔を貼り付け、まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のようにうきうきしているのがわかる。
……これをやったのは、リーダ様、なのか?
「リーダ様……」
「すみません、ヤークワード先輩たちを囮にする形になって……けれど、これでセイメイはもう、なにもできませんよ」
「……魔力を封ずる術か。なかなか器用な真似をするものじゃな」
……どうなっているんだ。リーダ様が、俺たちを囮……? それに、魔力を封じる術って……セイメイを縛っている、縄のことか?
魔力封じ……セイメイが、魔術を使えないのも、そのためか。
「もがいても無駄ですよ。縄のようにしなやかですが、硬度はとてつもなく硬いですから」
「……じゃろうな。まったく、儂としたことが……このようなものに、捕まるとは」
「そのために、先輩たちのお力をお借りしました。まあ、ここまで追い詰めてくれるとは、思いませんでしたが」
どうやら……俺たちはリーダ様にいいように使われてしまったようだ。彼の姿が見えなかったのも、セイメイが弱った機会をうかがうためか。
そのために、あんな……いや、過程はどうあれ、リーダ様の魔力封じってやつがなければ、死んでいたのはこっちだ。
「主の協力者は、思った以上に優秀なようじゃな」
「あれ、これを用意したのがボクじゃないってわかるんですか?」
「当然じゃ。人間ごときが、魔力を封ずる術など持つものか」
「はは」
リーダ様の協力者……例の、高度な魔力持ちのエルフか。そいつが、あれを用意したと。
セイメイの魔術を封じるなんて、やっぱりすごいエルフなんだな。
「カカッ、敗けじゃ敗けじゃ、完敗じゃ。……が、儂をどうする。勝者の行いに口を挟むつもりはないが……消滅でもさせるか?」
「さあ、どうでしょう」
セイメイが今後どうなるのか……俺としては、『魔導書』事件の件の罪をしっかりと償わせてほしいところだ。あいつが余計なことをしなければ、ミライヤの家族は……
……あ、まずいな。気が抜けたせいか……だんだん、意識が、ぼーっと、してきて……
なんだか、眠く……
…………
……




