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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第6章 王位継承の行方

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ミライヤの体に訪れる変化



「あれ、私、飛ばされたはずじゃ……」



 先ほどの状態とは違い、今度はしっかりミライヤの意識はある。フラフラしているのが、心配だが。


 頭が痛いのだろうか、手を当てている。だが、そうすると頭から流れている液体が付着するわけで……



「え、なにこれ……血!?」



 手にべっとりと付着するのは、血だ。ミライヤは、頭から血を流している。それに、全身だって傷だらけじゃないか。


 なのに、先ほどの動きはいったいなんだったんだ。



「ミライヤ、リエナはどうした?」


「え、リエナさん……? いえ、見てないですけど……あれ、シュベルト様!? アンジェ様も! どうしてここに!」



 ……ミライヤを探しに行ったはずのリエナ。しかし、ミライヤは見てないという。どうなってるんだ?


 それに、ミライヤは自分の体になにが起こったのか、わかっていないようだ。本人に聞いてもわかるまい。



「……小娘、主、何者じゃ?」


「へ?」



 そして、わからないのは俺たちだけではない。どうやらセイメイも、同じらしい。


 直接剣を交えたからこそ、感じた違和感があるのだろう。普段のミライヤを知らなくても、あれはおかしいと。



「何者って……た、ただの平民ですが」


「生まれは? この国か?」


「い、いえ。別の国で……私を生んでくれた両親が殺されて、今の両親に引き取られて、この国に」



 なにかを確かめるような、セイメイの問い。生まれ……それが、なにか関係があるのだろうか。


 ミライヤの過去は、本人の口から以前聞いた。本当は別の国で生まれて育っていたはずが、盗賊に襲われ、両親を殺された。その際、貴族が助けてくれてミライヤは貴族に憧れを持つようになったのだと。


 ミライヤは、生みの親も、育ての親も亡くしている。ミライヤは、もうひとりぼっちなのだ。



「なるほど……その、生みの親に、もしくはその先祖に変わったところはなかったか? 他の人間よりも頑丈だとか、人間にはないものが生えていたとか」


「し、知りませんよ!」



 なんだ、セイメイはなにを確かめたいんだ? ミライヤの出生に関わることを聞いて、どうするつもりだ。


 それとも、ミライヤが実はすごい所の出で、遺伝的なすごさが備わっているとかか?



「ふむ……なるほど、確かめるには主の体に聞くのが、一番早そうじゃ」


「!」



 セイメイが剣を構える。ミライヤに、なにかしらの興味を持ったようだ。


 このままでは、ミライヤが集中的に狙われかねない。そう、覚悟して……ふと、この場にいない人間がいることに気づいた。元々ミライヤを迎えに行ったリエナ、ではない。



 ガキィン!



「あら」


「あ、アンジェさん!?」



 いつの間にか消えていたアンジェさん、彼女はセイメイの背後へと移動しており、背中に剣を突く形で放っていた。


 しかし、それはセイメイによる見えない壁で阻まれる。完全に死角だったはずだが、それは予想の範疇だったというのか。



「やれやれ、背後は生物の死角じゃ。そこになんの対策もしていないわけなかろう」


「アンジェ!」


「ちょ!」



 その姿に、シュベルトが走り出す。抜き身の剣を右下に構え、助走を勢いに乗せている。


 しかし、仮にも第一王子が、そんな危険な真似をしないでほしい。王族に傷なんかついたら、俺罰せられるんじゃ!?



「カカッ、元気がいいのぅ」


「くっ!」



 上に斬り上げられる形で振り上げられたシュベルトの剣は、いとも簡単にセイメイの剣に止められてしまう。激しい、剣と剣のぶつかり合いだ。


 前後をシュベルトとアンジェさんに挟まれているセイメイだが、その顔は余裕を浮かべたままだ。



「よし、俺たちも……」


「やれやれ。今用があるのは、その小娘なんじゃがな」


「!?」



 その瞬間、まるで心臓をわしづかみにされたかのような……強烈なプレッシャーが、襲ってきた。なんだ、これ……今まで感じていたプレッシャーとは、別次元のものだ。


 どうやら、ノアリも、シュベルトも、アンジェさんも、同様にプレッシャーを感じている。ミライヤだけが、無事のようだ。



「あれ……リーダ、様は?」



 ふと、リーダ様がいないことに気づく。さっきまではいたのに、どこに……



「他者を心配している暇があるのか?」


「!」



 ……強大な力が、目の前に立っている。それは、まるで死そのものが、体現してそこにあるかのように。


 一瞬、目を離しただけだ。それだけの時間で、シュベルトも、アンジェさんも、ノアリも。地面に伏し、倒れている。


 あの状況で、一瞬で3人を……



「が、は……っ」



 いや、俺を含めて4人……腹部に、鈍い衝撃が走る。セイメイの拳が、めり込んでいる。


 重い、一撃……たまらず、膝を付いてしまう。しかしそれまけでは終わらない。



「っぶ!」


「ヤーク様!」



 頬を、思い切り蹴られる。その衝撃で、奥歯が抜けてしまった。白い歯と、赤い血が地面に転がる。


 俺はその場に、力なく倒れる。



「ヤーク様! ノアリ様、シュベルト様……アンジェ様!」


「さあ、見せよ。先ほどの力を!」



 かろうじて動く首で、ミライヤの姿を見た。セイメイは剣を振りかぶり、ミライヤに振り下ろす。重い一太刀が、無常にもミライヤに放たれて……



 ギィン……!



「く……!」


「ぁ……」



 ミライヤの頭に届く直前、止まった。いや、止められた……割り込んできた、別の剣によって。



「リエナ、さん?」


「くっ……」



 リエナだ。リエナが、ミライヤへと放たれた一太刀を受け止めていた。


 しかし、力の差は歴然。リエナは足が震え、立つのもやっとの状態へと追い込まれていく。



「次から次へと……邪魔じゃ!」


「く、はっ!?」


「リエナさん!」



 剣を受け止めることに集中していたリエナの胴体は、がら空きだ。そこに、セイメイの鋭い蹴りが、食い込む。


  横腹に、つま先がめり込むようにぶつかり、彼女を地に倒す。吐血は、していない……が、それがどれほど致命的な打撃か。明らかだ。



「り、リエナ……!」



 俺と同じく倒れているシュベルトは、かろうじて意識を保っている。リエナがやられたことに、悲痛の叫びを上げる。


 その様子を、なんでもないかのようにセイメイは素通りして……



「おらぁあああ!」


「!」


「の、ノアリ!?」



 そのセイメイの背後から、さっきまで倒れていたはずのノアリが斬りかかる。しかしそれは、防御されるまでもなく簡単に避けられてしまった。


 勢いあまって空振りしてしまったノアリは、そのままセイメイに向き合う……ではなく、リエナへと駆け寄っていく。



「リエナ、リエナ!」


「……なぜ、動ける?」



 倒れたリエナに呼び掛け、その体に触れる。すると、ここからでもノアリの顔色が変わっていくのが、わかった。


 血の気が引くとは、まさにこのことを言うのだろう。次いで彼女の口元に手をかざし、その後ノアリはリエナを仰向けにして、胸元に耳を当てる……



「……心臓が、動いて、ない……」


「!?」


「ぬ、勢いが強すぎたか? 殺すつもりはなかったんじゃがのぅ」



 ノアリの、震える声で告げられた言葉は……信じがたい、ものだった。そして、それを聞いたセイメイは、残念そうにしているがそれだけ……といった風だ。


 あいつ……リエナの命を奪っておいて、それだけ……



「リエナァ!!」


「シュベルト……」



 シュベルトは、倒れたまま怒りの形相を浮かべ、なんとか立ち上がろうとする。しかし、気持ちとは別に体は、動いてくれない。


 俺も、先ほどの打撃が相当効いたのか、首以外を動かせない。くそっ……こんな、ときに……



「すまぬのぉ。じゃが、主ら命のやり取りをしとるのではなかったのか? それとも、自分たちは死なぬ自信があったとでも?」


「っ……」


「ぬるいのぅ。やはり、この時代は」



 セイメイの生きていた時代……それはきっと、日常的に命のやり取りが行われるような、時代だったんだろう。そう考えると、そもそもの価値観が、違うのだ。


 だが……セイメイに仕掛けたのは、俺だ。リエナはただ、シュベルトに着いてきてくれただけ。まったく関係がない。なのに……



「う、うぅ……は、はっ……」


「み、ミライヤ?」



 ふと、ノアリが困惑の声を上げる。それは、ミライヤの苦しそうな声によるものだ。



「はっ、ぅ……はぁ、はぁ……」


「ちょっとミライヤ! どうしたの、しっかり……」


「人、が……死ん……また、私の、前で……死……はぁ、ぅあ……!」



 胸元を押さえ、たどたどしく呟くその言葉。それは……1年前の、『魔導書』事件のことを思い出しているのだろうか。両親が目の前で殺された、あの日のことを。


 それが、リエナが死んでしまった衝撃で、よみがえった……?



「いや、もう、誰かが死ぬのは…………いやぁああああ!!!」


「きゃっ!?」



 突如、ミライヤの叫びに呼応するように、大気が揺れる。これは比喩……なのだろうか、それとも、実際に揺れているのだろうか。


 さらに、ミライヤが一瞬、激しく光る。思わず目を閉じてしまい……再び目を開けると……



「……ミラ、イヤ?」



 ミライヤの体は、わずかに光っていた。そして、体の周りは、パチパチとなにかが弾けるように、音が響いている。


 それは、電気だ。目に見えるほどの、細いが確かな電気が、パチパチとミライヤの体から(ほとばし)っている。


 あれは……なんだ? ミライヤの剣を、あの居合いを……まるで雷みたいだと、表現したことはある。けれど……



「あれじゃ……」



 みたいじゃない。本物の、雷じゃないか……

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